株式投資における「株価」のように、投資信託には「基準価額」という価格があります。

そして、「ずっと基準価額が上がり続けている投資信託は割高なのでは?」のように、基準価額を見て投資信託の「割安 or 割高」を判断する人もいます。

ただ、これは株式投資における株価と、投資信託における基準価額を混同しています。

株価の場合はたしかに、その企業の価値に対して「割安 or 割高」の目安になります。ところが、基準価額は投資信託の「割安 or 割高」の目安になりません。基準価額が高いからといって、「割高だから今後は基準価額が下がる」ということにならないのです。

そこで今回は、基準価額が投資信託の「割安 or 割高」の目安にならない理由について解説します。優良な投資信託を見極めるためにも、基準価額に振り回されないようにしましょう。

基準価額の概要

まずは基準価額の概要を復習しておきましょう。

基準価額は1日に1回だけ算出される「投資信託の価格」です。通常、「1万口あたりの価格」として表示されます。また、多くの投資信託は「1万口あたり1万円」からスタートします。

例えば、ニッセイ日経225インデックスファンドという投資信託は、2004年1月28日に「1万口あたり1万円」の基準価額でスタートしました。その後、下図のように、1万口あたり6,000円台になったり26,000円台になったりと上下に動きながら推移しています。

ニッセイ日経225インデックスファンドの基準価額の推移

基準価額の算出方法

基準価額は以下の数式から算出されます。

1万口あたりの基準価額 = 純資産総額 ÷ 総口数 × 1万

純資産総額は、投資信託が保有している資産の総額です。具体的には、「投資信託が保有している株式や債券などの合計金額」と「配当金などの現金」の合計額から「信託報酬などの手数料」を差し引くことで算出されます。

投資信託の純資産総額

また総口数は、投資信託を買った人の口数の合計です。例えば、1,000人が1万口ずつ購入した場合、総口数は1,000万口になります。

このように、基準価額は純資産総額と総口数から算出されていることをしっかりと理解しておきましょう

基準価額が投資信託の割安・割高の目安にならない理由

基準価額が投資信託の割安・割高の目安にならない主な理由は3つあります。それぞれ順に解説していきます。

ファンドマネージャーは株式を売買している

アクティブファンド(市場平均以上の利益を追求する投資信託)の場合、ファンドマネージャーは利益を出すために積極的に株式を売買します。

利益を出すことが目的なので、通常は割高になった株式を売って、割安になった株式を買います。例えば、割高になったA社株を100万円分売って、割安になっているB社株を100万円分買うのです。

このとき、投資信託の純資産総額は変わりません(売買手数料が差し引かれるので、厳密には少しだけ純資産総額が下がります)。つまり、この売買で基準価額は変動しません。しかし、保有している株式は割高株から割安株に代わっています。

このように、ファンドマネージャーは利益を得るために、株の売買を常に行っています。そして、割高株を売却して現金化したり割安株に買い替えたりしても基準価額は変わりません。そのため、基準価額は投資信託の割安・割高を反映していないのです。

基準価額は投資信託が設定されたときの相場に依存する

インデックスファンド(日経平均株価などの市場平均に連動した値動きをする投資信託)の場合、基準価額は投資信託がスタートしたときの株式相場の影響を大きく受けることになります。

例えば、日経平均株価に連動する投資信託(=日経平均株価をベンチマークとした投資信託)として「ニッセイ日経225インデックスファンド」と「日経225インデックスe」があります。これらの基本情報は下記のとおりです。

ニッセイ日経225インデックスファンド 日経225インデックスe
設定日(運用開始日) 2004年1月28日 2016年1月8日
ベンチマーク 日経平均株価 日経平均株価
設定日の基準価額 1万口あたり1万円 1万口あたり1万円
2018年6月下旬の基準価額 25,093円 13,272円

いずれも「1万口あたり1万円」からスタートした投資信託ですが、2018年6月下旬における基準価額は、25,093円と13,272円というふうに大きな差があります。

さて、ここで質問です。

ニッセイ日経225インデックスファンドは日経225インデックスeに比べて割高でしょうか? 今後、ニッセイ日経225インデックスファンドは値下がりしやすく、日経225インデックスeは値上がりしやすいのでしょうか?

答えは “No” です。いずれの投資信託もほぼ同じ値動きをします。なぜなら、どちらも日経平均株価に連動する投資信託だからです。日経平均株価が5%上昇すれば、どちらの投資信託も約5%上昇するのです。

それでは、なぜこのように基準価額に差があるのでしょうか? その答えは「投資信託が設定されたときの日経平均株価が異なるから」です。

日経平均株価の推移

ニッセイ日経225インデックスファンドが設定された2004年1月28日の日経平均株価は約10,800円でした。一方、日経225インデックスeが設定された2016年1月8日の日経平均株価は約17,700円でした。

スタートしたときの日経平均株価が異なるのに、いずれの投資信託も同じ基準価額(1万口あたり1万円)で始まるのです。そのため、同じ値動きをする投資信託であるにも関わらず、基準価額は大きく異なるのです。

このように、基準価額は投資信託が設定されたときの相場に依存するため、投資信託の割安・割高の目安にならないのです。

分配金の影響を考慮できない

投資信託の中には、運用で得た利益などを「分配金」として顧客に配るものがあります。

分配金の原資は、投資信託が保有している現金などです。そのため、分配金を配ると純資産総額が下がります。その結果、基準価額が下がるのです。

一方、分配金を配らない投資信託の場合は分配金の影響を受けません。そのため、分配金を頻繁に支払う投資信託ほど基準価額は下がりやすいのです。

そして、分配金を支払ったことで基準価額が下がっているからといって、その投資信託が割安とはいえません。単に純資産総額の一部を切り崩して顧客に戻した結果が基準価額に反映されているだけなのです。

まとめ

  • 投資信託の基準価額は、純資産総額と総口数から算出される。
  • 基準価額は投資信託の割安・割高の目安にならない。その主な理由は「ファンドマネージャーは常に株式の売買を行っている」「基準価額は投資信託が設定された相場の影響を受ける」「分配金の影響を考慮できない」の3つである。

今回は、投資信託の基準価額が「割安 or 割高」の目安にならない理由について詳しく解説してきました。投資信託の基準価額は、株式投資における株価とはまったく異なる性質であることが理解できたと思います。基準価額に惑わされることなく、優良な投資信託を見極められるようになりましょう。