初心者の頃は丁寧に確認してから株売買の発注をしていた人でも、慣れてくるといい加減になることがあります。そして、誤った注文を出してしまい、気づいたときには手遅れになることもあります。

誤発注には、「買い注文と売り注文を間違える」「株数を間違える」「(指値注文の場合は)株価を間違える」などのケースが考えられます。

「注意一秒、ケガ一生」という言葉がありますが、車の運転も株取引も慣れた頃がもっとも危ないです。そして、いずれも取り返しがつかない失敗につながる可能性があります。

今回は、誤発注をしたときの対処法について、誤発注が「約定(取引が成立すること)していない場合」と「約定した場合」に分けて解説していきます。また、誤発注の事例として「私の失敗事例」と「ジェイコム株大量誤発注事件」について紹介します。

誤発注で辛い思いをしないためにも、初心を忘れず、十分に確認してから発注するよう気を付けましょう。

誤発注が約定していない場合

株式の注文方法には、株価を指定しない「成行注文」と株価を指定する「指値注文」の2通りがあります。

成行注文は「株価を指定しない代わりに、すぐに約定する」という特徴があります。そのため、ザラ場(取引時間内)に成行注文を出した場合はすぐに約定してしまい、取消や訂正ができなくなります。

しかし、「取引時間外に出した成行注文」の場合は、取引開始(9:00)直後に約定することになります。したがって、9:00前であればまだ約定していません。

また、指値注文は「すぐに約定しない代わりに、希望の株価で取引できる」という特徴があります。そのため指値注文であれば、たとえザラ場に発注したとしても、約定していない可能性があります。

このように、「取引時間外に出した成行注文」や「指値注文」であれば、約定していない可能性が十分にあります。

誤発注がまだ約定していない場合は、すぐに取消もしくは訂正をしてください。どこの証券会社でも注文の取消・訂正に手数料はかからないので、早めに対応するようにしましょう。

誤発注が約定した場合

誤発注が約定してしまったら諦めるしかありません。上述のとおり、ザラ場に成行で発注した場合は、すぐに約定してしまうので取消・訂正する時間はありません。

また指値で誤発注した場合も、約定してしまったら諦めるしかありません。ただ、指値の場合は必ずしも誤発注した注文内容で約定するとは限りません。

例えば、以下のケースを考えてみましょう。

  • あなたが保有している株式:A社株 1,000株
  • A社株の現在の株価:1,500円
  • 誤発注の内容:1,520円で指値売り注文を出すつもりだった。しかし、誤って1,250円で指値売り注文を出し、約定してしまった。



このとき、あなたは「1,520円で売るつもりだったのに、1,250円で売ってしまった。。」とショックを受けるかもしれません。しかし、実はそこまで落ち込む必要はありません。

「指値1,250円の売り注文」は「1,250円以上のうち、もっとも高い買い注文を出した人に売る」という意味になります。発注したときの株価が1,500円付近であれば、現実的には1,480円などで買い注文を出している人がいるはずです。したがって、おそらく1,480円くらいの価格帯で約定していると推測できます。

このように、「指値注文における株価の誤入力」に関しては、それほど気にする必要はありません。誤発注で注意しないといけないのは、「買い注文と売り注文の間違い」や「株数の誤入力」などです。以下に、私の失敗事例とジェイコム株大量誤発注事件について紹介します。

私の失敗事例

実は、私も過去に二度大きな誤発注をしたことがあります。いずれもサラリーマン時代の誤発注だったため、すぐに対応できなかった事例になります。

買い注文と売り注文の間違い

私は以前、メンバーズ(銘柄コード:2130)という銘柄を約700円で1,200株買っていました。ところが購入後、株価は下がっていきました。私はこの銘柄に関しては強気の姿勢だったので、「株価が下がったらチャンス」と思ってナンピン買い(株価が下がったときに買い増しすること)をするつもりでした。

株価が600円付近になった頃に、「590円で500株の指値買い注文」を出したつもりでした。しかし実際には、「590円で500株の指値売り注文」を出していました。そして、間違って出した売り注文は約定し、損失を確定してしまいました。その後、株価は上昇に転じたため非常に悔しい思いをしました。

株数の誤入力

また、私は以前にシンメンテホールディングス(銘柄コード:6086)という銘柄を1,000株持っていました。購入後、株価が約50%上昇したので、利益確定をするため、300株だけ売り注文を出しました。

しかし、株数を誤り1,000株すべてを売ってしまいました。その後も順調に株価が上がったので、私としては非常にもったいない思いをしました。

このように、買い注文と売り注文の間違いや株数の誤入力といったケアレスミスは、とても悔しい思いをすることになるので注意しましょう。

発注する前に、注文内容を見直す習慣をつけることで、不注意のミスを防ぐことができます。これらの大きな発注ミスをしてからは、私も丁寧に確認してから発注するようになりました。

みずほ証券のジェイコム株大量誤発注事件

先ほど「指値注文での株価の誤入力はあまり気にしなくてもよい」と書きました。しかし、ここに「株数の誤入力」が加わると大失敗につながってしまいます。ここでは、「ジェイコムショック」とも呼ばれたジェイコム株大量誤発注事件の内容を時系列に沿って紹介します。

【2005年(平成17年)12月8日】
東証マザーズ市場に総合人材サービス会社「ジェイコム(銘柄コード:2462、発行済み株式数14,500株)」が新規上場しました。

・9:28頃
みずほ証券の担当者が「1株61万円で指値売り」のところ、誤って「61万株を1円で指値売り」とコンピュータに誤入力してしまいました。つまり、指値注文において、株価と株数を極端に間違えてしまったのです。

入力後すぐに担当者は間違いに気づき、取り消し処理を行いました。しかし、異常な誤発注が原因で東証のコンピューターは処理が追い付かず、取り消しを受け付けませんでした。

その後すぐに、みずほ証券と東証との間で電話による確認が行われました。その中で、みずほ証券から東証に注文を取り消すよう依頼しましたが、東証側でも注文の取り消しができませんでした。

・9:30頃
発行済み株式数(14,500株)をはるかに超える大量の売り注文が出されたことで、株価は急落してストップ安(値幅制限の下限:57.2万円)になりました。誤発注からわずか2分間の出来事でした。

・9:43頃
誤発注を取り消しできなかったみずほ証券は、大量の買い注文を入れて買い戻すことにしました。この処理により、今度はストップ高(値幅制限の上限:77.2万円)になったのです。

【その後】
この誤発注でみずほ証券が被った損害は407億円でした。ただ、東証のコンピューターシステムにも不具合があったため、みずほ証券は東証を相手に訴訟を起こしました。そして2015年9月に最終判決が下り、東証がみずほ証券に107億円の損害賠償を支払うことが決まったのです。

このジェイコム株で大儲けし有名になったのが、2ちゃんねるで「B・N・F」というハンドルネームで活動していた個人投資家です。「わずか16分で20億円の利益を上げた無職男」ということも話題を呼びました。ジェイコム男という名でマスコミ報道され、テレビ番組にも多数取り上げられたので、知っている人も多いでしょう。

みずほ証券のように、プロでもこのような誤発注をしてしまうことがあります。東証のコンピューターシステムの不具合は現在では解消されていますが、それでも誤発注には注意が必要です。金額や株数が大きいときは特に気をつけるようにしましょう。

まとめ

  • 約定していない注文であれば、すぐに取消もしくは訂正をする。注文の取消や訂正に手数料はかからない。
  • ザラ場に出した成行注文はすぐに約定してしまう。そのため、ザラ場に成行注文をするときは特に注意が必要。
  • 指値注文での「株価の入力ミス」に関しては、過度に心配しなくてもよい。
  • 指値注文での「株価の入力ミス」に「株数の入力ミス」が加わると大失敗につながる。

今回は、さまざまな事例を紹介しながら、株式投資における誤発注について解説してきました。「買い注文と売り注文の間違い」や「株数の誤入力」は取り返しのつかないミスにつながる可能性があります。注文を出すときは、しっかりと確認するように気をつけましょう。