日本は低金利が続いているため、銀行にお金を預けても利息はほとんど付きません。そのため、下図のような高い利率の外貨建て債券に惹かれる人がとても多いです。実際、金融機関に勤める私の友人は「”金利10%ですよ” と言えば1秒で売れる」と冗談まじりに話していたほどです。

メキシコ・ペソ建て債券

実際、トルコやメキシコなどの新興国の債券は利率が高いため、多くの日本人が買っています。ただ、これらの新興国債券に投資しても儲かる保証はありません。

そこで今回は、「新興国の債券に潜むリスク」について詳しく解説していきます。高い利回りに惹かれて投資する前に、リスクについても理解しておきましょう。

高い利率の新興国債券に投資しても損をする可能性がある

冒頭に述べたとおり、高い利率の新興国債券に投資しても損をしてしまう可能性があります。その要因は「為替レートの変動」です。以下、具体例をまじえて解説していきます。

仮に、山田さんが次の条件でメキシコペソ建て債券に投資したとします。

  • 投資金額:60万円
  • 投資先:メキシコペソ建て債券
  • 利率:10%
  • 為替レート:1ペソ=6円
  • 投資期間:1年間


ペソ建て債券なので、山田さんが投資した60万円はペソに換金されてから債券の購入に充てられます。為替レートは1ペソ=6円なので、山田さんは10万ペソ(=60万円)を債券に投資したことになります。

この債券の利率は10%なので、1年後、山田さんは元金10万ペソと利息1万ペソの合計11万ペソを受け取ります。ただ、この11万ペソを日本円に戻すとき、為替レートの影響によって、受け取る日本円の金額が異なります。

為替の変動 受け取った「ペソ」 「ペソ」を「円」に換金
円高ペソ安(1ペソ=5円) 11万ペソ 55万円
変化なし(1ペソ=6円) 11万ペソ 66万円
円安ペソ高(1ペソ=7円) 11万ペソ 77万円

上の表からわかるとおり、1年前と為替レートが変動していなかったり、円安ペソ高になっていたりすると、山田さんは利益を得ることができます。しかし、円高ペソ安になると損をしてしまいます

このように、外貨建て債券に投資する場合は、為替変動の影響で損をする可能性があるのです。債券に限らず、海外に投資するときは、このような為替リスクがあることを把握しておきましょう。

そして、先進国に比べると、新興国の通貨は急落することがあるため、極端な「円高・新興国通貨安」になる可能性があるのです。そうなると、利率以上に通貨安が進行してしまうため、いくら高い利息を受け取っても意味がありません。

このように、新興国に投資するときは、その国の通貨価値が下落するリスクを認識しておく必要があるのです。

新興国通貨が下落する4つの要因

それでは、新興国の通貨価値はなぜ下落することがあるのでしょうか? その背景には以下に示す4つの要因があります。

インフレ率が高い

高金利とインフレは表裏一体です。つまり、インフレ率が高いからこそ高金利になっているのです。

インフレとは「物価が上がること(=通貨の価値が下がること)」です。そして、インフレ率があまりに高いと国民の生活に支障をきたすため、政府はインフレを抑制しようとします。その手段の一つが金利の引き上げです

※ 金利を上げるとインフレが抑制される理由
金利が上がると、銀行からお金を借りにくくなるため、世の中に出回るお金の量が減少します。お金の流通量が減るとお金の価値が上がります(多いものは価値が低く、少ないものは価値が高いので)。お金の価値が上がるのでインフレは抑制されます。

このように、高金利の背景にはその国のインフレ(=通貨価値の下落)があります。そのため、高金利の新興国通貨は通貨安になる要因をすでに抱えているといえるのです。

国のドル保有量が少ない

自国の通貨価値が下落して為替レートが極端に変動すると、国民の生活やその国の経済に悪影響を及ぼします。

そこで、通貨安が極端に進行するのを防ぐために、政府は「ドル売り・自国通貨買い」を行うことがあります(世界の基軸通貨はドルなので、ドルと自国通貨を売買します)。これを為替介入といいます。

為替介入は多くの国が実施しています。実際、日本も為替レートが極端に変動する局面では為替介入を行うことがあります。

ただ、「ドル売り・自国通貨買い」という為替介入を行うためには、その国がドルを大量に保有しておかなければなりません。つまり、国のドル保有量が少なければ、為替介入によって自国通貨を守ることができないのです。

新興国のドル保有量

※ Central Intelligence Agencyのデータよりグラフ作成


上図は新興国の中央銀行が保有しているドルの量です。ドル保有量が少ない国ほど、為替介入の余地が少なく、自国通貨安を防ぐ力が弱いということになります。

一概に「何億ドル以上保有しておけば安心」とはいえませんが、「国のドル保有量がその国の通貨安に関わっている」ということを理解しておいてください。

国の外貨建て借金が多い

世界の国々は財源を確保するために国債を発行しています。つまり、借金をしているのです。

日本のように日本国民から「円」で借金をしている場合、他国の通貨が借金に影響することはありません。そういう意味では、日本は「国が借金を管理しやすい状況にある」といえます。

しかし、海外に外貨建て国債を売っている場合(≒海外から借金をしている場合)、国の財政は他国の影響を受けることになります

仮に、他国が金利を上げると、借金の返済負担が急に大きくなります。そうなると、国の財政が不安定になり金融危機に発展する可能性があります。つまり、外貨建ての借金の割合が大きい国は、他国の金利変動の影響を受けて自国通貨が下落するリスクを抱えているのです。

海外からの借金の割合

※ 国際決済銀行(BIS)のデータよりグラフ作成


上図は、新興国政府の発行済み国債に占める外貨建て債券(=外国からの借金)の割合です。このグラフから、アルゼンチンやトルコ、インドネシアは外国から多くの借金をしていることがわかります。このような状況では、自国の財政をコントロールするのが難しくなる可能性があります。

「国のドル保有量」と同じく、「外貨建て債券の割合は何%以下なら安心」と一概にいうことはできませんが、外国からの借金は少ないほど財政を安定させることができるのです。

貿易赤字

輸出が好調な国では、自国製品を外国に売ってドルなどの外貨を獲得しています。そして、獲得した外貨を自国通貨に両替する(外貨を売って自国通貨を買う)ことによって、為替介入と同じことができます。

逆に、輸出産業が停滞している国では、自国通貨を買い支える力が弱いです。そのため、貿易収支が赤字の国では通貨安を防ぎにくくなるのです。

以上のように、新興国の通貨が下落する背景には主に4つの要因があります。高金利の新興国通貨には常に通貨下落のリスクがあることを把握した上で、投資の可否を判断するようにしましょう。

まとめ

  • 高い利率の新興国債券に投資しても、為替レートの影響で損をすることがある。
  • 新興国の通貨が下落する要因として、「インフレ率が高い」「国のドル保有量が少ない」「国の外貨建て借金が多い」「貿易赤字である」の4つがある。

今回は、新興国債券のリスクとして「新興国通貨の下落」について詳しく解説していきました。債券に限らず、新興国に投資する場合は、その国の通貨が安定しているかどうかを見極めることが重要です。

「利率が高いから」という理由だけで投資をすると痛い目にあう可能性があるので、慎重に分析してから投資するようにしましょう。