株式投資における「株価」のように、投資信託には「基準価額(きじゅんかがく)」があります。ところが、株価と基準価額は同じように見えて、まったく異なります。

今回は、投資信託の基準価額について詳しく解説していきます。また、基準価額の算出方法についても説明します。投資信託を利用して資産運用をするときの基本知識となるので、内容をしっかりと理解しておきましょう。

基準価額の概要

基準価額とは「投資信託の価格」のことです。株式投資において株価が常に変動しているのと同じように、投資信託では基準価額が変動しています。

ただ、株価と大きく異なる点があります。

株価は刻一刻と変動しています。誰かが売買注文を出して取引が成立するたびに変化するため、1秒後には株価が変わっていることがあります。

一方、投資信託の基準価額は株価ほど頻繁に値段が動きません。なぜなら、基準価額は1日に1回だけ算出されるからです(この理由は後述します)。多くの投資信託では、通常、夕方~夜に基準価額が算出されます。

このような性質があるため、私たちは正確な基準価額を把握して買い注文を出すことができません。なぜなら、私たちが投資信託の買い注文を出す時点では、前日の基準価額しか把握できないからです

ところが、購入価格はその日(投資信託によっては翌日以降)の夕方~夜に算出される基準価額が適用されます。私たちは実際の購入価額を正確に把握できない段階で買い注文を出すしかないのです。

※ ただし、投資信託の値動きは株式ほど激しくありません。また、投資信託は10年以上の長期で保有することが基本なので、1日程度の基準価額の変動は運用成績にはほとんど影響しません。

このように、株価と基準価額は似て非なるものであることを理解しておきましょう。

基準価額は「1万口あたり1万円」からスタートすることが多い

投資信託の基準価格は「1万口あたり」の価格で表示されることが多いです(「1口あたり」の場合もあります)。

そして、ほとんどの投資信託は「1万口あたり1万円」からスタートします(「1口あたり」で表記する場合は1口あたり1円からスタートします)。

例えば、「ひふみプラス」という有名な投資信託があります。ひふみプラスは、2012年5月28日に「1万口あたり1万円」でスタートしました。そして、その後順調に基準価額を伸ばし、6年後には「1万口あたり43,000円」になりました。

ひふみプラスの基準価額の推移

2012年5月末にひふみプラスを買った人は、資産を約4.3倍に増やすことができたのです。

ちなみに、基準価格は「1万口あたり」で表示されますが、「1万口単位」で購入する必要はありません。販売会社によって購入単位は変わりますが、SBI証券の場合は、ひふみプラスを「100円(≒23口)」から購入することができます。

基準価額が「1万口あたり」で表示されているからといって、「1万口単位」で買う必要はないのです。

基準価額の算出方法

基準価額の算出方法を理解するためには、投資信託の純資産総額について知っておく必要があります。そこで、まずは純資産総額について解説していきます。

投資信託の純資産総額

純資産総額とは、「投資信託が保有している資産の総額」です。わかりにくいと思うので、以下の例を読み進めてください。

ここでは、日本株に投資する投資信託(日本株ファンドAとします)を例に話を進めていきます。

日本株ファンドAでは、複数の国内株式に分散投資をしています。そして、それぞれの株価は刻一刻と変動しています。ただ、その日の取引が終わると株価は動きません。そこで、取引終了後に「株価の終値(取引終了後の株価)×保有株数」を計算するのです。

この計算をすべての保有株で行います。そして、それらをすべて合計することで、「投資信託に組み入れられている株式銘柄の時価の合計額」を算出します。

さらに、株式の配当金や投資せずに保有している現金なども加えます。そして、そこから信託報酬などの手数料を差し引きます。この値が純資産総額になります。

投資信託の純資産総額

投資信託では、この計算を日々行うことで、純資産総額を算出しています。少し複雑ですが、上の図を参考に概要を理解しておきましょう。

基準価額の計算式

純資産総額を理解できれば、あとは以下の公式に当てはめるだけで簡単に基準価額を算出できます。

純資産総額 ÷ 総口数 × 1万 = 1万口あたりの基準価額

※ 総口数:投資信託を買った人の口数の合計。100人が1万口ずつ買った場合、総口数は100万口になる。

ここまでの説明で、基準価額の算出方法を把握できたと思います。今回は日本株に投資する投資信託を例にしましたが、海外の株式などに投資する場合は、為替変動も基準価額の変動要因になることを覚えておきましょう。

基準価額が変動する例

最後に、以下の具体例で基準価額が変動する様子を確認しましょう。

日本株ファンドAは1万口あたり1万円からスタートしました。そして、山田さんが3万口、田中さんが7万口、鈴木さんが10万口購入しました。このとき、日本株ファンドAには20万円の資金が集まったことになります。また、総口数は20万口です。

そして、日本株ファンドAはA社とB社に10万円ずつ投資したとします。

日本株ファンドAの例

1ヶ月後、A社の株価が2倍(20万円)になり、B社の株価が半額(5万円)になったとします。このとき、日本株ファンドAが保有している株式の時価は25万円です。

配当金や信託報酬を無視して計算すると、基準価額は「25万円 ÷ 20万口 × 1万 = 12,500円」になります。

山田さんたちは「1万口あたり1万円」でこの投資信託を購入していたので、資産は1.25倍に増えたことになります。

実際には、配当金を加えたり、信託報酬を差し引いたりする必要があります。また上述のとおり、為替の影響を考慮することもあります。

そのため、今回の例のように簡単に算出できるわけではありませんが、基準価額の算出方法の概要は理解できたと思います。そして、このような計算を毎日行っているため、基準価額は1日1回しか算出されないのです。

まとめ

  • 株価は刻一刻と変化しているが、基準価額は一日に一回しか算出されない。そのため、私たちは前日の基準価額を参考に投資信託の買い注文を出すことになる。
  • 通常、投資信託の基準価額は「1万口あたり1万円」からスタートする。
  • 基準価額は「純資産総額 ÷ 総口数 × 1万」で算出される。純資産総額は一日の取引が終了してから算出されるため、基準価額もそれに応じて日々計算されることになる。

今回は、投資信託の基準価額について詳しく解説してきました。株式投資における株価とは性質が大きく異なることを理解できたと思います。また、基準価額には純資産総額が影響していることもポイントです。今回紹介したことは投資信託の基本知識ですので、しっかりと理解しておきましょう。