「我が家は貯金がたくさんあるから老後も大丈夫」と安心している人がいます。たしかに貯金が多いのはいいことです。しかし、貯金しておくだけで本当に老後の生活は安心なのでしょうか? 

将来のことなので絶対とはいえませんが、私は預貯金だけでは決して安心できないと考えています。今回はその理由について、日本の借金問題を交えて解説していきます。この記事を読むことで、資産運用の重要性を改めて認識できるはずです。

リスクを取らないこともリスクである

日本人は基本的に安定志向です。特に、資産運用や人生のキャリア設計においてはその傾向が顕著です。

資産運用に関していえば、多くの日本人は資産を預貯金の形で保有しています。日本証券業協会が実施した「証券投資に関する全国調査(平成27年度)」によると、株、投資信託、債券などの有価証券を保有している日本人は全体の18.2%です。つまり、約5人に1人しか資産運用をしていないのです(不動産などの資産運用は加味していません)。

この数値は現状とそれほどずれてはいないでしょう。実際、私の親戚の中で積極的に資産運用をしているのは私だけです。あなたの周りも同じような状況ではないでしょうか?

ちなみに、アメリカでは状況が異なります。アメリカでは小学生の頃から投資や金融の勉強をします。そして、約50%の人が何らかの有価証券を保有しているのです。

アメリカとの比較からもわかるとおり、日本人の多くは資産運用にあまり関心がありません。また、「資産運用」や「投資」と聞くと、「詐欺」「良くないこと」といったイメージも根強く残っています。そして、ほとんどの資産を預貯金の形で保有しているのです。

「我が家は貯金がたくさんあるから老後も安心。わざわざよくわからない投資をしてお金を増やさなくても大丈夫。だって損する可能性もあるんでしょ?」これは私が知り合いからいわれた言葉です。

この発言からは「預貯金=安全な資産」という考えが読み取れます。では、本当に預貯金は安全な資産といえるのでしょうか? それを考えるためには、預貯金が金融機関でどのように使われているかを知る必要があります。

あなたの預貯金、年金、保険金は国に使われている

あなたが銀行やゆうちょ銀行などに預けたお金は、銀行の金庫で眠っているわけではありません。

これらの金融機関は、国民から預かったお金で国債や地方債を購入しています。つまり、国や地方自治体にお金を貸し付けているのです。もちろん企業への融資などにも使われていますが、多くのお金が国や地方自治体に流れていると認識しておいてください。

また、年金や保険の掛け金に関しても同じです。これらのお金も金融機関を通じて国債や地方債の購入に充てられています。

このように、あなたが金融機関に預けたお金は、知らず知らずのうちに国や地方自治体に流れています。これは「ほとんどの資産を国債や地方債に集中投資している」という状況です。そして、資産運用において「集中投資」はとても危険な投資手法です。

仮に、ある企業の株式に資産の多くを投じたとします。その企業の業績が良ければ問題ないのですが、業績が悪くなれば株価は下落します。資産価値がたった一社の業績に左右されるため、極めてハイリスクハイリターンな状態といえます。

集中投資が危険なのは株式投資に限りません。国債も同じなのです。特に、経済が右肩下がりの国に集中投資をしておくことは大変危険な行為です。

このように、「リスクを取らずに預貯金だけをしている状態」というのは、ある意味大きなリスクを抱えている状態なのです。そして、多くの人はそのことに気づいていません。

もちろん「企業が倒産する可能性」に比べると「国が破綻する可能性」はかなり低いでしょう。そうはいっても、多くの人が感づいている通り、日本という国は必ずしも安泰な国ではないのです。

日本は少子高齢化の影響で、今後もさらに借金が膨らんでいきます。資産を預貯金の形だけで保有している人は、「借金だらけの人に全財産を貸している」という状況なのです。

このような状況では決して安心できないはずです。次の項目では、日本の借金問題と国の対策について確認していきましょう。

日本の借金問題と国の対策

日本の借金は1,000兆円を超えています。これは、日本の国家予算(約100兆円)10年分に相当する金額です。また、GDP(国内総生産)の約2.5倍に当たります。借金が「GDP比 2.5倍」というのは世界トップです。つまり、日本は世界一の借金大国なのです。しかも、少子高齢化の影響で借金はさらに増えていきます。

一方、日本国民の総資産は約1,800兆円です。日本国民が預貯金を通じて国債を買いまくっているため、日本は破綻せずに持ち応えているのです。

ただ、このまま借金問題を放置するわけにはいきません。国の借金が国民の総資産を上回る日がいずれ訪れてしまうからです。そうならないように、国はさまざまな対策を講じています。

借金問題を解決するためには、「①増税で税収を増やす」「②社会保障費などの歳出を減らす」「③インフレにしてお金の価値(=借金の価値)を下げる」「④預金封鎖をして国民の財産を没収する」などの方法があります。このうち、私たちの預貯金に大打撃を与えるのは③と④です。各項目について順に説明していきます。

①②増税と社会保障の削減

これはわかりやすい対策です。収入を増やして、支出を減らすのです。実際、IMF(国際通貨基金:金融の安定化を目的とした国連の機関)は日本に対して、「消費税 20%」と「社会保障の大幅カット」を要求しています。

増税や社会保障の削減が、国民の預貯金に直接影響を与えることはないでしょう。ただ、これらの影響で国民の生活が苦しくなるのは間違いありません。

③インフレにしてお金の価値(=借金の価値)を下げる

政府な間違いなく日本をインフレ(インフレーション)に誘導しています。インフレとは、「お金の価値が下がること(=物価が上がること)」です。

インフレになると、今まで買えていたものが同じ金額で買えなくなります。これまで1,000円で買えていた日替わりランチが10,000円になるかもしれません。1,000円札の見た目は変わりませんが、その価値が下がってしまうのです。

お金の価値が下がると借金の価値も下がります。1,000兆円という借金の額は同じでもその価値が下がるのです。

インフレに誘導するにはさまざまな方法がありますが、もっともわかりやすい方法はお金を大量に発行することです。松茸が高価なのは採れる量が少ないからです。松茸よりもシイタケが安いのはたくさん採れるからです。それと同じで、量が多いものは価値が下がるのです。

仮に、国が大量のお金を発行して、国民の総資産が10倍になったとします。約1,800兆円の国民の総資産は約1京8,000兆円になります。そうなれば、1,000兆円の借金なんてたいしたことないのです。

これは極端な例ですが、政府はさまざまな手段でインフレにしようとしています。アベノミクスの経済政策である「大胆な金融緩和」はまさにインフレ誘導政策です。

そして、インフレが進行すれば、国民がこれまでに蓄えた預貯金の価値も当然下がることになります。

④預金封鎖をして国民の資産を没収する

預金封鎖とは「銀行などの金融機関がお金の引き出しを制限すること」です。これは昔、日本で実際に行われた政策です。

戦後の1946年、日本の財政が悪化したときに預金封鎖が行われました。そして、預金封鎖をしている間に「通貨切り替え」が行われました。つまり、古いお金を使えなくして新しいお金を発行したのです。

これだけなら何も問題ないように思うかもしれません。しかし実際は、新札と交換するときに多額の財産税が課されたのです。累進課税が適用され、最大90%の財産税が課されました。つまり、最大で預貯金の9割が税金として国に徴収されたのです。

これは国による財産の没収です。これを強行することで、財政を立て直したのです。

このように、日本でも預金封鎖が行われたことがあります。同じことが現代の日本で繰り返される可能性は低いですが、可能性がないとはいいきれません。

資産を守る唯一の方法は資産を分散させることである

上述のとおり、資産を預貯金の形だけで保有することは、「借金だらけの人に全財産を貸すこと」と同じです。

その人は、私たちからさらにお金を徴収したり(増税)、難癖をつけてなかなかお金を返してくれなかったりします(社会保障の削減)。また、借金の価値を下げてしまうかもしれません(インフレ)。最悪の場合、強引に借金をチャラにする可能性もあります(預金封鎖)。

特に、インフレや預金封鎖になった場合、預貯金の価値は大きく下がってしまいます。こういったリスクを考えると「預貯金=安全な資産」とは決していえないことがわかります。

結局のところ、「安全な資産」などどこにもないのです。株式や債券は常に価格が変動しています。実物資産といわれる不動産や金なども値下がりします。

安全な資産はない以上、私たちにできることは資産を分散させておくことです。預貯金だけでなく、外貨建ての有価証券や金などさまざまな形に分散させておくのです。このように資産を配分することを「アセットアロケーション」といいます。

どのようなアセットアロケーションで資産を持てばよいかは一概にいえませんが、さまざまな資産に分散させておくことが資産を守るうえで非常に重要なのです。

「資産運用」と聞くと、どうしても「リスクを取ってお金を増やすこと」というふうに考える人が多いです。しかし、それだけが資産運用ではありません。資産を分散させてお金を守ることも立派な資産運用なのです。

まとめ

  • 私たちの預貯金は金融機関を通じて国や地方自治体に貸し付けられている。そのため、資産を預貯金の形だけで保有していることは、「借金だらけの人に全財産を預けること」と同じである。
  • 日本の借金問題には、「増税」「社会保障の削減」「インフレ」「預金封鎖」などの対策がある。特に、「インフレ」や「預金封鎖」になった場合、預貯金の価値は小さくなってしまう。
  • 安全な資産というのはない。そのことを認識したうえで、「資産をさまざまな形で分散させておくこと」が資産を守る唯一の手段である。

今回は、日本の借金問題を交えながら、預貯金が決して安全な資産ではないことを解説しました。資産を守る唯一の手段は、さまざまな形に分散させておくことです。海外の投資信託やロボアドバイザー(AIが運用してくれる投資信託)などであれば、簡単に分散投資が可能なので、検討してみてはいかがでしょうか?