株式市場は大局的には実体経済と連動して推移します。経済が成長している国や地域では株式市場も上昇基調となり、経済が停滞している国や地域では株式市場も下落基調となるのです。
特に、実体経済とかけ離れて株式市場だけが盛り上がっている状態は「バブル」と呼ばれ、いずれ実体経済に見合った水準まで株価は下がることになります。
このように、株式市場の全体像を把握するときは、実体経済とどれくらい連動しているかを確認する必要があります。
その際に役立つのが「バフェット指数」です。そこで今回は、バフェット指数の概要や株式投資にバフェット指数を活用する方法について解説していきます。私のように中長期の視点で株式投資をしている人にとっては重要な指標なので、概要を理解しておいてください。
バフェット指数の計算式
まずは、バフェット指数の計算式を確認しておきましょう。バフェット指数は以下の計算式で算出することができます。
「国の」という言葉が付いているとおり、バフェット指数は国ごとに算出される指数です。日本であれば、「日本の株式時価総額」と「日本の名目GDP」を用いて計算します。また、アメリカであれば、「アメリカの株式時価総額」と「アメリカの名目GDP」を用いて計算します。
株式時価総額や名目GDPについて、以下に詳しく解説していきます。
株式時価総額とは
株式時価総額とは証券取引所に上場している株式会社の時価総額をすべて合計した値です。時価総額は「株価×発行済み株式数」で計算されるため、株式時価総額は、「さまざまな会社が発行している株式をすべて買い占めるのに必要な金額」といいかえることができます。
日本の株式時価総額は日本取引所グループのホームページに掲載されています(下記リンク参照)。
驚くかもしれませんが、日本の場合、東京証券取引所第一部(東証一部)に上場している企業だけで、日本全体の96%もの時価総額を占めています。そのため、「日本の株式時価総額 = 東証一部の株式時価総額」と考えて問題ありません。
また、アメリカの株式時価総額は「ウィルシャー5000TMI(Total Market Index)」という値を使います。
ウィルシャー5000TMIは、米国のウィルシャー・アソシエイツ社が算出する値で、ニューヨーク証券取引所、アメリカン証券取引所、ナスダック市場で取引される米国のすべての企業の時価総額から算出されています。
ウィルシャー5000TMIはアメリカ版Yahoo!ファイナンスで確認することができます(下記リンク参照)。
アメリカ版Yahoo!Finance Wilshire 5000 TMI
名目GDPとは
続いて、名目GDPについて解説していきます。
GDP(国内総生産)という言葉は聞いたことがあると思います。GDPとは、「国内で1年間に生産された付加価値(企業などが得た利益)の合計」です。
「GDPが増加=企業の利益が増加=国民の生活水準が上昇」という関係が成り立つので、GDPの増減はその国の経済成長や国民の生活水準を反映していることになります。
また、GDPには名目GDPと実質GDPがあります。それぞれ以下のような意味があります。
- 名目GDP:国内で生産された付加価値(≒利益)の合計
- 実質GDP:名目GDPから物価変動の影響を補正した値
例えば、1年前と比べて名目GDPが5%上昇したとします。ところが、物価も同じく5%上昇していた場合、国民の生活が豊かになったとはいえません。物価上昇の影響を差し引くと、実質的にはGDP成長率は0%なのです。
このように、名目GDPから物価変動の影響を補正して算出されるのが実質GDPになります。
ただ、バフェット指数の計算に使うのは「名目GDP」なので、物価変動も含めて計算することになります。なお、各国の名目GDPは「Trading Economics」というウェブサイトで確認することができます(下記リンク先のGDPの単位は「billion dollar 10億ドル」です)。
バフェット指数の意味
バフェット指数の計算式は「株式時価総額÷名目GDP」でした。
株式時価総額は、そのときの株式市場の状態によって変わります。株式市場が過熱気味で多くの投資家が株を買っているときは、企業の株価が上昇するため株式時価総額は大きくなります。逆に、多くの投資家が株式を売っているときは、企業の株価が下落するため株式時価総額は小さくなります。
このように、株式時価総額は投資家の心理や投資意欲によって大きく変動します。
一方、名目GDPは投資家の心理や投資意欲の影響を受けません。名目GDPは実体経済によって決まる値なのです。
そのため、株式時価総額と名目GDPを比較する(=バフェット指数を算出する)ことによって、その国の株式市場が実体経済からどれくらい乖離しているか把握することができます。
バフェット指数の目安は以下のとおりです。
バフェット指数 | 株式市場の状態 |
---|---|
100%以上 |
・株式時価総額が名目GDPよりも大きくなっている状態。 ・株式市場は全体的に割高。 |
60%以下 |
・株式時価総額は名目GDPの半分くらいになっている状態。 ・株式市場は全体的に割安。 |
このように、バフェット指数の数値を確認するだけで、株式市場の過熱感を把握することができます。ここに書いた数値は一つの目安として覚えておきましょう。
日本とアメリカのバフェット指数
それでは実際に過去のバフェット指数を振り返ってみましょう。まずは日本のバフェット指数の推移です。
日本では、1990年のバブル崩壊前と2008年のリーマン・ショック前に、バフェット指数が100%を超えていました。この2つの金融ショックは日本の株式市場に甚大な被害を与えましたが、その直前に株価はすでに割高な水準に達していたのです。
一方、米国に端を発するITバブルの崩壊前は、日本のバフェット指数は90%前後でした。100%を超えてはいませんでしたが、100%付近に近づいている時期だったことがわかります。
続いて、アメリカのバフェット指数の推移です。
日本のバブルが崩壊した1990年頃を見てください。バブル崩壊前の日本のバフェット指数は140%を超えていましたが、その頃のアメリカのバフェット指数は50~60%くらいだったのです。つまり、日本で発生したバブルはあくまで日本国内だけで発生したものだったということが読み取れます。
一方、2000年のITバブル崩壊や2008年のリーマン・ショックが発生する直前、アメリカのバフェット指数は100%を超えていました。これらはいずれもアメリカ発祥の金融ショックですが、金融ショックが起こる前のアメリカ株式市場ではバブルが発生していたことがわかります。
このように、日本とアメリカのバフェット指数は異なります。また、世界経済の中心であるアメリカのバブル崩壊は世界中に波及する可能性があります。そのため、私たちとしては日本のバフェット指数だけでなく、アメリカのバフェット指数も確認しておくことが重要なのです。
株式投資にバフェット指数を活用する方法
ここまで述べてきたように、バフェット指数は株式市場の割高・割安を把握する上でとても役立つ指標です。特に、バフェット指数が100%を超えているときの株式市場は過熱気味なので、いずれ株価は下落局面に入ることが予想されます。
ただ実際は、「バフェット指数が100%を超えてからすぐに下落する」というわけではありません。株式相場がいつ下落局面に入るかは誰にもわからないのです。
そのため、私自身はもう一つの指標として「アメリカ国債のイールド・カーブ」も同時に確認して、さまざまな確度から株式市場の状態を把握するようにしています。
バフェット指数が100%を超え、アメリカ国債のイールド・カーブが景気後退局面に入ることを示唆しているときは、株価の下落に備えておく必要があります。具体的には、以下のような対策を取るとよいでしょう。
- 信用取引(証券会社から借金をして株取引をすること)を控える。
- 投資先は自己資本比率や流動比率が高く、業績のよい企業に絞る。また、株価が下落しても基本的には売却せずに保有し続ける。
- 株価が大きく下がったところで新たに投資できるように、一定の現金を確保しておく。
- 株価が下がったときに投資する企業をあらかじめ選別しておく(2の企業に追加投資してもよい)
1~4はいずれもとても重要な対策です。このような準備をしておけば、株価が暴落しても大きなダメージを受けることはないでしょう。それどころか、株価が回復する局面で大きな利益を得られる可能性があります。
まとめ
- バフェット指数は「国の株式時価総額 ÷ 国の名目GDP」で計算される指数である。バフェット指数を確認することで、株式市場が実体経済とどれくらい乖離しているかを把握することができる。
- バフェット指数が100%以上の場合、株式市場は全体的に割高である。逆に、バフェット指数が60%以下の場合、株式市場は全体的に割安である。
- 日本とアメリカのバフェット指数を確認し、株式市場が割高になっているときは、投資戦略を見直す必要がある。
今回は、株式市場全体の割高・割安を把握するときに役立つ「バフェット指数」について詳しく解説してきました。
バフェット指数は多くの投資家に利用されています。私自身も「アメリカ国債のイールド・カーブ」とともにバフェット指数をよく確認しています。
私のように中長期のスタンスで株式投資をする人は、株価が下落局面に入る前にあらかじめ対策しておく必要があります。大きな損害を回避するためにも、株式市場が全体的に過熱気味のときは慎重に対応するようにしましょう。