投資信託の購入方法には「積立投資」と「一括投資(一括購入)」があります。

積立投資は、毎月コツコツと一定金額を投資する投資スタイルです。相場の変動に一喜一憂することなく長期的な資産形成が可能となるため、「投資経験の浅い人」や「長期で運用できる人」にベストの投資方法です。

一方、一括投資では、一度に大きなお金を投資信託に投じることになります。積立投資に比べるとリスクの高い投資方法なので、「投資経験がある人」や「効率よく運用するために多少のリスクは許容できる人」に適しています。

今回は、投資信託に一括投資するときの注意点について解説していきます。投資信託の一括投資はリスクが高いですが、慎重に商品を選べば大損することなく安定的に運用できるようになります。

一括投資するときの注意点

一括投資をするときは、「金融ショックが起こっても暴落しない仕組みがあるか?」という視点を持つことが重要です。積立投資と違って、一括投資の場合は基準価額(投資信託の価格)が下落しにくい投資信託を選ぶ必要があるのです。

<積立投資の場合>
積立投資の場合は、毎月一定の金額でコツコツと投資信託を購入します。そのため、基準価額が暴落しているときは安く買えるチャンスなのです。したがって、積立投資を行う投資信託に「暴落しない仕組み」は必要ありません。

ただし、長期的に資産価値が上がる投資信託(世界経済に分散投資をする投資信託など)を選ぶことが前提となります。

それでは、「暴落しない仕組み」にはどのようなものがあるのでしょうか? ここでは、一例として私が実際に一括投資した投資信託の特徴を紹介します。

<私が一括投資した投資信託>

  • 投資信託①:キャッシュポジションを50%まで取ることができる(株価の下落局面で現金の保有比率を上げられる)
  • 投資信託②ロング・ショート戦略で運用する(日経平均先物などを売り建てできるため、株価の下落局面でも利益が得られる)
  • 投資信託③:株式以外の商品に投資する(株価とは異なる値動きをする)
  • 投資信託④:先進国の大型ディフェンシブ株(景気変動の影響を受けにくい株)へ投資する

④に関しては、金融ショックの影響で基準価額が暴落する可能性があります。しかし、①~③を組み合わせることで、全体として資産価値が目減りしにくくなっています。

今回は、これらのうち「②ロング・ショート戦略」に絞って詳しく解説していきます。

ロング・ショート戦略とは

投資用語で、「ロング=買い」「ショート=売り」という意味があります。

したがって、ロング・ショート戦略とは「値上がりが期待できる銘柄(A)を買い、値下がりが予想される銘柄(B)を売る」という投資手法です。このとき、「銘柄Aをロングして、銘柄Bをショートする」や「銘柄Aがロングポジションで銘柄Bがショートポジション」のように表現します。

ただし、ショートするのは「すでに保有している株」ではありません。日経平均先物取引や信用取引を利用して、保有していない銘柄をショートするのです。これを「売り建て」といいます。

それでは、「保有していない銘柄をショート(売り建て)する」とはどういうことでしょうか? わかりにくいと思うので、以下の説明をご覧ください。

■ 日経平均先物取引や信用取引を利用したショート(売り建て)とは?
通常の株式投資は、「株を買う→売る」という順です。このときは、株価が上がれば利益になります。

一方、売り建ての場合は「証券会社から株を借りてきて売る → 株を買い戻して証券会社に返す」のような取引を行います。そのため、株価が下がれば利益になるのです。

ロング・ショート戦略の概略

引用元:SBI証券


このように、ロング(買い)とショート(売り)を組み合わせることで、株価の上昇局面や下落局面に関係なく利益を追求することができます。これがロング・ショート戦略の最大のメリットです。

ただ、ロング・ショート戦略にもデメリットがあります。

相場が一方的に右肩上がりのときは、ショートした銘柄が邪魔をして、思ったほど利益が得られないのです。つまり、アベノミクスのように株式相場が絶好調のときは、ロング・ショート戦略ではなく、単純に株を買うだけのほうがリターンは大きくなります。

以上のことを、実際の運用成績を見ながら確認してみましょう。

ロング・ショート戦略によって運用成績は安定する

下図は、ロング・ショート戦略を取る「AR 国内バリュー株式ファンド(愛称:サムライバリュー)」という投資信託の運用成績です。

サムライバリューの運用報告書


「第2期(2013年7月22日)」の運用成績を見てください。サムライバリューの決算日は毎年7月22日なので、第2期は2012年7月23日~2013年7月22日になります。

この間、東証株価指数(TOPIX)は68.8%も上昇しています。つまり、株価は平均して約1.7倍になったのです。しかし、サムライバリューは9.8%しか上昇していません。第2期はロング・ショート戦略のデメリットが顕著に表れている時期であることがわかります。

一方、第5期(2015年7月23日~2016年7月22日)はロング・ショート戦略のメリットが表れています。この期間、TOPIXは19.8%下落していますが、サムライバリューは11.9%上昇しています。ロング・ショート戦略を取っているため、株価の下落局面でも利益を得ることができているのです。

このように、ロング・ショート戦略を利用すると、株価の下落局面でも安定して運用することができます。上昇局面で大きな利益は得られませんが、「金融ショックが起こっても安定的に運用できる」という点はかなり魅力的ではないでしょうか。

ロング・ショート戦略を取る投資信託の例

ここまでの説明で、暴落しないための仕組みとして「ロング・ショート戦略」が有効であることがわかったと思います。

そこで最後に、ロング・ショート戦略を取る投資信託をいくつか紹介します。

<ロング・ショート戦略を取る投資信託の例>

  • AR国内バリュー株式ファンド(愛称:サムライバリュー) [アセットマネジメントOne]
  • スパークス・日本株・L&S [スパークス・アセット・マネジメント]
  • げんせん投信 [ニッセイアセットマネジメント]

※ [ ]内は運用会社
※ 私は「サムライバリュー」に投資しています

繰り返しになりますが、これらは一括投資向けの投資信託です。これらを積立投資しても構いませんが、積立投資の特徴を考慮すると、あえてこれらの投資信託を選ぶメリットはないと思います。

まとめ

  • 投資信託に一括投資するときは「暴落しない仕組みがあるか?」という観点で商品を選ぶ必要がある。
  • ロング・ショート戦略を取る投資信託であれば、株価が下落する局面でも利益を追求することができる。しかし、相場が一方的に右肩上がりのときは、あまり大きな利益を得ることができない。

今回は、投資信託に一括投資するときの注意点について述べてきました。ロング・ショート戦略は株価が下落する局面でも利益を狙える魅力的な戦略です。このような戦略を持つ投資信託をあなたのポートフォリオ(金融商品の組み合わせ)に組み入れることで、安定した運用が可能となるのです。