株式投資をしている人の中には、塩漬け株(株価が暴落しても保有し続けている株)に悩んでいる人も多いです。

一般的に、塩漬け株に対しては「損失覚悟で売却(=損切り)をして、新たな銘柄に投資したほうがよい」と考えられています。私も基本的にはその考え方に賛成です。

ただ、「倒産リスクがない」「黒字企業である」という2つの条件を満たしていれば、理論的には将来株価が上がります。つまり、この2条件を満たしているのであれば、「塩漬け株をそのまま保有し続ける」という選択肢もあるのです。

そこで今回は、「倒産リスクのない黒字企業の株価はいつか上がる」と考える理由について述べていきます。塩漬け株に悩んでいる人は、このような考え方があることも覚えておいてください。



私が「倒産リスクのない黒字企業の株価はいつか上がる」と考える理由は2つあります。それぞれの理由を順に解説していきます。

理由1:黒字企業の「純資産」は年々大きくなる

黒字企業であれば毎年利益を生み出しています。そして、会社が生み出した純利益(税金などを支払った後の最終的な利益)はすべて株主のものになります。実際、株主は純利益の一部を配当金として受け取っているはずです。

では、配当金として株主に還元されなかった残りの利益はどうなるのでしょうか? 

残りの利益は利益剰余金として会社の純資産に組み入れられます。そもそも会社の純資産は株主のものなので、利益剰余金が純資産に組み入れられるのは当然なのです。

黒字企業の純資産は毎年大きくなる

そして、会社は純資産を使って次年度以降の設備投資や新たな事業を行います。

このサイクルが毎年続くので、黒字企業であれば年々会社の純資産が大きくなります。そして、純資産が増加することで、企業のPBR(株価純資産倍率)は変化します。なぜなら、PBRは以下の計算式で算出されるからです。

<PBRの計算式>
PBR = 株価 ÷ 1株あたり純資産

※ PBRは株価の割安 or 割高の目安となる指標です。 詳細は以下の記事をご覧ください。

PBRの意味と「PBR 1倍」が割安・割高の目安になる理由


上述のとおり、黒字企業であれば毎年純資産が増えていきます。つまり、上の計算式の分母が大きくなるのです。そのため、株価が同じであればPBRは小さくなります。そして、PBRが小さい企業の株は「割安」と判断されるので、買い手が集まって結果的に株価が上がります。

このように、「黒字企業 → 年々純資産が増える → (株価が同じであれば)PBRが小さくなる → 割安と判断する投資家が増える → 株を買う人が増える → 株価が上がる」という流れで、最終的に株価が上がるのです。

ただ、ここで注意しなければならないのは黒字倒産です。倒産してしまっては元も子もないので、上の図式が成り立つのは、「倒産リスクのない黒字企業」ということになります。

黒字倒産の原因と黒字倒産を避けるポイント

黒字倒産とは、会計上は儲かっているのに会社が倒産してしまうことです。

企業が黒字倒産に至る原因は、手元の現金が不足して、借入金や買掛金(まだ支払っていない代金)の支払いができなくなるからです。要は、資金繰りがうまくいかないからです。

そして、手元の現金が不足する原因は流動資産(すぐに現金化できる資産)が少ないからです。また、借入金などの支払いが増える原因は流動負債(すぐに返済が必要な負債)が多いからです。つまり、黒字倒産に至る原因は「流動資産が少なく流動負債が多いから」なのです。

黒字倒産の原因

そこで、黒字倒産を避けるためにも、流動資産が少なく流動負債の多い企業は投資対象から外さなければなりません。具体的な目安は、「流動資産が流動負債の1.2倍」です。流動資産がこれよりも少ない企業を投資対象にしてはいけないのです。

流動資産と流動負債は、企業が公表している貸借対照表(バランスシート)に記載されています。そのため、貸借対照表を見て黒字倒産のリスクがないことを確認しておく必要があります。

理由2:世の中の物価が上昇している

「倒産リスクのない黒字企業の株価はいつか上がる」と考えるもう一つの理由は「物価の上昇」です。

世界の物価は上昇し続けています。日本の物価上昇率はそれほど高くありませんが、それでも日本政府や日銀は日本の物価を上げようとしています。つまり、インフレを誘導しているのです。

日本政府や日銀がインフレに誘導する背景には日本の借金問題があります。日本の借金問題を少しでも解決するために、政府はインフレを誘導する必要があるのです。なぜなら、「インフレ=物価が上がる=お金の価値が下がる=借金の価値が下がる」だからです。

例えば、江戸時代の人が100円の借金をしていたら大問題です。ところが、現代に生きる私たちが100円の借金をしてもまったく問題ないはずです。これは、江戸時代から比べると大幅にお金の価値が下落しているからです。

これと同じ原理で、インフレが進行すれば(新たな借金をしない限り)日本の借金問題は解決に向かいます。そのため、日本政府は日本を少しずつインフレに誘導しているのです。

そして、インフレ(物価上昇)になるということは、企業が値上げをしているということです。つまり、企業の営業利益は増えています。そして、営業利益が増えることで、企業のPER(株価収益率)は変化します。なぜなら、PERは以下の計算式で算出されるからです。

<PERの計算式>
PER = 株価 ÷ 1株あたり利益

※ PERは株価の割安 or 割高の目安となる指標です。一般的には、「PER < 10 は割安」「PER > 20は割高」と判断されますが、例外もたくさんあります。

上述のとおり、インフレ(物価上昇)になれば営業利益が増えます。つまり、上の計算式の分母が大きくなるのです。そのため、株価が同じであればPERは小さくなります。そして、PERが小さい企業の株は「割安」と判断されるので、買い手が集まって結果的に株価が上昇します。

このように、「物価上昇 → 営業利益が増える → (株価が同じであれば)PERが小さくなる → 割安と判断する投資家が増える → 株を買う人が増える → 株価が上がる」という流れで、最終的に株価が上がるのです。

ただ、ここで注意しなければならないのは、株価の上昇スピードと物価上昇率の差です。つまり、株価の上昇スピードが物価上昇率よりも低ければ、結局損をしていることになるのです。

例えば、100万円で買った株が10年後に110万円になったとします。つまり、10万円の利益です。ところが、この10年間に物価が10%以上上昇していた場合は、損をしたことになります。株で損をしているわけではないので精神的なダメージは少ないですが、実質的には損をしているのです。

いずれにしろ、物価上昇が続く世の中では企業の株価はいずれ上昇します。そのため、上述の「純資産が年々大きくなる」という理由と合わせて考えると、塩漬け株であってもいずれ株価は上昇すると考えられます。ただ、その上昇スピードは決して早くないことを認識しておいてください。

まとめ

  • 黒字企業の純資産は毎年大きくなる。そのため、株価が同じであれば年々PBRが減少する。PBRが減少すれば、「割安」と判断する投資家が増えるため、結果的に株価は上昇する。
  • 黒字倒産を避けるためにも、流動資産が流動負債の1.2倍以下の企業は投資対象から外すべきである。
  • 物価の上昇に伴って、企業の株価も上がっていく。ただし、株価の上昇スピードが物価上昇率よりも低い場合は、結局損をしていることになる。

今回は「倒産リスクのない黒字企業の株価はいつか上がる」と考えられる理由について解説してきました。

塩漬け株を保有している場合は、基本的には損切りすることをおすすめします。ただ、その企業が「倒産リスクがない」「黒字企業である」という条件を満たすのであれば、保有し続けるという選択肢もあります。物価上昇の影響も加味すると、いずれ株価は上昇すると考えられるからです。