2017年頃から「ESG投資」という言葉が流行し始めました。2017年に、世界最大級の機関投資家である「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF:日本の公的年金を運用する機関)」がESG投資による日本株の運用を始めたからです。

ただ、私自身はこの流れに乗ってESG投資を行うつもりはありません。そこで今回は、ESG投資について解説した後、私がESG投資を行わない3つの理由を述べていきます。資産運用で着実に資産を増やすためには流行に乗らずに王道を進むことが大切です。

ESG投資とは?

ESGは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の略です。そして、ESG投資とは「企業の環境問題への取り組み」「労働環境や人権問題への対応」「企業の統治体制や取締役の構成」などを指標に投資先の企業を選んで投資することです。

通常、私を含めて多くの投資家は、企業の売上や利益、自己資本比率などの財務指標を参考にして投資先の企業を選びます。

ところが、ESG投資は「環境」「社会」「企業統治」などの財務に関係しない側面から企業を評価するところに特徴があります。

ESGが注目される背景には「ESGが企業の持続的な成長につながる」という考えがあります。たしかに、目先の利益を追求して環境汚染につながるような不祥事を起こしたり、意図的に不正を働いたりする企業に比べると、ESGに秀でた企業は長期的に成長すると考えられます

このように、企業の持続的成長という観点から、ESG投資は注目されるようになってきたのです。そして、ESGを指標に企業を選んで投資をするESGファンドが作られるようになりました。

SRIファンドとの違い

投資信託に詳しい人であれば、「ESGファンドとSRIファンドは何が違うの?」と思うでしょう。

SRIファンドとは2007年頃に流行ったファンドの一種です。SRIには「社会的責任投資(Socially Responsible Investment)」という意味があり、「社会的に好ましくない企業には投資しない」という投資スタンスに特徴がありました。

そして、主な投資対象として「法令遵守を徹底している企業」「環境問題に積極的に取り組んでいる企業」「女性の雇用や役職登用に積極的な企業」などが選ばれていました。


SRIの観点から考えると、軍事産業やタバコ産業のように、社会的には好ましくないと考えられる企業は投資対象から外されます。一方、ESGの場合は、そのような企業でも「環境問題への取り組み」「労働環境や人権問題への対応」「企業の統治体制」が評価されれば投資対象になります。

このように、ESGとSRIには一定の違いがあります。ただ、「ほとんど同じ」と考える人も少なくありません(私もその一人です)。実際、「ESGはSRIの焼き直し」と言い切る専門家もいるほどです。それほど、ESGとSRIは似ているのです。

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がESG投資を開始

ESG投資は主に欧米諸国で注目されている投資手法でした。ところが、冒頭に述べたとおり、2017年にGPIFがESG投資による日本株の運用を始めました

GPIFは日本の公的年金を運用する世界最大級の機関投資家です。その保有総資産は160兆円以上にのぼります。また、国民の年金資産を運用することから、数十年先を見据えた運用を行っています。

このような、巨大かつ長期運用を行う機関投資家がESG投資に参入したことによって、ESG投資は大きく注目されるようになったのです。

私がESGファンドに投資しない3つの理由

ここまでの説明で、ESG投資の概要は理解できたと思います。また、GPIFの参入はインパクトがあるため、ESGファンドに魅力を感じる人もいるかもしれません。ただ、私自身はESGファンドに投資するつもりはありません。その理由について述べていきます。

理由①:SRIファンドとの違いが不明確

上述のとおり、ESGファンドとSRIファンドはかなり似ています。そのため、私自身は「なぜESGという新しいブームが生まれたのか?」と疑問に思っています。

実際、SRIファンドとESGファンドの投資先はよく似ています。下図のように、某ESGファンドと某SRIファンドでは、組入上位10銘柄のうち4銘柄が重複しているのです。また、それ以外の投資先についても日本の大手企業であることに変わりはありません。

ESGファンドとSRIファンドの組入上位銘柄

投資の鉄則は「よくわからないものには投資しない」です。現時点で、私はESGファンドのことを明確に理解できているわけではないので、ESGファンドに投資するつもりはありません。

理由②:「年金基金の流入」は投資する理由にはならない

ESGファンドの運用会社がESGを推奨する理由の一つに「GPIFの参入」があります。実際、私が投資信託の展示会に参加したときも、運用会社の担当者はGPIFを理由にESGファンドを勧めてきました。

たしかに、GPIFの参入はインパクトがあるため、今後の動向は注視しておいたほうがよいでしょう。しかし、「GPIFが参入している」ということがESGファンドに投資する理由にはなりません。

投資先を選ぶのはあくまで自己責任です。「大きな資金が流入しているから」という理由で投資するのであれば、TOPIX連動型投資信託やUSリート(アメリカの不動産投資信託)のような純資産総額の大きい投資信託に投資しておけばいいのです。

また、株価が上がるのは企業が価値を創造して成長するからです。決して機関投資家が参入するからではありません。機関投資家の参入によって一時的に株価は上がるかもしれませんが、それに同調して投資するのは賢明ではありません。

理由③:利益を求める投資信託としてESGファンドが最適とは思わない

投資信託の運用会社や企業がESGを重視する姿勢は称賛に値します。そのような姿勢に惹かれてESGファンドに投資するのであれば問題ありません。

ただ、私としては、自分のお金をせっかく投資するのであれば、できれば値上がりが期待できる投資信託を選びたいと考えています。金の亡者のように思われるかもしれませんが、正直な感想なので仕方ありません。

そして、私自身は値上がりが期待できるファンドとしてESGファンドが最適だとは思っていません。

このサイトで繰り返し述べているように、「グローバルに分散投資できる投資信託」が資産運用の王道であり、もっとも安定した運用成果が期待できます。また、「基準価額の暴落を回避する仕組みのあるアクティブファンド」も投資対象としては魅力的だと考えています。

このような理由から、私自身はESGファンドに投資するつもりはありません。これはあくまで私個人の意見ですが、資産運用を行う上では、「世の中の流れは注視しつつも流されてはいけない」という姿勢が大事だと考えています。

まとめ

  • 「環境問題への取り組み」「労働環境や人権問題への対応」「企業の統治体制や取締役の構成」などの財務に直接関係しない側面から企業を評価して投資することをESG投資という。また、ESG投資を行う投資信託のことをESGファンドという。
  • 2017年に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がESG投資による日本株の運用を始めたことから、ESG投資は注目されるようになった。
  • 私自身は3つの理由からESGファンドには投資しない。
  • 資産運用を行う上では、「世の中の流れは注視しつつも流されてはいけない」という姿勢を保つことが重要である。

今回は、ESG投資の概要と私がESGファンドに投資しない3つの理由について解説してきました。世界最大級の機関投資家であるGPIFの参入はインパクトが強いので、ESGファンドについては今後も注視が必要です。

ただ、かつてのSRIファンドのように一過的なブームで終わる可能性がないとはいいきれません。また、ESGファンド以上に魅力的な投資信託はたくさんあります。そのため、私自身は現時点ではESGファンドに投資する必要はないと考えています。