個人投資家の中には信用取引をしている人がたくさんいます。実際、私も信用取引を利用することがあります。

ただ、信用取引に慣れている人でも「信用取引における配当金の取り扱い」について、しっかりと把握できている人は少ないです。

そこで今回は、「信用取引における配当金」について解説していきます。配当金は信用取引をしている人にとって盲点になります。今回の内容をすべて理解する必要はありませんが、概要は把握しておくようにしましょう。

信用取引とは

まずは信用取引について復習しておきましょう。

信用取引とは「証券会社からお金や株を借りて株取引をすること」です。具体的には、「信用買い」と「信用売り」の2種類の取引があります。

<信用買い>
証券会社からお金を借りて株を買うことを「信用買い」あるいは「買い建て」といいます。

証券会社から借金をしている状態なので、信用買いした株を売却するなどして借りたお金を返す必要があります。また、当たり前ですが、信用買いした株の株価が上がれば利益になります。

<信用売り>
証券会社から株を借りて売ることを「信用売り(空売り)」あるいは「売り建て」といいます。

信用売りは、証券会社から株を借りている状態です。そのため、信用売りした株を買い戻すなどして証券会社に株を返す必要があります。また、信用売りの場合は「株を売る → 買い戻す」の順なので、株価が下がれば利益になります。

ここでのポイントは「お金や株を証券会社から借りている」ということです。このことを把握しておけば、「配当金の取り扱い」について理解しやすくなります。

信用取引では「配当落調整金」の受け渡しが行われる

信用取引をしている人にも配当金は関係します。大雑把にいうと、信用買いをしている人は配当金を受け取ることができ、信用売りをしている人は配当金を支払う必要があります

まずは大雑把で構わないので、このように理解してください。そして、より正確に理解するために以下を読み進めてください。

信用取引をしている人が受け取ったり支払ったりするお金は、正確には「配当落調整金(はいとうおちちょうせいきん)」といいます。そして、配当落調整金は信用取引をしている人と証券会社の間で受け渡しされることになります。

具体的には、信用買いをしている人は証券会社から配当落調整金を受け取り、信用売りをしている人は証券会社に配当落ち調整金を支払うのです。

配当落調整金の受け渡し

以下、「信用売りをしている場合」と「信用買いをしている場合」の順に解説していきます。

信用売り(空売り)をしている場合

信用売りをしている場合は、配当落調整金を支払わなければなりません。ただ、その金額は信用取引の種類によって変わります。

信用取引には、制度信用取引と一般信用取引があります。あなたが信用売りの注文を出すとき、これらのいずれかを選ぶ必要があります。

そして、制度信用取引で信用売り(制度信用売りといいます)をした場合と一般信用取引で信用売り(一般信用売りといいます)をした場合の配当落調整金は以下のとおりです。

制度信用売りの配当落調整金 配当金から15.315%(運用益にかかる所得税と同じ率)が差し引かれた金額
一般信用売りの配当落調整金 配当金と同じ金額

わかりにくいと思うので、以下の具体例で感触をつかんでください。

<配当落調整金の例>
A社の配当金を「1株あたり10円」とします。100株あたりに換算すると1,000円です。このA社株を100株信用売りしたときの配当落調整金は以下のようになります。

制度信用売りの場合 850円(1,000円から15%が差し引かれた値)
一般信用売りの場合 1,000円

※ 15.315%を15%として計算しています

このように、配当落調整金として支払う金額は一般信用売りのほうが大きくなります。15%の差ですが、この違いを把握しておきましょう。

配当落調整金は自動的に徴収される

信用売りしているときの配当落調整金は、あなたの証券口座から自動的に徴収されます。取引報告書や入出金明細をチェックしておかないと、気づかぬうちに証券口座の残高が減ることになります。

ちなみに、下図は私が使っているSBI証券の入出金明細の一部です。私が一般信用売りをしたドウシシャ(7483)とオリエンタルランド(4661)の配当落調整金が差し引かれていることがわかると思います。

配当落調整金の支払い明細

配当落調整金は「譲渡損」として扱われる

ここは少し複雑なので頑張って読み進めてください。

配当落調整金を支払った場合、その支出は税制上「譲渡損」として扱われます。つまり、「株取引で損をした」とみなされるのです。

株取引による損失と同じなので、特定口座(源泉徴収あり)で取引している場合は20.315%の税金(所得税:15.315%、住民税:5%)が還付されます。

先ほどのA社の例に当てはめると、実質的な支払総額は以下のようになります。

配当落調整金 還付される金額 実質的な支払額
制度信用売りの場合 850円 170円(850円の20%) 680円
一般信用売りの場合 1,000円 200円 800円

※ 20.315%を20%として計算しています。

このように、配当落調整金は「譲渡損」とみなされるため、約20%が戻ってきます。ただし、税金を支払っていない場合(=株取引で利益を得ていない場合)は還付されることはありません。その場合は、確定申告をして損失の繰越控除をすることで、翌年以降の税金が安くなります。

信用買いをしている場合

信用買いをしている場合は配当落調整金を受け取ることができます。信用売りとは違って、制度信用取引でも一般信用取引でも受け取る金額は同じです。その金額は「配当金から15.315%が差し引かれた金額」です。つまり、制度信用売りをした人が支払った配当落調整金と同額です。

例えば、「1株あたりの配当金10円」のA社株を信用取引で100株購入したとします。配当金は100株で1,000円になります。このとき、信用買いをしている人が受け取る配当落調整金は約850円になるのです。

配当落調整金は自動的に振り込まれる

信用売りの場合と同様に、信用買いをしているときの配当落調整金はあなたの証券口座に自動的に振り込まれます。気づかぬうちに証券口座の残高が増えることになるので、定期的に取引報告書や入出金明細をチェックしておきましょう。

配当落調整金は「譲渡所得」として扱われる

信用売りの場合、配当落調整金は「譲渡損」として扱われると述べました。それと同じように、信用買いをしている人が受け取る配当落調整金は「譲渡所得」になります。つまり、「株取引で儲けた」とみなされるのです。

株取引による利益と同じなので、特定口座(源泉徴収あり)で取引している場合は20.315%の税金が源泉徴収されます(それ以外の口座の場合は確定申告が必要です)。

先ほど「A社株を100株信用買いしたときは約850円の配当落調整金を受け取る」と述べましたが、実際はここから約20%の税金が差し引かれます。そのため、最終的に受け取る金額は約680円になります。

まとめ

  • 信用売りをしている人は配当落調整金を支払う必要がある。ただし、その金額は「制度信用売り」と「一般信用売り」で異なる。
  • 信用買いをしている人は配当落調整金を受け取ることができる。その金額は「制度信用売り」と「一般信用売り」で同額である。
  • 配当落調整金が譲渡損として扱われる場合(=信用売をしている場合)は、約20%の税金が還付される。また、配当落調整金が譲渡所得として扱われる場合(=信用買いをしている場合)は、約20%の税金が徴収される。

今回は「信用取引における配当金」について詳しく解説してきました。少し複雑なので、難しく感じた人も多いと思います。

ただ、特定口座(源泉徴収あり)で取引している場合はすべてを正確に把握する必要はありません。特定口座(源泉徴収あり)であれば、税金に関する煩わしい手続きを証券会社がすべて代行してくれるからです。