「卵を1つのカゴに盛るな」という言葉を聞いたことがある人もいると思います。
たくさんの卵を1つのカゴにまとめて入れると、そのカゴを落としたときにすべての卵が割れてしまいます。一方、複数のカゴに卵を入れておけば、1つのカゴを落としても卵がすべてなくなることはありません。
投資の世界では、分散投資の重要性を説明するときにこのようなたとえ話が使われます。分散投資とは、一つの企業や一つの投資信託にすべての資金を投じるのではなく、さまざまな銘柄や投資信託に投資することです。そうすることで、大損するリスクを回避することができるのです。
そこで今回は「ポートフォリオ運用」という概念について解説しながら、投資信託の分散投資について述べていきます。投資信託を一括投資(積み立て投資ではなく一度に大金を投じること)する場合はこの考え方がとても大事なので、概要を把握しておきましょう。
効果的な分散投資とは?
「卵を1つのカゴに盛るな」という言葉のとおり、資産運用を行うときは分散投資がとても重要です。
ただ、やみくもに分散すればよいというわけではありません。分散投資をするときは、各投資先の性質をしっかりと把握した上で分散させなければならないのです。
例えば、Aさんが下記のような投資信託に分散投資していたとします。このとき、Aさんは効果的な分散投資をできているでしょうか?
- ニッセイ日経225インデックスファンド
- 中小型成長株ファンド ネクストジャパン
- 日本株アルファ・カルテット
- スパークス・新・国際優良日本株ファンド
4つの投資信託を保有しているので、一見すると分散投資できているように思うかもしれません。ただ、4つの投資信託はすべて日本の株式を投資対象とした投資信託です。万一、日本が破綻してしまった場合は、これらの投資信託の価値はすべて暴落してしまいます。
したがって、Aさんの分散投資はあまり効果的とは言えません。Aさんの場合は、「外国株式」や「外国債券」なども組み合わせてより幅広く分散させることが望ましいのです。
このように、効果的な分散投資とは、「異なる値動きをする資産を組み合わせること」なのです。まずはこのことを理解しておきましょう。
ポートフォリオ運用でリスクを低減させる
株式投資にしろ投資信託にしろ、値上がりする優良な銘柄を買えば資産を増やすことができます。ただ、そのような銘柄を探し出すのは簡単ではありません。
また、長期の資産運用を行う場合、価格がずっと上がり続ける銘柄はありません。どんなに優良な銘柄であも、短期的な上昇と下落を繰り返しながら、少しずつ価格が上がっていくものです(下図参照)。
そこで、「将来の値動きはわからない」という前提に立って、異なる値動きをするさまざまな資産を組み合わせて運用するのが「ポートフォリオ運用」です。
そして、値動きの異なる複数の資産を組み合わせることによって、保有している資産全体の値動きを安定させることができます。値上がりする資産と値下がりする資産が組み合わされているため、全体として価格の変動幅(リスク)が小さくなるのです(下図参照)。
このように、さまざまなタイプの資産を組み合わせて保有することで、リスクを分散して安定した資産運用が可能となります。特に、投資信託の一括投資を行う場合は、長期的に安定した運用を行うためにもポートフォリオ運用の考え方が重要です。
一方、積立投資の場合は値動きが激しくてもまったく問題ありません。むしろ、そのほうが将来的に得られる利益は大きくなります。そのため、積立投資を行う場合は、あまりポートフォリオ運用にこだわる必要はありません。
4資産均等分散投資の例
ここでは、ポートフォリオ運用の例として、「日本株式」「外国株式」「日本債券」「外国債券」の4つの資産を均等に組み合わせたときの値動きを見てみましょう。
黄色のラインが日本株式、赤のラインが外国株式、水色のラインが日本債券、紫色のラインが外国債券の値動きを示しています。そして、緑色のラインがこれらの4資産に均等に分散投資したときの値動きです。
緑のラインは黄色(日本株式)や赤(外国株式)に比べて、かなり安定した値動きをしていることがわかると思います。
このように、値動きの異なる4つの資産を組み合わせることで、リスク(価格の変動幅)を抑えて、安定した運用が可能になります。そして、長期で運用することによって着実に資産を増やすことができているのです。
年齢に応じて株式中心から債券中心にシフトする
先程は、日本株式、外国株式、日本債券、外国債券の4資産に均等に分散投資する例を示しました。しかし、これはあくまで一例です。実際は、株式や債券の比率をあなたの年齢に応じて変えたほうがよいです。それでは、どのような配分で組み合わせるのがよいのでしょうか?
一般的には、株式の割合を「100~120 – 年齢」にするのがよいとされています。例えば、50歳の人であれば、株式の割合を50~70%にするのです。このように、年齢に応じて保有資産の割合を変えることを「エイジスライド」といいます。
厳密にこの計算式に当てはめて分散投資する必要はありませんが、少なくとも「年を取るに連れて債券の割合を増やす」と認識おいてください。
順相関と逆相関
最後に「順相関」と「逆相関」という用語について解説しておきます。
Aさんが保有していた4つの投資信託のように、同じような値動きをする関係を順相関といいます。日本株式と外国株式も基本的には連動して動くことが多いので、順相関の関係にあると言えます。
一方、互いに反対の値動きをする関係を逆相関といいます。例えば、「株式と金」は概ね逆相関する関係にあります。実際、下図のように、S&P500(アメリカの株価指数)と金の価格はだいたい反対の値動きをしていることがわかると思います。
また、「株式と債券」に関しては、“逆”相関とまでは言えませんが、相関性は低い資産同士になります。
以上をまとめると、ポートフォリオ運用のポイントは「逆相関あるいは相関性の低い複数の資産を組み合わせること」ということになります。
まとめ
- 逆相関あるいは相関性の低い複数の資産を組み合わせて運用することを「ポートフォリオ運用」という。ポートフォリオ運用を行うことで、保有資産全体の値動きは安定する。
- 投資信託の一括投資を行う場合は、長期的に安定した運用を行うためにポートフォリオ運用を行ったほうがよい。一方、積み立て投資の場合は、ポートフォリオ運用にこだわる必要はない。
- 年齢の応じて株式の比率を減らし、債券の比率を上げていく。これを「エイジスライド」という。
今回は、投資信託のポートフォリオ運用について解説してきました。機関投資家(保険や投資信託の運用会社など)などのプロ投資家もポートフォリオ運用を行っています。大金を一括で投じるときは、過度なリスクを避けるためにもポートフォリオ運用が重要なのです。
実際、私も4つの投資信託に一括投資しましたが、その際は、概ね異なる値動きをする投資信託を選びました。積立投資の場合は、ポートフォリオ運用にこだわる必要はありませんが、一括投資の場合は、今回の内容に注意して投資信託を選ぶようにしてください。