世の中の景気は常に循環しています。そして、景気の循環を適度にコントロールしているのが各国の中央銀行(日本の場合は日本銀行)です。中央銀行は金利を調整することによって景気をコントロールしようとしているのです。

株式投資をしている人は、景気の循環についてある程度把握しておかなければなりません。特に、アメリカで利上げが行われている期間は景気の変わり目なので細心の注意が必要です。

そこで今回は、景気と金利の関係について復習した後、アメリカの金利上昇局面における株価の推移と注意点について述べていきます。私のように中長期のスタンスで株式投資をしている人にとっては重要な内容なので、概要をしっかりと把握しておきましょう。

金利と景気の関係

冒頭に述べたとおり、世の中の景気は循環しています。リーマン・ショック(2008年)によって世界的に不景気になることもあれば、各国の金融緩和政策(詳細は後述)によって好景気になることもあるのです。

このように、景気は常に循環しています。そして、景気の循環にもっとも影響を与えているのが「金利」です。各国の中央銀行は、政策金利をコントロールすることによって景気を適度に調節しようとしているのです。

※ 政策金利:中央銀行がコントロールできる金利のこと。基本的には政策金利≒短期金利(満期まで1年未満の金利)である。

例えば、景気が停滞しているときは景気を引き下げて、世の中に流通するお金の量を増やして経済を刺激しようとします。これを金融緩和政策といいます。逆に、景気が過熱気味のときは金利を引き上げてお金の流通量を減らし、経済を引き締めます。これを金融引き締め政策といいます。

このように、金利は景気循環をコントロールする重要な因子なのです。まずは、この景気循環と金利の関係を理解しておいてください。

景気循環と金利の関係

過去の利上げ期間中は株価が上昇

冒頭に述べたとおり、株式投資をしている人はアメリカの金利に注意しておく必要があります。なぜなら、世界経済の中心はアメリカだからです。

特に、アメリカの政策金利が上がっているとき(上図の①や②)は景気の変わり目です。いずれ景気後退局面に入ることになるので、細心の注意を払う必要があります。

※ アメリカの政策金利:アメリカの政策金利はフェデラルファンド金利と呼ばれます。「FF金利」と略されることが多いです。

そこで、アメリカの利上げ前後で株価が過去どのように推移したか振り返ってみましょう。

米国金利と株価の関係


この図は、1995年以降のアメリカの「政策金利」「10年国債の利回り」「S&P500(日本のTOPIXのようなもの)」の推移を示しています。

オレンジの四角で囲われた3つの利上げ局面では、S&P500が上昇していることがわかります。つまり、利上げ期間中は株価は上昇しているのです。また、この状況は日本にも当てはまります。日本の株式市場は米国株式の影響を強く受けるため、米国株が好調なときは日本株も好調なのです。

ただ、一般的に、利上げは将来の景気後退につながるため、株式市場にとってはマイナス要因になるはずです。一方、利上げを行っているときというのは経済が好調(もしくは過熱気味)なときです。そのため、少なくとも利上げ期間中は好調な企業業績が支えとなって株価は上がると考えられます。

そして、いずれ景気が後退する局面に入ると株価は下がることになります。そのため、利上げ期間中の株価上昇は「最後の花火」といえるのです。

逆イールドが発生したときは注意が必要

上述のとおり、利上げは将来の景気後退に繋がります。そして、私たち投資家がもっとも注意しなければならないのが「逆イールド」です。

逆イールドとは、「短期国債の利回り」が「長期国債の利回り」よりも高い状態のことです。

通常、満期までの期間が長いほどさまざまなリスクが上乗せされるため、利回りは高くなります。実際、定期預金も満期までの期間が長いほうが利率は高いはずです。この「短期の利回り」と「長期の利回り」が逆転してしまったのが「逆イールド」なのです。

逆イールドが発生する主な要因は政策金利の引き上げです。「政策金利≒短期金利≒短期国債の利回り」なので、政策金利が上がりすぎると逆イールドが発生するのです。

先程の図を確認してみると、「政策金利のライン」が「米10年国債利回りのライン」より上に位置する期間(図ので囲った部分)では逆イールドが発生しています。

米国金利と株価の推移(逆イールド)

逆イールドは景気後退の前兆と考えられているため、逆イールドの発生には細心の注意を払う必要があります。また、逆イールド(短期金利 > 長期金利)に至らなくても「短期金利 ≒ 長期金利」の状態も注意が必要です。

そのため、米国の利上げ期間中は株価上昇に浮かれずに、将来やってくる景気後退局面に備えておく必要があるのです。

<参考記事>逆イールドや景気後退に備えた対策について詳しく知りたい人は以下の記事をご覧ください

アメリカ国債の「イールド・カーブ」から景気後退局面を予測する

米国の利上げ局面では新興国市場が不安定になりがち

ここまで述べてきたように、米国の利上げ期間中は株価が上昇する傾向にあります。ただ、新興国市場に関しては注意が必要です。

通常、米国のような経済力のある国(=信用のある国)が金利を上げると、新興国(=信用があまりない国)の通貨が売られます。なぜなら、投資家は「信用力があり、金利も上がっている国の通貨(米ドル)」と「信用力はないが金利が高い通貨(新興国通貨)」を天秤にかけるからです。

そして、「米国が金利を上げているなら、そっちに乗り換えよう」という人が増えてきます。そうなると、新興国の債券や通貨が売られ、米国債や米ドルが買われます。つまり、「ドル高・新興国通貨安」が発生しやすいのです。

実際、下図のように、米国が利上げを実施していた2018年にはさまざまな新興国で通貨安が発生しています。

米利上げに伴う新興国通貨安


このように、米国が利上げを行うと新興国の通貨が値下がりする傾向にあります。そのため、新興国株式などに投資している場合は、株価が上がっても通貨安の影響で思ったように利益が得られないことがあるのです(株価が20%上昇しても通貨価値が20%下落したら±0)。

まとめ

  • 景気の循環は主に金利によってコントロールされている。また、世界経済の中心はアメリカなので、株式投資を行っている人はアメリカの金利に注意しなければならない。
  • アメリカの利上げ期間中は株価が上昇する傾向にある。
  • アメリカの政策金利上昇に伴って「逆イールド」が発生したときは注意が必要である。
  • アメリカの利上げ期間中は、新興国の通貨安が発生しやすいので、新興国市場は不安定になりがちである。

今回はアメリカの利上げと株価の関係について述べてきました。今回紹介したように、過去の利上げ局面では株価は上昇しています。しかし、それに浮かれていると近い将来痛い目にあってしまいます。短期的な株価上昇に一喜一憂せずに、将来の株価下落に備えておくことが大切です。