信用取引(証券会社から借金をして行う株取引)に慣れてくると、徐々に大きな取引に興味が出てきます。自己資金が少なくても大きな取引をすることで、多くの利益を得られるからです。

しかし、大きな取引をすると、利益だけでなく損失も膨れ上がる可能性があります。そのため、信用取引で大きな取引をするときは、しっかりとリスクを管理する必要があります。

リスク管理ができていないと、大きな損失を抱えてしまい、証券会社から追加入金を督促されてしまいます。これを追加保証金(略して追証(おいしょう))といいます。

追証が発生すると、証券口座の残高が減った上に、銀行口座の残高も減ってしまうため、精神的にかなり辛いです。私も過去に経験しているので、その気持ちはよくわかります。

そこで今回は、「追証が発生する仕組み」と「追証を発生させないためのポイント」を中心に解説していきます。信用取引を行う上では必ず理解しておくべき内容なので、しっかりと学び取ってください。

信用取引の概要

信用取引では、証券口座に預けたお金を担保にして、その約3倍の金額まで取引することができます。例えば、証券口座に100万円を入金しておけば、約300万円まで株取引ができます。このように、自己資金よりも大きな金額の取引をすることを「レバレッジを効かせる」といいます。

レバレッジこそが信用取引の最大のメリットといえます。また信用取引では、空売り(下落相場で儲けられる株取引)もできるので、現物取引(自己資金だけで行う株取引)に比べて投資の幅が広がります。

このように、信用取引には現物取引にはない魅力があります。しかし、上述のとおり、しっかりとリスク管理をしておかないと損失が大きくなり、追加保証金(追証)が発生してしまいます。

ここからは、追証が発生する仕組みを理解するために、信用取引の「委託保証金」と「委託保証金率」について詳しく説明していきます。

委託保証金と委託保証金率

信用取引の担保となるお金のことを委託保証金といいます。そして、信用取引の取引金額に対する委託保証金の割合のことを委託保証金率(%)といいます(「維持率」、「建玉維持率」、「信用維持率」とも呼ばれます)。

例えば、証券口座に100万円を入金したとします。この場合、この100万円が委託保証金です。そして、300万円の信用取引をしたとします。すると、委託保証金率は「100万 ÷ 300万 = 33%」になります。

一般的に、「委託保証金は30万円以上」かつ「委託保証金率は30%以上」というルールがあります。

そのため、信用取引をする場合は、必ず証券口座に30万円以上を入金する必要があります。また上述の通り、信用取引で扱える金額は「委託保証金の約3倍まで」です。これ以上の金額の取引をすると「委託保証金率 > 30%」のルールに違反してしまうことになります。

普段の取引で委託保証金率を計算することは滅多にありません。ただ、追証の仕組みを理解するためには必要な知識になるので、しっかりと理解しておきましょう。

現物株を委託保証金に加算できる(代用有価証券)

ここまでは、「委託保証金=現金」として説明してきました。しかし、実は委託保証金は現金だけではありません。あなたが保有している現物株や債券を委託保証金に加算することもできるのです。

具体的には、現物株の時価に80%を掛けた金額を委託保証金として追加できるのです。このように、委託保証金に加算する株式のことを代用有価証券といいます。

例えば、以下のケースを考えてみましょう。

<例1>

  • 証券口座の現金:50万円
  • 保有している現物株:株価5,000円の株を100株
  • 信用取引で買った株:株価1万円の株を200株(200万円の信用取引)

  • この場合の委託保証金:現金50万円 + 株5,000円 × 100株 × 80% = 90万円
  • この場合の委託保証金率:90万円 ÷ 200万円 = 45%

まずは<例1>を参考に、委託保証金と委託保証金率の計算方法を理解しておいてください。今回はこの<例1>を使って、追証が発生する仕組みについて解説していきます。

追証が発生する仕組み

ここまで読んで気づいた人がいるかもしれませんが、委託保証金率は常に変動しています。なぜなら、「現物株の株価」は常に動いているからです。

上記の<例1>を使って、現物株の株価が値下がりしたケースを確認してみましょう。

<例2>現物株の株価が5,000円から2,000円に値下がりした場合

  • 証券口座の現金:50万円
  • 保有している現物株:株価2,000円の株を100株
  • 信用取引で買った株:株価1万円の株を200株(200万円の信用取引)

  • この場合の委託保証金:現金50万円 + 株2,000円 × 100株 × 80% = 66万円
  • この場合の委託保証金率:66万円 ÷ 200万円 = 33%

<例1>に示したとおり、委託保証金率は元々45%でした。ところが、現物株の株価が下落した影響で、委託保証金率は33%に下がってしまったのです。このように、現物株の株価が下落すると委託保証金率は下がることを覚えておいてください。

また、委託保証金率に影響するのは現物株だけではありません。信用取引で生じた含み損も委託保証金率に大きく影響します。なぜなら、信用取引で生じた含み損は委託保証金から差し引かれるからです。

わかりにくいと思うので、<例1>を使って、信用取引で含み損が生じたケースを確認してみましょう。

<例3>信用取引で買った株が1万円から8,000円に値下がりした場合

  • 証券口座の現金:50万円
  • 保有している現物株:株価5,000円の株を100株
  • 信用取引で買った株:株価1万円の株を200株(200万円の信用取引)
  • 信用取引の含み損:(10,000 - 8,000)× 200株 = 40万円

  • この場合の委託保証金:現金50万円 + 株5,000円 × 100株 × 80% - 40万円 = 50万円
  • この場合の委託保証金率:50万円 ÷ 200万円 = 25%

※委託保証金率の計算には、値下がりする前の信用取引の金額を使います

<例1>に示したとおり、委託保証金率は元々45%でした。ところが、信用取引で含み損が生じたことで、委託保証金率は25%に下がってしまったのです。このように、信用取引で含み損が生じた場合も、委託保証金率は下がることを理解しておきましょう。

ここまで述べてきたように、「現物株の株価の変動」と「信用取引で生じた含み損」が影響するため、委託保証金率は常に変動しているのです。

そして、委託保証金率が下がりすぎると、追加でお金を入金するように証券会社から督促されます。これが冒頭に示した追加保証金(追証)です。

追証が発生してしまう基準のことを「最低保証金維持率」または「追証ライン」といいます。

最低保証金維持率(追証ライン)は証券会社によって異なります。私が使っているSBI証券の場合は20%です。委託保証金率が30%を切った時点でアラートメッセージが表示され、20%を切ると追証が発生するのです。督促される入金額は、委託保証金率が20%に戻るのに必要な金額です。

追証が発生したときの対応

追証が発生したら、翌々営業日の15:30までに「追証を入金」or「信用買いした銘柄を売却(空売りの場合は買戻し)」のいずれかを選択しなければなりません。

翌日に株価が急上昇して委託保証金率が回復したとしても、いったん発生した追証は消えません。したがって、必ず上記のいずれかを選択するようにしてください。

追証を放置した場合、追証発生の3営業日後に信用買いした銘柄が証券会社によって勝手に売却されます(空売りの場合は買戻しされます)。そして、信用取引で生じた損失は、証券口座の現金で補填されます。現金が足りない場合は、現物株が勝手に売却されます。

それでも現金が足りない場合は、更に入金を督促されます。無視をしたら法的な措置を取られる可能性もあります。

このように、追証が発生すると本当は手放したくない株式を売ることになるかもしれません。そのため、追証が発生するリスクは極力回避する必要があります。そこで次からは、追証のリスクを減らす方法について説明していきます。

追証を発生させないためのポイント

追証を発生させないポイントは、「信用取引の金額を大きくしすぎない」「二階建てを避ける」「現金を確保しておく」の3点です。それぞれ順に解説していきます。

ポイント① 信用取引の金額を大きくしすぎない

追証を発生させないための最善策は、「信用取引の金額を大きくしすぎないこと」です。これさえ守っておけば、追証が発生することはありません。

私は、信用取引をする金額は「口座残高(現金+現物株の合計額)の半分以下」になるようにしています。

例えば、口座残高が100万円とします。本来なら約300万円まで信用取引ができますが、50万円以下に抑えています。この場合、委託保証金率は「100万 ÷ 50万 = 200%」になります。このような状態であれば、万一信用買いした会社が倒産しても追証が発生することはありません。

ポイント② 二階建て取引を避ける

二階建て取引とは、現物株で保有している銘柄をさらに信用買いすることです。魅力的な銘柄を見つけたときに、「たくさん買いたい」と思って、現物株だけでなく信用買いもしてしまうパターンです。

二階建て取引をした銘柄が値下がりすると当然大きなダメージを受けます。そして、「現物株の株価の下落(例2)」と「信用取引で生じた含み損(例3)」の影響を同時に受けるため、委託保証金率は大きく下がります。

二階建て取引は追証リスクが高いため、独自のルールを設定している証券会社が多いです。例えば、出来高があまりに少ない銘柄(=売りたくても売れない状態になる銘柄)などは「二階建て制限銘柄」に指定され、特別な計算方法で委託保証金率が計算されます。

このように、二階建て取引は基本的には追証リスクの高い取引です。ただ、意外に思うかもしれませんが、私自身は躊躇なく二階建て取引をしています。私の場合はポイント①を厳守しているので、二階建て取引をしても追証が発生するリスクはほとんどないのです。

ポイント③ 現金を確保しておく

上述のとおり、委託保証金は、現金と株式(株価 × 株数 × 80%)の合計です。ところが、株価は常に変動しているため、株式の割合が多いと委託保証金率も変動しやすいです。

そのため、委託保証金は現金を主体にして、変動しやすい株式の割合は低く抑えておくとよいでしょう。

私自身も証券口座には一定の現金を常に確保するようにしています。私の場合は、株主優待の取得やIPO投資(新規上場株への投資)が目的で現金を確保していますが、結果的に追証リスクを下げることにもつながっています。

まとめ

  • 委託保証金率は、「現物株の株価の変動」と「信用取引で生じた含み損」の影響を受けて常に変動している。
  • 委託保証金率が下がりすぎると追加保証金(追証)が発生する。
  • 追証が発生したら、翌々営業日の15:30までに「追証を入金」or「信用買いした銘柄を売却」のいずれかを必ず選択する。追証を放置した場合、信用買いした銘柄や現物株が証券会社によって勝手に売却される。
  • 追証を発生させないためのポイントは「信用取引の金額を大きくしすぎない」「二階建て取引を避ける」「現金を確保しておく」の3点である。

今回は信用取引で追証が発生する仕組みと追証の予防策について解説してきました。私はリーマン・ショックのときに、実際に追証が発生して証券会社に数十万円を入金した経験があります。私自身はもう二度と同じ経験をしたくありません。

あなたも信用取引をするときは、今回の内容を参考にしっかりとリスク管理をするようにしてください。