自社株買いとは、企業が自らの資金を使って自社の株を購入することです。自社株買いが発表されると、高い確率で株価が上がるため、株主にとっては大きなメリットがあります。
それでは、自社株買いが発表されるとなぜ株価が上がるのでしょうか?
今回は、自社株買いによって株価が上がる3つの理由を解説していきます。自社株買いは、ファンダメンタル分析(経営状況を分析すること)を学ぶ良い題材になります。そのため、自社株買いについて詳しく知りたい人だけでなく、ファンダメンタル分析の知識を習得したい人もじっくりと読み進めてください。
自社株買いで株価が上がる主な理由は以下の3つです。
② 1株の価値が上がる
③ 経営効率が高いことを投資家にアピールできる
①~③について、順に解説していきます。ただ、①に関してはわかりやすいと思うので、説明を簡略化し、②と③についてはファンダメンタル分析の観点から詳しく解説します。
継続的に買い注文が入る
通常、自社株買いは数日~数週間かけて行われます。その間、企業は継続的に買い注文を出すことになるので、株価は上がりやすくなります。
ただ、企業は東証などの株式市場から株を買い付けるとは限りません。実際には、取引時間外に機関投資家(保険会社や銀行などの大株主)などから買い付けることもあります。この場合、自社株買いの実施期間中でも、期待したほど値上がりしないこともあります。
1株の価値が上がる
自社株買いを行うことで、市場に流通する発行済み株式数が減少します。そして、発行済み株式数が減少すると、必然的に株の価値が上がります。
例えば、アワビがサザエよりも価格が高いのは、アワビの収穫量がサザエよりも少ないからです。世の中の原則として、数の少ないものは価値が高いのです。
同じ理屈で、自社株買いによって発行済み株式数が減少すると、株の価値が上がります。その結果、株価が上昇するのです。
理屈としてはこのような理解で構いません。ただ、ここでは一歩踏み込んで、ファンダメンタル分析の観点からこの内容を解説していきます。
「1株あたりの利益」が上がる
1株の価値を評価する指標として「1株あたりの利益(EPS:Earnings Per Share)」があります。「1株当たりの利益」はファンダメンタル分析においてとても重要な指標です。実際、私が企業分析をするときに最初に確認するのが「一株あたりの利益」です。
1株あたりの利益は以下の計算式で算出されます。
1株あたりの利益 = 純利益 ÷ 発行済み株式数
上述のとおり、企業が自社株買いを実施すると、発行済み株式数が減少します。一方、自社株買いを行っても純利益は変わりません。つまり、自社株買いをすることで、この計算式の分母だけが小さくなるのです。そのため、1株あたりの利益は大きくなります。
文章だけだとわかりにくいので、以下の具体例を確認してみましょう。
・A社の発行済み株式数:10万株
・A社の純利益:1,000万円
・1株あたりの利益:100円(1,000万円÷10万株)
↓
A社が2万株の自社株買いを実施
↓
<自社株買いを行った後>
・A社の発行済み株式数:8万株
・A社の純利益:1,000万円
・1株あたりの利益:125円(1,000万円÷8万株)
このように、A社が自社株買いを行うことによって「1株あたりの利益」が上昇することがわかります。
PER(株価収益率)が下がる
「1株あたりの利益」が大きくなると、株価の割安・割高の目安となるPER(株価収益率:Price Earnings Ratio)が小さくなります。
「現在の株価」が「1株あたりの利益」の何倍になっているかを示した値。一般的に、10倍以下は割安、20倍以上は割高と考えられるが、実際にはそれほど単純ではない。
PER = 株価 ÷ 1株あたり利益
上述のとおり、自社株買いを行うことによって、1株あたりの利益は大きくなります。そのため、上の計算式の分母が大きくなり、PERは小さくなります。そして、PERが小さくなると「この株は割安だ」と考える投資家が増えるので、買い注文が入りやすくなるのです。
経営効率が高いことを投資家にアピールできる
少ない資金で効率よく稼ぐ企業は「経営効率が高い」と投資家から評価されます。そのため、企業は経営効率を上げようとします。
そして、経営効率を示す指標として、ROE(自己資本利益率:Return on Equity)という値があります。
企業が自己資本(株主からの出資金や過去の利益の蓄積)を用いて、どれくらい効率よく稼いでいるかを示した値。一般的に、ROEが10%以上であれば経営効率は高いと判断される。
ROE(%)= 純利益 ÷ 自己資本 × 100
私のようにファンダメンタルズを重視する投資家は、企業のROEをよくチェックしています。逆にいうと、ROEの向上を掲げている企業は株主のことを意識して経営しているといえます。そのため、ROEの高い企業やROE向上を掲げている企業に対して、投資家は好印象を抱きます。
そして、自社株買いを行えば、ROEが上がります。なぜなら、株を買うための資金として自己資本を使うからです。つまり、自社株買いを行うことで、自己資本が小さくなるのです。
自己資本が小さくなると、上の計算式の分母が小さくなるので、ROEは大きくなります。その結果、「経営効率が高い」「株主のことを意識している」と評価する投資家が増えるので、株が買われやすくなるのです。
このように、自社株買いは「1株あたり利益の上昇(=PERの減少)」や「ROEの上昇」につながります。少し難しかったと思いますが、ファンダメンタル分析の観点からも株価が上昇する要因は説明できるのです。
自社株買いで株価はどれくらい上昇するか?
ここまで「自社株買いで株価が上昇する」と述べてきました。それでは、株価はどれくらい上がるのでしょうか?
その目安は発行済み株式総数と自社株買いされる株数で決まります。例えば以下のケースを見てください。
- 発行済み株式総数:100万株
- 自社株買い:2万株
このとき、発行済み株式の2%が購入されることになります。そのため、理論的に1株あたりの価値は約2%上昇するので、株価も約2%上がるはずです。
ただ、理論通りに動かないのが株価です。自社株買いが発表されると同時に、投資家の注目を浴びて大量の買い注文が入ることがあります。そして、短期間で利益を得た投資家がすぐに売却することもあるため、株価は一時的に乱高下する可能性があります。
また、自社株買いの発表をきっかけに株価が上昇トレンドに入る可能性もあります。この場合、株価は持続的に上がっていくので大きな利益を得ることができます。
逆に、上述のとおり、証券取引所の取引時間外に機関投資家などから自社株が買い集められた場合は、期待したほど株価が上がらないこともあります。
このように、株価は理論通りに動きません。そのため、発行済み株式数に対する自社株買いされる株の割合はあくまで「目安」と認識しておいてください。
まとめ
- 自社株買いで株価が上昇する主な理由は「継続的に買い注文が入る」「1株の価値が上がる」「経営効率が高いことを投資家にアピールできる」の3つである。
- 自社株買いを行うことで、企業のファンダメンタルズが改善する。そのため、ファンダメンタルズを重視している投資家から好印象を持たれやすくなる。
今回は、自社株買いで株価が上昇する理由について詳しく解説してきました。自社株買いは、ファンダメンタルズを学ぶ良いきっかけになります。ファンダメンタル分析は中長期の株式投資においてとても重要な指標なので、あなたもその知識を習得してみてはいかがでしょうか?