株価の割安・割高を判断する指標の一つにPER(株価収益率)があります。

一般的に、「PER 10倍以下は割安、PER 20倍以上は割高」と考えられています。ただ、PER 10倍以下の銘柄を見つけたからといって、安易に飛びついて投資するのは避けたほうがよいです。「PERが低い」という理由だけで投資すると痛い目にあう可能性があるからです。

そこで今回は、PERの概要を復習した後、低PERの銘柄に飛びついてはいけない理由を解説していきます。PERだけを指標に株式投資をするのは危険であることを理解しておきましょう。

PERの意味

まずはPERの復習をしておきましょう。

PERは「現在の株価」を「1株あたり利益(予想値)」で割って算出される値です。つまり、「現在の株価は1株が生み出す利益の何倍か?」を見るための指標なのです。

<PERの計算式>
PER = 株価 ÷ 1株あたり利益(予想値)

少しわかりにくいと思うので、トヨタ自動車(銘柄コード:7203)を例に確認していきましょう。

トヨタ自動車の株価と1株あたり利益

トヨタ自動車の現在の株価は6,696円、1株あたりの利益は781円と予想されています。これは、「投資家が6,696円を投資すると、トヨタ自動車はそのお金を使って1年間で781円の利益を生み出す」という意味です。

このときPERは、株価(6,696円)を1株あたり利益(781円)で割って「8.57倍」になります。

トヨタ自動車のPER

冒頭に述べたとおり、一般的に「PER 10倍以下は割安、PER 20倍以上は割高」と考えられています。実際、私が投資先を選ぶときも基本的には「PER 20倍以下」の企業を選ぶようにしています。

ただ、PER 10倍以下の一見割安に見える銘柄を見つけてもすぐに投資することはありません低PER銘柄には注意する必要があるからです。

それでは、低PER銘柄に投資するときはどう注意すればよいのでしょうか? それを理解するために、PERが変化する要因についてもう少し深掘りしていきましょう。

「株価」or「1株あたり利益(予想値)」が変化すればPERも変わる

PERの計算式「PER = 株価 ÷ 1株あたり利益」からわかるとおり、PERは株価と1株あたり利益(予想値)から成り立っています。つまり、株価や1株あたり利益(予想値)が変化することでPERは変わります。

例えば、A社の1株あたり利益が100円と予想されていたとします。このとき、A社の株価が1,000円から900円に下落すれば、PERは10倍から9倍に下がります。逆に、株価が2,000円に上がればPERは20倍になります。

株価が変わればPERも変わる

また、A社の業績が好調で、1株あたり利益(予想値)が100円から150円に上方修正されたとします。このとき、A社の株価が1,000円であればPERは10倍から6.67倍に下がります。逆に、A社の業績が不調で、1株あたり利益(予想値)が50円に下方修正されるとPERは20倍になります。

業績予想が修正されるとPERも変化する

このように、PERは「株価の変動」や「業績予想の修正」によって変化します。ただ、株価が常に変動しているのに対し、企業の業績予想は四半期決算の前などにならないと修正されません。

つまり、PERの計算式のうち、分母(株価)は変化しやすいが分子(1株あたり利益)は変化しにくいのです。これは大事なポイントなのでしっかりと理解しておきましょう。ここを理解しておけば、「低PER銘柄に飛びついてはいけない理由」も少しずつ見えてくると思います。

バリュートラップに注意:低PER銘柄に飛びついてはいけない

上述のとおり、企業から業績予想の下方修正が発表されると、1株あたり利益(予想値)が下がります。その結果、PERは上がります。つまり、現時点では低PERだとしても、業績予想の下方修正とともにPERは上がってしまうのです。

そして、株価は将来の企業業績を織り込んで推移するため、業績悪化が予想される企業の株価は低迷することが多いのです。これを「株価の先見性」といいます。

この場合、「低PERで割安」と思って投資すると痛い目にあってしまいます。将来、業績予想が下方修正されると、今の株価は割安というわけではなくなるからです。

バリュートラップ

このように、将来の業績悪化を織り込んで低PERになっている銘柄に投資するのは危険です。そして、このような低PER銘柄に投資してしまうことをバリュートラップ(割安の罠)といいます。

バリュートラップにはまらないためにも、低PERに放置されている銘柄を見つけたときは、将来の業績見通しに問題がないか確認する必要があるのです。

ただ、将来の業績悪化を見抜くのは簡単ではありません。私の場合は、四半期決算ごとの営業利益率や受注残高なども確認するようにしていますが、それでも正確に見抜くことはできません。

そのため、私が「一見業績が伸びているにも関わらず、PER 10倍以下で放置されている銘柄」に投資するときは、少額から投資するようにしています。そして、決算発表後に業績を確認してから投資金額を増やせばよいと考えています。

このように、低PER銘柄は将来の業績悪化を織り込んでいる可能性があります。そのため、深く考えずに低PER銘柄に飛びついてしまうと損をしてしまう危険性があるのです。

バリュー投資:本当の割安銘柄であれば投資してもよい

上述のとおり、将来の業績悪化が予想される低PER銘柄に投資するのは危険です。しかし、将来の見通しが悪くなく、企業の本質価値よりも株価が割安になっているのであれば、その会社に投資しても問題ありません

このような割安銘柄に投資することをバリュー投資といいます。世界一の株式投資家であるウォーレン・バフェットもバリュー投資を行って大成功を収めています。

それでは、どのような場合に本当の割安銘柄と考えられるのでしょうか? 私は以下の2つのケースであれば、本当の割安銘柄と考えて投資することがあります。

ファンダメンタルズは良好だが注目されていない不人気銘柄

あまり注目されていない不人気銘柄は、業績が良くても割安で放置され続けることがあります。

下のチャートを見てみてください。これはKSK(9687)というソフトウェア会社の株価チャートです。

KSK(9687)の株価チャート

この会社のファンダメンタルズ(財務状況や経営状況)は、私が見たところ特に問題はありませんでした。ただ、株価は少しずつ右肩下がりで、PERは10.5倍となっています。つまり、もう少し株価が下がれば、PERは10倍以下の割安な水準に達します。

また、株価チャートを見慣れている人であれば、「出来高が少ない」ということがチャートから読み取れると思います。つまり、この銘柄はあまり注目されていないために、売買が活発に行われずに安値で放置されているだけの可能性があります。

このような銘柄は、何らかのきっかけで注目を集めると株価が大きく上昇する可能性があります。そのため、「財務状況や業績に問題はないが、注目されていないために割安に放置されている不人気銘柄」であれば、投資してもよいでしょう。

ただ、このような銘柄は人気化するきっかけ(カタリストといいます)がないと、ずっと割安に放置され続ける可能性があります。そのため、不人気株に投資する場合は気長にカタリストを待ち続ける必要があります。

<カタリストの例>

  • 市場変更(新興市場から東証一部への変更など)
  • 業績予想の上方修正
  • 自社株買いや増配
  • 新商品の発表
  • 他社との業務提携
  • 政策や法律の変更

株式市場全体が低迷している

何らかの要因で株式市場全体が低迷しているときは、業績好調な会社でも株価が下落することがあります。

例えば、為替が急激に円高になったとします。このとき、ほぼ間違いなく日経平均株価は下落します。トヨタ自動車やキャノンなどの輸出企業は円高になると利益が減少するからです。

しかし、スーパーや百貨店のように国内で売上をあげている企業の場合、円高による業績への悪影響はあまりありません。それにも関わらず、円高で日経平均株価が下がるときは、これらの株価も下がる傾向にあります(外国人投資家が日本株を売ってドルに換金しているためと考えられる)。

このようなケースであれば、スーパーや百貨店の株価下落は一時的である可能性があります。そのため、ファンダメンタルズに問題がなければ、このタイミングでの投資を検討してみてもよいでしょう。

市場全体が回復するまでに時間がかかるかもしれませんが、企業業績に問題がなければ、いずれ株価は上昇に転じることが期待できるからです。

このように、「あまり注目されていない不人気株」や「市場全体の低迷に巻き込まれている銘柄」であれば、ファンダメンタルズを分析した上で投資対象として考えてもよいでしょう。企業業績に応じて、いずれ株価が上昇する可能性があります。

まとめ

  • 株価は将来の業績を織り込んで推移している。そのため、将来の業績悪化が予想される銘柄の株価は低迷していることが多い。このような銘柄を割安と勘違いして投資すると損をする可能性がある。これを「バリュートラップ(割安の罠)」という。
  • バリュートラップにかからないためにも、「一見業績が伸びているにもかかわらず、PERが10倍以下で放置されている株」に投資するときは、少額から投資したほうがよい。
  • 本当の割安銘柄に投資して、株価が上昇してくるまで待つ投資スタイルを「バリュー投資」という。「注目されていない不人気株」や「市場全体の低迷に巻き込まれている株」であれば、ファンダメンタルズを分析した上で、バリュー投資の対象として検討してみるとよい。

今回は低PER銘柄に投資するときの注意点やバリュー投資について解説してきました。低PER銘柄に投資するときは、バリュートラップに十分注意しなければならないことが理解できたと思います。

また、バリュー投資は多くの個人投資家が採用している投資スタイルです。私は企業の成長性も重視しているので、純粋なバリュー投資を行っているわけではありませんが、バリュー投資の考え方は常に参考にしています。

個人でも結果を出しやすい投資スタイルなので、株価の上昇を気長に待てる人はバリュー投資にトライしてみるとよいでしょう。