為替の変動(円高・円安)は貿易を行う企業の業績に影響します。具体的には、円高になると輸入企業が儲かり、円安になると輸出企業が儲かります。小中学校ではこのように習いますが、このあとの流れはあまり教わりません。

そこで今回は「為替が変動した後の変化」について解説していきます。また、それを踏まえた上で、「単一通貨(ユーロ)を持つEU諸国の課題」を紹介します。ギリシャやイタリアの財政難の一因を垣間見ることができると思います。

変動為替相場制には貿易収支を調整する働きがある(自動安定装置)

ここでは詳細を割愛しますが、通常、円高になると輸入企業が儲かり、円安になると輸出企業が儲かります。

<参考記事>円高・円安と企業業績の関係については、以下の記事に詳しく記載しています。

為替(円高・円安)の意味と企業業績への影響


仮に、円安になって輸出企業が儲かったとします。このとき、輸出企業は商品を売って、代金(=ドル)を受け取ります。つまり、儲かっている輸出企業は多くのドルを保有することになります。

ところが、輸出企業は国内で取引をしたり従業員に給料を支払ったりするときには円に換金しなければなりません。つまり、ドルを売って円を買う必要があるのです。

輸出企業がドルを売って円を買うことから、ドルの価値は下がり円の価値が上がります。つまり、円高(=ドル安)が進行することになるのです。

以上の流れをまとめると、「円安 → 輸出企業が儲かる → 輸出企業がドルを多く保有する → 輸出企業がドルを円に換金する(ドルを売って円を買う) → 円高・ドル安になる」となります。つまり、最初は円安だったとしても、貿易を介して最終的には少しずつ円高になっていくのです。

逆の場合もこれと同じことが起こります。つまり、最初は円高だったとしても、貿易を介して少しずつ円安に変化するのです(輸出企業による「ドル売り円買い」が滞る一方、輸入企業の「円売りドル買い」が進むため)。

このように、変動為替相場制(為替レートが自由に変動する相場制)においては、貿易収支は自動的に調整されることになります。これを為替の自動安定装置ビルトイン・スタビライザー)といいます。

※ 自動安定装置(ビルトイン・スタビライザー)は為替の変動に限らず、景気の変動に関しても用いられる用語です。

※ 為替の自動安定装置はあくまで理論上の話です。現実の世界でどこまで機能しているか判断するのはとても難しいです。

単一通貨(ユーロ)を持つEU諸国の課題

ここまで述べたように、為替の変動には「自動安定装置」としての働きがあります。ところが、ユーロのように単一通貨が採用されている地域ではこの機能が働かなくなっています

例えば、イタリアとドイツが貿易を行ったとします。ユーロが導入される前のイタリアの通貨はリラ、ドイツの通貨はマルクでした。通貨が異なるので、イタリア-ドイツ間の貿易では為替の自動安定装置が機能して、貿易収支はある程度調整されていました。

ところが、ユーロが導入されたことで状況が変わりました。輸入超過によってイタリアの貿易赤字が進行しても、貿易収支の不均衡が是正されなくなったのです。逆に、自動車などの強い輸出品を持つドイツは貿易黒字が進行することになりました。

このように、EU圏内の貿易に関しては、大幅な輸入超過で赤字になる国と大幅な輸出超過で黒字になる国に2極化してしまったのです。

他のEU諸国に比べて、強い輸出品を持たないギリシャやイタリアなどでは財政難が進行しています。上述のとおり、為替の自動安定装置としての機能はあくまで理論上の話ですが、これらの国々で財政難が進んでいる一因として「単一通貨」であることが挙げられるのです。

まとめ

  • 変動為替相場制の国同士が貿易を行うと、為替の変動はある程度均衡を保つようになる。これを為替の自動安定装置という。
  • EU諸国では単一通貨「ユーロ」が用いられているため、貿易収支が是正されにくくなった。

今回は、変動為替相場制における為替の「自動安定装置」について解説してきました。貿易収支や為替の変動にはさまざまな要因が関係しているため、自動安定装置が実際にどこまで機能しているか判断するのは難しいです。ただ、経済全体の流れを把握するためにも、このような事象があることも頭に入れておきましょう。