ファンダメンタル分析(企業の財務体質や経営状態の分析)を行って株式投資をしている人であれば、PBRやROEという言葉を聞いたことがあると思います。PBRとROEは、企業を分析する上でとても重要な指標です。
そして、PBRとROEにはおもしろい関係があります。そこで今回は、貸借対照表(バランスシート)を用いてPBRとROEの復習をした後、それぞれの関係性について述べていきます。PBRやROEなどの指標を単独で学ぶよりも、それらの関係性を学ぶことで、より理解が深まるはずです。
貸借対照表(バランスシート)、PBR、ROEの概要
貸借対照表とは、「企業が事業資金をどのように調達し、集めた資金をどのように使っているか」を示した表です。貸借対照表を図に示すと以下のようになります。
まずは、貸借対照表の「負債」「純資産」「資産」の違いを把握しておきましょう。
- 負債:銀行からの融資や社債の発行などで集めたお金(=借金)
- 純資産(≒自己資本)※:株主からの出資金や会社が過去に稼いだ利益(利益剰余金)
<資金の使い道>
- 資産:現金そのものや現金化できるもの(在庫、機械、工場、土地など)
会社は負債と純資産(≒自己資本)を事業資金としています。これらが貸借対照表の右側に記載されています。また、事業資金の使い道は「資産」として、貸借対照表の左側に記載されています。
今回、PBRとROEの関係を学ぶ上で重要なポイントは「会計上、純資産(≒自己資本)はすべて株主のもの」ということです。つまり、出資金だけでなく、会社が稼いで貯めておいた利益剰余金も株主のものなのです。
会社は負債と純資産を事業資金として使っていますが、平たくいうと「借金と株主のお金を使って事業を行っている」ということになります。
以上を把握しておくとPBRとROEの関係を理解しやすくなります。
PBR(株価純資産倍率)とは
PBR(株価純資産倍率)は、現在の株価が割高か割安かを判断するための指標です。
仮に、一人の大富豪(Aさん)がある会社の株を買い占めたとします。すると、その会社の純資産はすべてAさんのものになります。
Aさんからすると、株を買い占めるときに支払った金額よりも会社の純資産が大きければ得をしたことになります。つまり、Aさんが買ったときの株価は割安だったことになります。
逆に、Aさんが株を買い占めるときに支払った金額よりも会社の純資産が小さければ、Aさんは損をしたことになります。つまり、Aさんが買ったときの株価は割高だったことになります。
このように、「株を買い占めるのに必要な金額」と「会社の純資産」を比較することで、株価の割安・割高を判断することができます。そして、このときの指標がPBRなのです。PBRは以下のように「株価 ÷ 一株あたり純資産」で計算されます。
そして、PBR<1なら株価は割安、PBR>1なら株価は割高という目安になります。
ROE(自己資本利益率)とは
ROE(自己資本利益率)は、「企業が自己資本を使ってどれくらい効率よく利益を得ているか」を示す指標です。自己資本は株主のものなので、株主目線で考えると、「自分たちのお金を使って企業はどれくらい稼いでいるのか?」の目安になるのがROEなのです。
ROEは「純利益 ÷ 自己資本 × 100」で計算することができます。純利益とは、税金などを支払ったあとに残る最終的な利益のことです。そして一般的に、ROEが10%以上であれば、収益力の高い企業とみなされます。
ROE=10%ということは、「企業は株主のお金を使って、その10%の利益を稼いでいる」ということです。株主にとっては、ある意味、「利回り 10%」の投資先にお金を預けていることになるので、非常に優秀な投資先といえます(ただ実際は、企業が得た利益のすべてが配当金として株主に返ってくるわけではありません)。
このように、PBRとROEはいずれも貸借対照表の純資産(≒自己資本)に関係している指標です。それでは、これらにどのような関係性があるか確認していきましょう。
純利益は利益剰余金として自己資本に組み込まれる
PBRとROEの関係を把握するために、今回は、以下の貸借対照表を用いて解説していきます。この会社の収益力は「ROE 10%」と高く、1年で10億円の純利益を得ることができたとします。
上述のとおり、利益剰余金は「会社が過去に稼いだ利益を貯めておいたもの」です。そのため、黒字企業であれば、毎年、利益剰余金が増えていくことになります。
ただ、利益剰余金の一部は配当金として株主に支払われます。仮に、純利益の30%を株主に配当金として還元するとします(この割合のことを配当性向といいます)。この場合、純利益の70%に相当する分だけ利益剰余金が増えることになります。
このように、通常、黒字企業の純資産は毎年増えることになります。そして、純資産はPBRの計算式の分母なので、株価が同じであれば純資産の増加に応じてPBRは小さくなるのです。
また、ROEが高い企業ほど効率よく稼ぎます。そのため、ROEが高い企業ほど純資産が増えるペースが早い(=PBRが小さくなるペースが早い)ということになります。
このように、ROEとPBRには密接な関係があります。この関係性を理解しておけば、より深く企業分析を行うことができます。
ROEが高いとPBRも高くなりやすい
ここまで述べてきたように、ROEが高い企業は自己資本が増えるペースが早いです。そのため、ROEが高い企業は将来的にPBRが小さくなります。
ただ、株価は将来を見越して変動します。そのため、ROEが高い企業の場合、「将来の自己資本の増加を見越してPBRがすでに高くなっている」というケースが多いです。
このことを示したのが以下の図です。
この図から、次のような傾向があることが読み取れます。
- ROEが小さいとき(図のグレーの部分):PBRは1.0付近に停滞する
- ROEが大きいとき(図の赤の部分):PBRは1以上になる
この図は東証一部全体のROEとPBRの関係を表したものです(2003年1月以降、毎月末のTOPIXのROEとPBRをグラフ化したもの)。ただ、これは個別の企業についても当てはまります。
つまり、ROEが高い企業はPBRも高くなりやすいのです。いいかえると、ROEが高いのにPBRが1倍以下の企業は割安株ということになります。そのような企業はなかなか見つけられませんが、もしそのような企業を見つけたときは、投資先候補として積極的に検討するとよいでしょう。
まとめ
- PBRとROEはいずれも貸借対照表の純資産(≒自己資本)に関連する指標である。そのため、これらの2つの指標には密接な関係がある。
- 企業が得た純利益は利益剰余金に組み込まれる。そのため、純利益から配当金を差し引いた金額だけ自己資本が増えることになる。
- 「ROEが高い企業=自己資本が増えるペースが早い企業=PBRが小さくなるペースが早い企業」である。そのため、ROEの高い企業の場合、将来のPBR低下を見越してすでにPBRが高くなっていることが多い。
今回は、PBRとROEの関係性について詳しく解説してきました。今回の記事を読むことで、単純に「PBRが1倍以上の企業は割高」とはいえないことが理解できたと思います。
PBR 1倍以上の企業は、「現時点の純資産で判断すると割高だが、ROEが高いのであれば、将来的に割安になる可能性がある」と考えるのが正しい考え方なのです。そのため、投資先の企業を選ぶときは、PBRだけでなくROEも含めて分析する必要があります。
株式投資をしている人の中でも、このように分析している人は意外と少ないです。この考え方を身につけるだけでも一歩先を行く投資家になれるので、あなたもぜひこの考え方を習得してみてください。