経済ニュースを見ていると「円高」「円安」などの為替に関する言葉を頻繁に耳にします。為替の変動(円高・円安)は私たちの生活だけでなく、国の財政や投資家の資産運用に影響するため、毎日のようにニュースで報道されているのです。

それでは、為替の変動は「国民の生活」「国」「投資家」に具体的にどのような影響を及ぼすのでしょうか? 

今回は、為替の基礎知識について復習した後、「国民」「国」「投資家」の立場に立って円高や円安の影響を考えてみます。この記事を読み終える頃には、円高や円安を身近なものとして考えられるようになっているはずです。

円高・円安の意味

まずは円高と円安の意味について復習しておきましょう。

円高とは「円の価値が上がること」です。円の価値が上がるため、円と1ドル紙幣を両替するときは、より少ない円を支払うだけで両替できます。具体的には、「1ドル100円 → 1ドル80円」のように、円の値が小さくなる(=円の支払い額が少なくなる)のが円高です。

逆に、円安とは「円の価値が下がること」です。円の価値が下がるため、円と1ドル紙幣を両替するときには、より多くの円を支払わなければなりません。具体的には、「1ドル100円 → 1ドル120円」のように、円の値が大きくなる(=円の支払い額が大きくなる)のが円安です。

このように、「円高=円の価値が上がること」「円安=円の価値が下がること」と理解しておいてください。

円高は輸入に有利、円安は輸出に有利

続いて、円高・円安が企業の業績に与える影響を復習しておきます。

現在、外国との貿易で使用される通貨の5~7割はドルです(参考資料:財務省 報道発表資料)そのため、貿易を行う企業にとって、ドルに対する為替の変動が企業業績に大きく影響します。

そして、結論を先に述べると、円高になると輸入企業が儲かり、円安になると輸出企業が儲かります。その理屈を以下で説明します。

輸入企業の場合

仮に、日本の企業がアメリカから1台1万ドルの車を輸入したとします。このとき、日本企業が支払う代金は1万ドルです。

ただ、為替レートによって、実際に負担する日本円の金額は異なります。円高(1ドル80円)のときに実際に負担する金額は80万円(1万ドル × 80円)ですが、円安(1ドル120円)のときは120万円(1万ドル × 120円)になるのです。

輸入企業は円高のほうが儲かる

このように、円高のほうが輸入企業の負担は小さくなります。そのため、輸入企業にとっては円高のほうが利益を得やすいのです。逆に、円安になると輸入企業の負担が大きくなるため、利益が圧迫されてしまいます。

輸出企業の場合

仮に、日本の企業がアメリカに1台1万ドルの車を輸出したとします。上述のとおり、貿易で主に使われる通貨はドルなので、日本車を売るときもドルで売るのです。このとき、日本企業が受け取る代金は1万ドルです。

ただ、為替レートによって、実際の売上金額は異なります。円高(1ドル80円)のときの実際の売上金額は80万円(1万ドル × 80円)ですが、円安(1ドル120円)のときは120万円(1万ドル × 120円)になるのです。

輸出企業は円安のほうが儲かる

このように、円安のほうが輸出企業の売上は大きくなります。そのため、輸出企業にとっては円安のほうが望ましいのです。逆に、円高になると輸出企業の売上が減るため、利益は小さくなってしまいます。

以上が円高・円安と企業業績との関係です。ここまでの内容を踏まえた上で、「国民」「国」「投資家」に円高・円安がどのように影響するか考えていきましょう。

国民にとっては円高のほうが望ましい

まずは、投資をしていない一般的な国民の立場に立って考えてみます。

身の回りを見てみると気づくと思いますが、私たちの日常生活は輸入品によって支えられています。例えば、多くの人は「Made in China」の服を持っているはずです。また食料品に関しても、米や野菜などを除いて、多くのものを輸入に頼っています。

さらに、生活に欠かすことのできない「電気」についても同じことがいえます。火力発電に使われている石油・石炭・液化天然ガス(LNG)はほぼ100%輸入に頼っているからです。

このように、私たちの生活は輸入品に依存して成り立っています。このことを考えると、「国民にとっては円高のほうが望ましい」ということがわかります。

ただ、なかには「円高になっても円安になってもあまり日常生活に変化を感じない」という人もいるかもしれません。たしかにその通りですが、それは為替の変動が企業の許容範囲に収まっているからです。

仮に「1ドル200円」のように極端な円安になったとします。このとき、輸入企業は大きなダメージを受けてしまいます。そうなると、間違いなく日用品の価格は上がります。企業としては利益を確保するために値上げせざるを得ないからです。

このように、資産運用をしていない一般的な国民にとっては円高のほうが望ましいのです。

国にとっては円安のほうが望ましい

次に、国の立場に立って考えてみましょう。

国としては「日本経済を活性化させたい」「日本の借金問題を解決したい」という思惑があります。そして、これらを同時に解決するためには円安が望ましいのです。

<日本経済の活性化>
国民の生活が輸入企業に支えられているとはいっても、日本経済を支えているのはどちらかというと輸出企業です。

トヨタ自動車(銘柄コード:7203)や富士通(6702)などの大企業が輸出で利益を得ることによって、日本経済は支えられているのです。実際、為替が円安に傾くと日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)はすぐに上昇します。円安と経済の活性化には密接な関係があるのです。

このように、「日本経済の活性化」という観点から考えると、国民の生活に悪影響を及ばさない程度の適度な円安が望ましいのです。

<日本の借金問題の解決>
日本の借金は1,000兆円を超えています。これは、日本のGDP(国内総生産)の約2.5倍に当たります。借金が「GDPの2.5倍」というのは世界中を見渡しても日本しかありません。つまり、日本は世界一の借金大国なのです。

そして、この借金問題を解決するための方策の一つが「円安」です。

上述のとおり、円安とは円の価値が下がることです。「円の価値が下がる → 1,000兆円という借金の価値も下がる → 借金の価値が下がるので、借金問題を解決しやすくなる」という流れで考えると理解しやすいと思います。

ここでは詳細は割愛しますが、日本の借金問題を解決するためにも円安が望ましいのです。

以上のように、「日本経済の活性化」や「借金問題の解決」という観点で考えると、国としては円安のほうが望ましいのです。

投資家の場合は、金融資産を売却する時期によって考え方が異なる

最後に投資家の立場に立って考えていきます。

投資家の場合は、「運用している金融資産をいつ売却する予定なのか」によって考え方が異なります。このことを「国内株式に投資している場合」と「海外資産に投資している場合」に分けて解説していきます。

国内株式に投資している場合

日本国内の株式に投資をしている場合、基本的には円安のほうが望ましいです。上述のとおり、日本経済を支えているのは輸出企業です。円安になると日経平均株価や多くの輸出企業の株価が上がるので、国内株式に投資をしている人にとっては円安のほうが望ましいのです。

一方で、「輸入企業の株価はどうなるの?」と思う人もいるでしょう。円安になると輸入企業の利益が圧迫されるので、普通に考えると株価は下がりそうです。

ただ、企業が想定する範囲内の円安であれば、株価が大きく値下がりすることはありません。その背景には、海外投資家による日本株への投資があります。

■ 円安のときに海外投資家が日本株を買う2つの理由
<理由①>
現代では、日本円は他国の通貨に比べて安全な資産と考えられています。そのため、有事の際(軍事衝突や経済危機など)には、海外投資家は安全な資産である「円」を買います。つまり、円高が進行します。

いいかえると、円安が進行しているときは、海外投資家が積極的にリスクを取って投資をしているときです。そのため、日本株も積極的に買われているのです。

<理由②>
海外投資家は日本株を買うときに、円を売り建て(≒空売り)することが多いです。そのため、円安と海外投資家による日本株の購入はほぼ同時に進行します

彼らにとっては、日本株を買っても円安が進むと為替差損を生じてしまいます。せっかく日本株が値上がりしても、為替で損をしてしまっては意味がありません。

そこで、彼らは日本株を買うときに日本円の売り建てをします。そうすることで、為替の影響を抑えて日本株の値上がり益だけを狙っているのです。

以上の理由から、円安だからといって輸入企業の株価が下がるとは言い切れません。したがって、総合的に考えると、国内株式に投資している人にとっては円安のほうが望ましいのです。

ただ、いいかえると「円高=株を安く買えるチャンス」でもあります。そのため、「これから株式投資を始めたい」「安いうちにたくさん株を買っておきたい」という人にとっては、円高のほうが望ましいということになります。

海外資産に投資している場合

海外株式などのドル建て資産に投資をしている場合、基本的にはドル高(=円安)のほうが望ましいです。ドル建て資産を売却して得たドルを日本円に換金するときに、ドル高(=円安)のほうが多くの円を手に入れられるからです(輸入企業と同じ理屈です)。

ただ、国内株式の場合と同じように、「これからドル建て資産に投資したい」「安いうちにたくさん投資しておきたい」という人にとっては、円高(=ドル安)のほうが望ましいです。なぜなら、円高のほうが海外の金融商品を安く購入することができるからです(輸入企業と同じ理屈です)。

以上をまとめると、投資家にとっては投資先に関係なく、「購入するときは円高が望ましく、売却するときは円安が望ましい」ということになります。

為替は日々動いているため、短期的な変動を予測することはかなり難しいです。ただ、「国にとっては円安が望ましい」という状況を考えると、将来的には今よりも円安が進むと予想されます。したがって、私としては「なるべく早い時期に資産運用を始めたほうがよい」というふうに考えています。

まとめ

  • 国民の生活は輸入品によって支えられている。そのため、国民にとっては円高のほうが望ましい。
  • 国には「日本経済を活性化させたい」「日本の借金問題を解決したい」という思惑がある。そのため、国にとっては国民の生活に悪影響を及ばさない程度の適度な円安が望ましい。
  • 投資家にとっては、運用している金融商品の売却時期によって為替の考え方が異なる。ただ、基本的には円高のときに買って円安のときに売るのがよい。

今回は、為替の変動(円高・円安)が国民、国、投資家にどのような影響を与えるのかについて考察してきました。為替の変動を予測するのは難しいですが、私たちにどのような影響があるかを把握しておくことはとても大切です。

特に、資産運用を行うときは、為替の変動が運用成績に大きく影響します。そして、将来的に円安が進行する可能性が高いことを考えると、資産運用を開始する時期はなるべく早いほうがよいでしょう。