昔に比べて、今は銀行にお金を預けてもお金が増えない時代です。そのため、私たちは「少しでも金利の高いプランで預金したい」と思いがちです。

このような顧客の心理を利用して、銀行では定期預金と投資信託をセットにして売っていることがあります。平たくいえば、「投資信託を買ってくれれば定期預金の金利を優遇します」という金融商品です。

ただ、定期預金と投資信託のセット商品は、メリットよりもデメリットの方が大きいため買わないほうがいいです。そこで今回は、「セット商品の特徴」と「買ってはいけない理由」について解説していきます。一見するとお得に見える商品のからくりを理解しておいてください。

投資信託とは

セット商品の話を進める前に、まずは「投資信託」という金融商品について復習しておきましょう。

投資信託とは、複数の投資家から集めた莫大な資金をファンドマネージャーと呼ばれる投資のプロが運用する金融商品です。投資家は「ファンドマネージャーにお金を預けて資産運用を任せている状態」といえます。

投資信託を買うと、購入時手数料(販売手数料)がかかります。また、プロに運用を任せるので、その分の費用(信託報酬)が必要となります。これらの手数料が銀行やファンドマネージャーの収益源になります。つまり、投資信託を買ってもらわないと銀行や証券会社は儲からないのです。

そのため、銀行や証券会社は「投資家が儲かる投資信託」ではなく「売りやすい投資信託」や「金融機関が利益を得やすい投資信託」を優先して売っています。このことを理解した上で、以下の文章を読み進めてください。

定期預金と投資信託のセット(セット商品)の概要

セット商品とは、「定期預金と投資信託を一緒に申し込むと定期預金の金利が優遇される商品」です。

例えば、下の図を見てください。これはある金融機関が販売しているセット商品の例です。

セット商品の例

このように、セット商品には「〇〇セット」や「〇〇パッケージ」、「〇〇プラン」のような商品名がつけられていることが多いです。

上図のセット商品であれば、投資信託(もしくは外貨定期預金)とのセット購入で、定期預金の年利が3%になることが強調されています。このように魅力的な金利を強調することで、投資に慣れていない人(特に高齢者)を惹きつけようとしているのです。

なかには、「退職金を預けたら金利がさらに上がる」「年金の受け取り口座に指定すれば金利がさらに上がる」「NISA口座(投資の利益が非課税になる口座)を開設すれば金利がさらに上がる」のように、さまざま条件を設定している場合もあります。

定期預金と投資信託のセット(セット商品)を買ってはいけない理由

「定期預金の金利が優遇される」と聞くと、とても魅力的に感じる人もいるでしょう。しかし、このセット商品は購入者が得をするというより、銀行が得をする商品なのです。その理由は主に3つあります。以下、順に解説していきます。

金利の優遇はわずか3ヶ月

通常、金利が優遇されるのは3ヶ月満期の定期預金です。そして、4ヶ月目以降は低金利に戻ってしまいます。つまりこのセット商品のメリットはたったの3ヶ月間しか得られないのです。

例えば、100万円を定期預金に預けたとします。年利3%と聞くと、1年後に3万円を受け取れると勘違いしてしまいます。しかし実際のところ、4ヶ月目以降は低金利に戻ってしまうのです。そのため、実際に受け取る利息は年間6,600円程度です(計算方法は後述します)。

上の図の一番下には「満期後はスーパー定期3ヵ月ものの店頭表示金利となります。」とかなり小さく書かれています。これに気づかず、ずっと年利3%が続くと勘違いする人が多いのです。特に高齢者は小さい文字を読まないことがあるため、勘違いしてしまう人が多くなっています。

投資信託の手数料が高い

上述のとおり、投資信託には販売手数料や信託報酬などの手数料がかかります。セット商品で購入できる投資信託では、これらの手数料が割高になっています。

近年は、ノーロード投信(販売手数料が0円の投資信託)も増えていますが、セット商品で買える投資信託はノーロードではありません。そして、これらの手数料が利息を確実に上回るように設計されています。以下の例を見てください。

<定期預金で受け取る利息>
仮に、以下の条件で預けたとします。

  • 預け入れる金額:100万円
  • 3ヶ月の金利:3%
  • 4ヶ月目以降の金利:0.1%

このとき、受け取る利息は以下のようになります。

  • 最初の3ヶ月の利息(税引き前):100万円 × 3% × 3/12 = 7,500円
  • 残り9ヶ月の利息(税引き前):100万円 × 0.1% × 9/12 = 750円
  • 1年間で受け取る利息(約20%の税引き後):(7,500円 + 750円)× 80% = 6,600円

<投資信託の手数料>
仮に、以下の条件で投資したとします。手数料はセット商品の中では安い手数料を設定しています。

  • 投資金額:100万円
  • 販売手数料:1.08%
  • 信託報酬:0.864%

このとき、1年間で支払う手数料は以下のようになります。

  • 1年間で支払う手数料:100万円 × (1.08% + 0.864%) = 19,440円


このように、1年間で受け取る利息と支払う手数料を比較すると、手数料のほうが高くなるのです。今回は手数料が安いセット商品を例にしましたが、実際にはさらに多くの手数料を支払うことになります。

定期預金に預けられる金額に上限がある

上の例では、200万円の資金を定期預金と投資信託に100万円ずつ割り振りました。このとき「定期預金の割合を増やせば損をしないのでは?」と思う人もいると思います。

しかし、実際は定期預金の割合には上限があります。上の図の一部をもう一度ここに貼ります。

セット商品_定期預金と投資信託の割合

「定期預金 50%以内」「投資信託 50%以上」と書かれています。つまり、定期預金の割合を投資信託以上にすることはできないのです。

ちなみに、商品によっては「定期預金80%、投資信託20%」のように定期預金の割合を増やせる場合があります。ただし、その場合は金利が低くなるように設計されています。

いずれにしても、定期預金で得られる利息が投資信託の手数料を上回ることはありません。そのため、これらのセット商品は「顧客ではなく銀行が儲かる商品」といえるのです。

セット商品を買いたくなったら

ここまでの説明で、セット商品にメリットがないことを理解できたと思います。それでも「セットで売られている投資信託が魅力的だからセット商品を買いたい」という人がいるかもしれません。

そのような場合は、同じ投資信託がSBI証券や楽天証券などのネット証券で売られていないか確認してみてください。異なる金融機関が同じ投資信託を売っていることがよくあるからです。

上述のとおり、セット商品には高い手数料が設定されています。一方、ネット証券であれば手数料が低く設定されていることが多いです。そのため、ネット証券のほうが安く買うことができるのです。

まとめ

  • 定期預金と投資信託のセット商品は、基本的に銀行が儲かる仕組みになっている。
  • その主な理由は「金利の優遇はわずか3ヶ月」「投資信託の手数料が割高」「定期預金に預けられる金額に上限がある」の3つである。

今回は、定期預金と投資信託とのセット商品について詳しく述べてきました。この商品は高齢者に人気があるため、銀行も積極的に勧めてきます。

ただ、わずかなメリットのために割高な手数料を支払う必要はありません。手数料が安くて魅力的な投資信託はたくさんあるので、このようなセット商品は買わないようにしましょう。