「銀行にお金を預けてもほとんど利子が付かない」という人は多いです。普通預金にしろ定期預金にしろ、金利が低いため預金ではお金が増えないのです。
それでは、なぜ日本は金利が低いのでしょうか? また、金利が上がれば株価はどのように動くのでしょうか?
これらの疑問に答えられる人は少ないです。ただ、経済を理解する上で「金利」はとても重要なキーワードになります。
そこで今回は、金利について詳しく解説していきます。金利と経済の関係を理解することは資産運用を成功させるための一歩になるので、内容をしっかりと理解するようにしてください。
金利には短期金利と長期金利がある
金利は短期金利と長期金利に大別できます。一般的に、短期は「1年未満」、長期は「1年以上」を意味します。
例えば、普通預金や1年未満の定期預金の金利は短期金利です。一方、1年以上の定期預金の金利は長期金利です。
原則として、銀行は金利を自由に設定できることになっています。ところが実際は、中央銀行(日本の場合は日本銀行)や債券市場によって金利はコントロールされています。
このことを理解するためには、短期金利と長期金利の特徴を知る必要があります。そこで、まずはそれぞれの金利の特徴について解説していきます。
短期金利の特徴
短期金利は中央銀行(日銀)がコントロールしやすい金利です。なぜなら、短期金利は日銀が設定する政策金利の影響を受けるからです。
一般の銀行は日銀の当座預金に一定のお金を預けることが義務付けられています。また、余分に預けたお金の一部に対して、政策金利という利子が付きます。そして、日銀は日本の景気をコントロールするために、政策金利を調節しているのです。
日本の経済が停滞しているとき
日本の経済が停滞しているとき、日銀は金融緩和を行います。簡単にいうと、「金融緩和=世の中に出回るお金の量を増やすこと」です。
このとき、日銀は政策金利を引き下げます。政策金利はマイナスになることもあります(マイナス金利=預けていたらお金を取られる状態)。
政策金利が低くなると一般の銀行は当座預金からお金を引き出そうとするため、世の中に出回るお金の量が増えます。そして、お金の流通量が増えるとお金の価値が下がるため、金利も下がります。
※ また、価値が低いものは金利を下げないと借りてもらえません。
このように景気が悪いときは、日銀は政策金利を下げてお金の流通量を増やそうとします。お金の流通量が増えると(=金利が下がると)企業は銀行から融資を受けやすくなるため、経済活動が活発になっていくのです。
日本では「ゼロ金利政策」や「マイナス金利政策」という言葉が話題になりました。これらは極端な金融緩和政策です。日本の経済を活性化させるために、日銀はこのような大胆な政策を行ったのです。
日本の経済が過熱気味のとき
景気が過熱するとインフレが進行しすぎる可能性があります。そのため、景気が過熱気味のときは、日銀はお金の流通量を減らそうとします。
具体的には、上記とは逆に政策金利を引き上げます。金融緩和とは正反対の政策のことを金融引き締めといいます。
このように、日銀は政策金利をコントロールすることにより、景気を調節しようとしているのです。
長期金利の特徴
短期金利が政策金利の影響を受けるのに対して、長期金利は債券市場で取引される10年物国債の金利の影響を受けます。
国が発行した国債は、満期を迎えるまで債券市場で売買されています。株式が株式市場で売買されるように、債券も債券市場で売買されているのです。そのため、国債価格は常に変動しています。
そして、国債価格と金利は反比例する関係にあります。つまり、国債価格が下がれば金利は上がり、国債価格が上がれば金利は下がるのです。同じように、金利が上がれば国債価格は下落し、金利が下がれば国債価格は上がります。
これは大事なポイントです。ただ、わかりにくいと思うので以下の例を見てください。
しかし5年後、山田さんは急に現金が必要になったので、債券市場でその国債を売ろうとしました。ただ、あまり買い手がいなかったため、50万円でしか売れませんでした。その国債を買った人を鈴木さんとします。
国債を買った鈴木さんは、満期までの5年間は毎年1万円をもらうことができます。また、満期で100万円を受け取ります。債券市場で売買される金額に関わらず、満期でもらえる金額と利子は変動しないのです。
鈴木さんは、50万円で買って1万円の利子を受け取ることができました。つまり年利2%です。このように、国債価格が値下がりすると、必然的に金利は上がるのです。
山田さんは5年物国債を買いたいので、10年物国債を債券市場で売りました。山田さんのように考える人が多かったため、10年物国債は債券市場で大量に売られて値下がりしました。このように、国債の金利が上がるとこれまで保有していた国債は値下がりするのです。
極端な例を示しましたが、この例から「債券価格と金利は反比例する」ことを理解しておいてください。
このように、長期金利は債券価格で決まるため、かつては「日銀は長期金利をコントロールできない」といわれていました。
しかし、日銀は債券市場に介入して10年物国債を大量に売買することで長期金利をコントロールするようになりました。これを「公開市場操作」といいます。また、日銀が国債を買うことを「買いオペ」、国債を売ることを「売りオペ」といいます。
日銀は、政策金利の変更だけでなく公開市場操作などの金融政策を通じて、日本の景気をコントロールしようとしているのです。
良い金利上昇
それでは次に、金利が上昇するケースを考えていきましょう。上の図のように、日銀の金融政策だけに着目すると、「金利上昇=金融引き締め」となります。
ただ実際は、金利の上昇には経済にとって「良い金利上昇」と「悪い金利上昇」があります。まずは良い金利上昇について説明します。
良い金利上昇は、景気が良くなっているときの金利上昇です。以下のような流れで長期金利が上がります。
また上述のとおり、景気が良くなると、景気が過熱しすぎるのを防ぐために中央銀行(日銀)は適度な金融引き締めを行います。その結果、短期金利が少しずつ上昇します。
このように、経済が適度に活性化している局面で起こる金利上昇は「良い金利上昇」です。ただ、短期金利が上がりすぎて長期金利の値に近づいてくると、景気はしだいに後退していきます。景気は数年間隔で循環しているためこれは仕方ありません。
悪い金利上昇
悪い金利上昇とは、「国の財政状況の悪化」や「インフレ懸念が高まるとき」に起こる金利上昇です。
例えば、国の財政状況が悪化して国の信頼性がなくなると、国債が債券市場で売られまくります。満期を迎えても元本(上記の例1の場合は100万円)を受け取れない可能性があるからです。債券市場で国債価格が暴落するため、長期金利が急上昇します。
また、金融引き締め政策が後手にまわり、「将来インフレになりそう」と考える投資家が増えたときも長期金利は上がります。
インフレになるとお金の価値が下がります(=物価が上がります)。10年後に100万円の元本を受け取ったとしても、物価が10倍になっていたら100万円の価値は10分の1になってしまいます。そのため、将来のインフレ懸念が高まると「価値が下がる前に現金化しておこう」と考える投資家が増えるため、国債は売られるのです。
日本は特に「国の財政状況の悪化」による金利上昇に注意しなければなりません。1,000兆円以上の借金を抱える日本にとって、金利が1%上昇することは利息の支払いが10兆円増えることを意味します。経済が後退している状況での悪い金利上昇はなんとしても避けなければならないのです。
日本国債は海外投資家に売り叩かれるリスクがある
経済の知識がある人であれば「日本国債を買い支えているのは日本国民なので、債券市場で売られることはないのでは?」と思うかもしれません。
その考えは半分正しいです。私たちが銀行や保険会社に預けたお金は、国債の購入に使われています。つまり、日本国債を買い支えているのは私たち日本人なのです。
日本人や日本の金融機関が国債を保有しているので、通常は日本国債が債券市場で売り叩かれることはありません。しかし、債券には先物市場があります。
詳しい説明は省略しますが、先物市場では株式投資の「空売り」のようなことが可能です。つまり、国債を保有していなくても売り注文を出すことができるのです。
そして、日本の財政状況が悪くなることを見越した海外投資家が、投機目的で大量に空売りを仕掛けてくる可能性があるのです(過去にも何度か仕掛けられていますが、過去の売り仕掛けは失敗に終わっています)。
日本国債がいつまでも安泰という保証はどこにもありません。私たちはそのことを常に頭に入れておかなければならないのです。
良い金利上昇か悪い金利上昇かはすぐに判断できない
この記事の冒頭で2つの質問をしました。
- なぜ日本は金利が低いのでしょうか?
- 金利が上がれば株価はどのように動くのでしょうか?
ここまでの説明である程度答えはわかったと思います。1の答えは「金利を下げて経済を活性化させるため」、2の答えは「金融引き締めや財政悪化による金利の上昇なら株価は下がる、債券から株式への資金移動による金利の上昇なら株価は上がる」です。
ただ、長期金利が上昇したときにその要因をすぐに判断することはできません(中央銀行による公開市場操作の場合はすぐにわかります)。
なぜなら、債券を売る理由は人によってさまざまだからです。株価が上昇すると予想して債券を売る人もいれば、財政状況が不安だから売る人もいます。また、海外投資家が投機目的で売り仕掛けてくることもあります。単に現金が必要になったから売る人もいます。
そのため、長期金利が上昇したからといって、良い金利上昇なのか悪い金利上昇なのかをすぐに判断できないのです。私たちはさまざまなケースを想定しつつ、市場の動きを冷静に見極める必要があるのです。
まとめ
- 中央銀行(日銀)は政策金利の変更や国債の売買を通じて、日本の景気をコントロールしようとしている。
- 景気が良くなっている局面での金利上昇は「良い金利上昇」である。一方、国の財政悪化やインフレが懸念されるときの金利上昇は「悪い金利上昇」である。
- 良い金利上昇か悪い金利上昇かはすぐに判断できない。
今回は、金利・経済・株価の関係について詳しく解説してきました。景気は数年単位で循環しています。そして景気の循環を読み解く上で、金利は非常に重要な指標になります。長期で資産運用を行う場合は、金利の動きを敏感に察知するようにしましょう。