ファンダメンタル分析(企業の経営状態の分析)をしていると、ROEやROAという指標が出てきます。これらはいずれも重要な指標ですが、より深く分析するためには、ROEとROAの中身を細かく見ていく必要があります。

ROEとROAは共通する部分も多いので、今回はROAの細かい分析方法を中心に解説していきます。今回の内容は少し上級編になりますが、投資先候補の会社と同業他社を比較する際にも役立つはずなので、ぜひ内容を理解して企業分析に役立ててください。

ROA(総資産利益率)とは

ROA(総資産利益率)は「企業が資産を使ってどれくらい効率よく利益を得ているか」を示す指標です。ROAは以下の計算式で算出できます。

<ROAの計算式>
ROA = 純利益 ÷ 総資産 × 100

(総)資産とは貸借対照表の左側に記載されている部分です。つまり、企業の事業資金の使い道(設備投資など)を示した部分になります。また、利益に関しては、基本的には純利益(税金などを差し引いた後の最終的な利益)のことを指しています。

ROAのイメージ

<参考記事>貸借対照表の見方について知りたい人は以下の記事をご覧ください

貸借対照表(バランスシート)の意味と簡単な読み方


ROAが高いほど、「保有している資産を使って効率よく稼いでいる企業」ということになります。そのため、ROAの高い企業は投資対象として魅力的な企業になります。

なお、私は投資先の企業を選ぶときに、「ROA 4%以上」を目安にしています。(この目安は専門家の間でも意見が異なります。5%以上という人もいます。)

ROAは「売上高利益率 × 総資産回転率」に分解できる

先程、ROAは「純利益 ÷ 総資産 × 100」で計算できると述べました。この計算式は下記のように変換すると、「売上高利益率 × 総資産回転率」に変わります。

ROAの分解

<ROAの計算式>
ROA = 売上高利益率 × 総資産回転率

このように、ROAは「売上高利益率 × 総資産回転率」というふうに、2つの要素に分解することができます。以下、売上高利益率や総資産回転率について解説していきます。

売上高利益率

売上高利益率とは、「売上に対する純利益の割合」のことです。先程示したとおり、売上高利益率は次の計算式で算出できます。

<売上高利益率の計算式>
売上高利益率 = 純利益 ÷ 売上高 × 100

例えば、売上高が1,000億円で純利益が100億円であれば、売上高利益率は10%(100億円 ÷ 1,000億円 × 100)になります。

売上高利益率の数値が高ければ、「付加価値の高い商品を売って効率よく稼いでいる企業」ということになります。かなり大雑把ですが、売上高利益率が5%以上であれば、優良な企業と考えられます。

ただ、業界によって売上高利益率の目安は大きく変わります。そのため、実際に企業の売上高利益率を確認するときは、同業他社と比較して優劣を評価するようにしましょう。

また、売上高利益率が高い企業は、販売価格を少し値下げしても利益を確保することができます。逆に、薄利多売で売上高利益率が低くなっている企業は、販売価格を値下げすると赤字になってしまいます。そのため、売上高利益率の高い企業は、価格競争で他社より有利な企業になるのです。

総資産回転率

総資産回転率とは、「売上高が資産の何倍か」を示した値です。総資産回転率は、次の計算式で算出できます。

<総資産回転率の計算式>
総資産回転率 = 売上高 ÷ 総資産

例えば、売上高が1,000億円で資産が800億円であれば、総資産回転率は1.25倍(1,000億円 ÷ 800億円)になります。(※ 総資産回転率の単位は「倍」もしくは「回」です)。

総資産回転率の数値が高ければ、「資産を効率よく使っている企業」ということになります。一般的に、総資産回転率の目安は1倍以上です。ただ、IT関連業界やコンサルティング会社のように、工場や機械などを必要としない企業では、総資産回転率が3倍以上になることもあります。

また、総資産回転率は売上高利益率とセットで考える必要があります

通常、売上高利益率が低い企業(=薄利多売の企業)では総資産回転率が高くなるはずです。これに関しては、私の好きな「吉野家」をイメージするとわかりやすいです。薄利多売の企業は、利益を得るためにはどんどん売らなければならないのです。

一方、売上高利益率が高い企業であれば、総資産回転率が低くても問題ありません。今度は、「ちょっといいお店」をイメージしてみてください。売上高利益率が高いお店は高級品を売っているので、回転率が低くても利益を得ることができるのです。

このように、総資産回転率と売上高利益率をセットで考えることによって、その企業の経営戦略を読み取ることができます。そして、これらを同僚他社と比較することで、投資先候補の特徴を把握することができるのです。

ROEは「売上高利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ」に分解できる

最後にROEについても触れておきます。

ROAが「総資産利益率」であるのに対し、ROEは「自己資本利益率」です。つまり、ROEは「企業が自己資本(≒純資産)を使ってどれくらい効率よく利益を得ているか」を示す指標です。ROAの「資産」の部分が「自己資本(≒純資産)」に変わっているだけと理解してください。

ROEのイメージ

<ROEの計算式>
ROE = 純利益 ÷ 自己資本 × 100

この計算式を先程のROAと同じように分解すると、「売上高利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ」に変わります。

ROEの分解

<ROEの計算式>
ROE = 売上高利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ

このように、ROEは「売上高利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ」というふうに、3つの要素に分解することができるのです。

ここで、企業分析に慣れている人であれば、財務レバレッジ(総資産÷自己資本)は自己資本比率(自己資本÷総資産)の逆数であることに気づくと思います。

※ 自己資本比率:企業の財務安定性を示す指標。「自己資本比率が高い企業=借金が少ない企業」なので、倒産するリスクいが低い。

財務レバレッジが高いということは、自己資本に対して銀行からの借り入れが多いことを意味します。つまり、積極的に借金をして、事業を行なっているのです。

ただ、借り入れが多すぎると、企業の財務安定性が悪化します。そのため、財務レバレッジに関しては、高ければよいというわけでもありません

私は「自己資本比率 40%以上」を目安にしているので、そこから逆算すると、「財務レバレッジの上限は2.5倍(自己資本比率の逆数なので1÷0.4=2.5)」ということになります。

まとめ

  • ROAは「企業が資産を使ってどれくらい効率よく利益を得ているか」を示す指標である。
  • ROAは「売上高利益率 × 総資産回転率」に分解することができる。売上高利益率と総資産回転率をセットで比較することにより、その企業の特徴を把握できる。
  • ROEは「売上高利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ」に分解することができる。ただ、財務レバレッジに関しては、高ければよいというわけではない。

今回は、ROAやROEをより細かく分析する方法について述べてきました。慣れていない人にとってはかなり難しく感じられたと思います。ただ、ROEやROAを別の角度から分析することによって、これらの指標の意味をより深く理解できるようになるはずです。