世の中が不況のとき、政府や日銀はさまざまな経済政策を行って景気を回復させようとします。例えば、「ゼロ金利政策」「マイナス金利政策」「量的・質的金融緩和政策」などの政策をニュースで聞いた人も多いでしょう。

ただ、これらの政策の目的はすべて同じです。不況時におけるあらゆる経済政策は「需要を増やすため」に行われているのです。

そこで今回は、景気対策の基本である「需要を増やすこと」について述べていきます。この記事を読むことで、日々の経済ニュースをより理解しやすくなるはずです。



上述のとおり、不況のとき政府や日銀はさまざまな景気対策を行います。日銀が行う政策(金融政策)と政府が行う政策(財政政策)の内容は異なりますが、いずれも世の中の需要を増やすために行われます。つまり、モノが売れるように誘導するのです。

それでは、実際にモノを買うのは誰でしょうか? 

モノを買うのは、「国民」「企業」「外国人」に大別されます。以下、それぞれの需要を増やすための政策について解説していきます。

国民の需要

不況のときはどうしても国民の購買意欲が低下します。実際、バブル崩壊(1990年)後に生まれた世代は、生まれたときから不況を経験しているので、昔の人々に比べて節約志向が強いと言われています。

購買意欲が低下した国民の需要を刺激するために有効な手段は「給料を増やすこと」です。そのためには企業の業績が改善されなければなりませんが、「給料が増えるように誘導する」というのは、重要な政策のひとつなのです。

また、社会保障を充実させることも間接的な経済政策になります。なぜなら、国民が節約をする背景には、将来に対する不安があるからです。

仮に、「将来は年金もしっかり支給されるし、社会保障も充実しているから、貯金が少なくても暮らせる」と思える世の中であれば、国民は必要以上に貯金をしていないでしょう。

このように、国民の需要を刺激するためには「給料アップ」や「社会保障の充実」が重要です。いずれも実現するのは容易ではありませんが、政府にとっては重要な景気対策になのです。

企業の需要

「企業の需要」は景気を左右するとても重要な要素です。

企業は事業を行うためにさまざまなモノを購入します。土地を買って工場を建設することもあれば、大型機械を導入することもあります。私が以前に勤めていた製薬会社でも、大規模な工事を行って大きな研究棟を建設したことがあります。

このように、企業は将来の利益を追求するために、積極的に設備投資を行います。そして、設備投資には莫大なお金が使われるため、世の中の景気を刺激することになるのです。

ただ、設備投資を行うためには資金が必要です。資金が足りない企業は設備投資をあきらめるか銀行から融資を受けることになります。

そして、融資を受けるかどうかを判断する指標となるのが金利です。金利が高い場合は利子の負担が重くなるため、企業は融資をあきらめる可能性があります。逆に、金利が低い場合は利子の負担が軽いので、企業はお金を借りやすくなるのです。

このように、銀行の金利は企業の需要と密接な関係があります。そのため、不況のときには金利を下げるような金融政策が実施されるのです。実際、リーマン・ショック以降の不況時には、ゼロ金利政策やマイナス金利政策が実施されています。

また、「従業員の賃上げ」や「設備投資」を行った企業に対して、法人税引き下げなどの優遇措置を取ることもあります。そうすることで、国民や企業の需要を刺激するのです。

このように、「金利の引き下げ」や「減税などの優遇措置」は企業(と国民)の需要を刺激する重要な景気対策なのです。

外国人の需要

最後に外国人の需要について述べていきます。

外国人によるモノの購入は、貿易訪日外国人による買い物に分けられます。このうち、経済効果が大きいのは貿易です。

実際、為替が1円円安に動くだけで、トヨタ自動車の利益は300~400億円も変わると言われています。輸出企業はトヨタ自動車だけではないので、為替の変動は日本経済に多大な影響を及ぼします。そのため、政府や日銀は為替が円安になる方向に誘導しようとします

ただ、円安が進行して輸出超過になると、今度は他国から牽制されます。そのため、円安への誘導に関しては、他国との交渉も重要な要素となるのです。

また、訪日外国人を増やすことも立派な景気対策です。2001年の小泉政権以来、日本は外国人観光客の受け入れに力を入れてきました。その結果、着実に観光客が増えています。

訪日外国人の推移


上記の国土交通省の資料には、訪日外国人は1人あたり平均約15万円を日本国内で使用することが記載されています。また、1年間あたり合計約4兆5,000億円を使うと試算されています。

日本の貿易輸出額は70兆円前後なので、貿易と比べると訪日外国人の経済効果はそれほど強くありません。ただ、それでも無視できる金額ではありません。また、他国と交渉をする必要がないため、政府としては実施しやすい景気対策なのです。

まとめ

  • 不況時に政府や日銀が行う景気対策は、「国民」「企業」「外国人」の需要を増やすことが目的である。
  • 国民の需要を刺激するためには、「給料アップ」や「社会保障の充実」が有効である。
  • 企業の需要を刺激するためには、「金利の引き下げ」や「減税などの優遇措置」が有効である。
  • 外国人の需要を刺激するためには、「円安への誘導」や「訪日外国人の受け入れ強化」が有効である。

今回は、景気対策の基本である「需要を増やすこと」に絞って解説してきました。政府や日銀が行うさまざまな景気対策は、国民 or 企業 or 外国人の需要を増やすことにつながっています。このような観点で経済ニュースを見てみると、より理解が深まると思います。