投資に興味のない人でも「ビットコイン」や「NEM」などの仮想通貨の名前は聞いたことがあるのではないでしょうか? 

特に、ビットコインは仮想通貨の中でも取引量が多いことから、「世界の基軸通貨になる」と考える人もいるくらいです。

現代では米ドルが世界の基軸通貨として使われていますが、本当に仮想通貨が米ドルに取って代わる日が来るのでしょうか?

そこで今回は、通貨に必要とされる3つの性質を解説した後、「仮想通貨は世界の基軸通貨になり得るか?」というテーマで考察してみたいと思います。仮想通貨は投資対象としては魅力的ではありませんが、貨幣経済の実情を考える上でとてもよい勉強材料になります。

<参考記事>仮想通貨が投資対象として魅力的でない理由

資産運用における投資対象は3つ(株・債券・不動産)だけ


通貨に必要とされる3つの性質

通貨に必要とされる性質は3つあります。それは、「信頼性」「貯蔵性」「利便性」です。これはどこの国の通貨にも共通する性質です。それぞれ順に確認していきましょう。

信頼性

今、あなたの手元に「福沢諭吉が描かれた1枚のお札」があるとします。

1万円札(福沢諭吉)

このお札があれば、さまざまな物と交換することができます。例えば、ジュース100本や高級ランチ2人分と交換できるのです。

なぜ、そんなことができるのでしょうか?

それは、そのお札に「1万円分の価値がある」と信頼されているからです。

1万円札を作るのに必要な原価は約22円です。つまり、22円で作られる紙切れに1万円の価値があると信頼されているため、ジュースや高級ランチと交換することができるのです。そして、そのように信じられている背景には日本政府への信頼があります。

日本政府が通貨の発行や流通を管理して、通貨価値を一定の範囲内にコントロールしているため、このような信頼が生まれています。言い換えると、日本政府への信頼が揺らぐと日本円の価値は急落する可能性があるのです。

世界の経済史を振り返ってみても、国の信頼が揺らいで通貨価値が急落するケースはたくさんありました。

例えば、1997年のアジア通貨危機や2001年のアルゼンチンの通貨危機で、当事国の通貨は大きく下落しました。また、ハイパーインフレが起こったジンバブエではジンバブエドル紙幣が紙くずになりました。

ジンバブエドル

※ 私も紙くずを持っています。。

このように、お金に価値があるのは発行元となる政府の後ろ盾があるからです。この「信頼性」こそが、お金にとってもっとも重要な性質です

貯蔵性

貯蔵性とは「価値を貯蔵できる」という意味です。上述のとおり、「福沢諭吉が描かれたお札」には1万円の価値があります。この価値は数ヶ月経った後もほとんど変わりません。これが貯蔵性です。

大昔の物々交換の時代には貯蔵性がありませんでした。例えば、漁師が漁に出てたくさんの魚を釣ってきたとします。この魚をそのままにしておけばすぐに傷んで価値がなくなってしまいます。そのため、魚を獲ってきたらすぐに他の物と交換しなければなりませんでした。

しかし、この魚を売りさばいてお金に替えてしまえば、その価値が腐ることはありません。お金は「信頼性」がある限り、半永久的に価値を貯蔵することができるのです。

利便性

利便性とは「価値を移動できる」という意味です。

これについても、物々交換の時代を想像するとわかりやすいです。昔は野菜や動物の肉などを持ち運んで物々交換していました。しかし現代では、コインや紙切れが価値を内在しているため、軽々と遠方まで持ち運ぶことができます。

現代では当たり前の性質ですが、「利便性」はお金が世の中に流通するためにはなくてはならない性質なのです。

このように、通貨には「信頼性」「貯蔵性」「利便性」が備わってなければなりません。そして、この中でもっとも重要なのが「信頼性」であることも理解しておいてください。

米ドルが世界の基軸通貨になっている理由

第一次世界大戦が終わるまで、世界の基軸通貨はイギリスのポンドでした。当時のイギリスは世界中に植民地を有し、「太陽の沈まない国」と呼ばれるほど経済力も軍事力も充実していたのです。

しかし、イギリスは第一次世界大戦で勝利したものの、大戦中にアメリカから大量のお金を借りていました。そのため、敗戦国(ドイツなど)から得た賠償金の多くはアメリカへの返済に充てられたのです。

一方、第一次世界大戦の戦場になることもなく、ヨーロッパへのお金の貸し付けや輸出拡大によってアメリカ経済は大きく発展しました。そして、経済力でも軍事力でもアメリカがイギリスを追い抜き、世界の基軸通貨も米ドルへと変わっていったのです

(ここに米ドルの写真)

上述のとおり、通貨のもっとも重要な性質は「信頼性」です。そして、その信頼性の背景には、「国家の経済力軍事力」があります。第一次世界大戦以降、アメリカが世界一の経済大国&軍事大国になったからこそ、米ドルが世界の基軸通貨になったのです。

それでは、ここまでの内容を踏まえた上で、仮想通貨が世界の基軸通貨になり得るか考察していきましょう。

仮想通貨が世界の基軸通貨になる可能性を考察

まずは、仮想通貨に3つの性質(信頼性・貯蔵性・利便性)が備わっているか確認してみましょう。

現状、仮想通貨は円やドルなどと交換することができます。つまり、価値を貯蔵することができます。また、インターネット上に存在するため、持ち運ぶ必要すらありません。海外への送金も今のお金より容易にできるため、利便性に関しても問題ありません。

ただ、「信頼性」に関してはまだまだ不十分と言わざるを得ません。

仮想通貨の通貨としての性質

上述のとおり、信頼性の背景には国の経済力と軍事力があります。しかし、仮想通貨には国という概念がないため、信頼性を裏付ける後ろ盾がありません。そのため、通貨としての価値が一定の範囲内に維持される保証がないのです。

アジア通貨危機やアルゼンチンの通貨危機においては、国家という後ろ盾があったにもかかわらず通貨価値が急落しました。このことを考慮すると、何の後ろ盾もない仮想通貨の場合は、あるとき急に価値が下落する可能性があると考えられます

そのため、仮想通貨が世界の基軸通貨になるためには、信頼性(=価値を保証する後ろ盾)を獲得することが何よりも重要です。それが得られないうちは、世界の基軸通貨になることはないでしょう。

以上を踏まえると、仮想通貨が世界の基軸通貨になるための現実的なシナリオは「どこかの国が仮想通貨を国家通貨に適用し、その国が経済力と軍事力でアメリカを上回る」ということになると思います。ただ、そのような国が出てくるのは何年も先なので、しばらくは米ドルが世界の基軸通貨であり続けると考えられます。

まとめ

  • 通貨に必要とされる性質は「信頼性」「貯蔵性」「利便性」である。このうち、「信頼性」がもっとも重要である。
  • 通貨の信頼性はその国の経済力と軍事力に裏付けられている。言い換えると、経済力や軍事力がない国の通貨は価値が大きく下落する可能性がある。
  • 仮想通貨が世界の基軸通貨になるためには「信頼性」を獲得する必要がある。ただ、仮想通貨には国家という概念がないため、信頼性を獲得するのは容易ではない。

今回は、通貨に必要とされる3つの性質をもとに、「仮想通貨が世界の基軸通貨になり得るか?」について考察してきました。

現代の貨幣経済は「信頼」のもとに成り立っています。このことは、22円で作られる紙切れ(=1万円札)に1万円の価値があることからもわかります。ただ、国家の信頼がなくなれば貨幣価値は急落します。

日本円の価値が急落する可能性は低いと思いますが、万一、日本政府への信頼が揺らぐと1万円札が紙くずになってしまうこともあり得るのです。