株式投資をするときは「企業の倒産」に注意しなければなりません。当たり前ですが、倒産する企業の株を買ってしまうと大きな損失を抱えてしまいます。

そのため、投資先を決めるときは、その企業の財務状況を分析して安全性(倒産リスク)を確認する必要があります。

そこで今回は、企業の安全性を評価する4つの指標について復習した後、2017年に倒産したタカタ株式会社の財務状況を振り返ってみます。今回の記事を参考に、倒産リスクの高い企業の特徴を把握しておきましょう。

4つの指標で財務状況を分析する

企業の財務状況を分析するときに役立つのが貸借対照表(バランスシート)です。貸借対照表を読み解くことで、その会社がどのように資金を調達し、その資金をどのように使っているかがわかるからです。

貸借対照表の概略図は以下のとおりです。表の左側(資産)と右側(負債+純資産)は必ず同じ値になる(バランスが取れている)ことから、貸借対照表は「バランスシート」とも呼ばれます。

貸借対照表(バランスシート)の概略図

そして、企業の財務状況を分析するときは、貸借対照表を利用して「自己資本比率」「流動比率」「当座比率」「固定長期適合率」の4つの指標を計算するとよいでしょう。これらの指標には以下のような意味があります。

自己資本比率

自己資本比率は「資産に占める自己資本の割合」です。要は、借金に頼らずに自己資本だけでどれだけ事業を行えているかを確認するための指標です。

「自己資本比率が高い会社=借金が少ない会社」なので、自己資本比率は高いほうがよいです。投資先を選ぶときは、「自己資本比率 40%以上」が目安になります。

貸借対照表(自己資本比率)

<自己資本比率の簡易的な計算式>
自己資本比率 = 純資産 ÷ 資産 × 100

<自己資本比率の厳密な計算式>
自己資本比率 = 自己資本 ÷ 資産 × 100


※ 「純資産 = 自己資本 + α」です。ただ、「+α」の部分は無視できるレベルのことが多いので、「純資産 = 自己資本」と考えても構いません。今回は厳密な計算方法で計算します。

※ 自己資本は「株主資本 + その他の包括利益累計額(会社が保有する有価証券などの損益)」で計算できます。詳細は後述します。

流動比率

流動比率は「流動負債(1年以内に返済すべき借金)に対する流動資産(1年以内に現金化できる資産)の割合」のことです。

企業が倒産する主な原因は、「借金を返せないから」です。そのため、返済期限の近い借金が多いと倒産リスクは高くなります。逆に、すぐに現金化できる資産が多ければ倒産リスクは低くなります。このバランスを確認する指標が流動比率なのです。

投資先を選ぶときは、「流動比率 120%以上(理想は200%以上)」が目安になります。

貸借対照表(流動比率)

<流動比率の計算式>
流動比率 = 流動資産 ÷ 流動負債 × 100

当座比率

流動資産の中でも特に現金化しやすいものを当座資産といいます。具体的には、「現金」「受取手形および売掛金(商品を売ったけどまだ受け取っていない代金)」「有価証券」が当座資産に該当します。

そして、「流動負債に対する当座資産の割合」のことを当座比率といいます。当座比率は流動比率よりも厳密に安全性を評価するための指標と考えるとわかりやすいと思います。投資先を選ぶときは、「当座比率 90%以上(理想は100%以上)」が目安になります。

貸借対照表(当座比率)

<当座比率の計算式>
当座比率 = 当座資産 ÷ 流動負債 × 100

固定長期適合率

固定長期適合率は、固定資産(1年以内に現金化できない資産)をどのような資金で購入しているかを確認するための指標です。

基本的に、固定資産の購入に流動負債を使ってはいけません。これは「1年以内に返済しなければならない借金(流動負債)でマイホーム(固定資産)を購入している状態」と同じだからです。財務体質として問題があることをイメージできると思います。

つまり、固定資産は自己資本と固定負債(1年以内に返済しなくてもよい借金)で購入したほうがよいのです。そして、「固定長期適合率 100%以下」であれば、自己資本と固定負債だけで固定資産を購入できていることになります。

貸借対照表(固定長期適合率)

<固定長期適合率の計算式>
固定長期適合率 = 固定資産 ÷ (自己資本 + 固定負債) × 100

<参考記事>自己資本比率、流動比率、当座比率、固定長期適合率についてより詳しく知りたい人は以下の記事をご覧ください。

貸借対照表(バランスシート)の意味と簡単な読み方

企業の安全性評価:「固定長期適合率」の意味と流動比率との関係


このように、「自己資本比率」「流動比率」「当座比率」「固定長期適合率」を計算すれば、企業の安全性を把握することができます。今回はこれらの4項目を用いて、2017年に倒産したタカタ株式会社の財務体質を読み解いていきます。

なお、私はこの4項目以外にも、有利子負債や現金同等物(現金や定期預金など)、営業キャッシュフロー(本業で得た利益)なども確認しています。ただ、今回はこれらの項目については割愛します。

タカタ株式会社が経営破綻するまでの経緯と株価の推移

タカタ株式会社はエアバッグやシートベルトなどの自動車安全部品を製造する大企業でした。しかし、2008年頃よりエアバッグの不具合が問題となり、大規模なリコールや訴訟が経営を圧迫したため、2017年に経営破綻してしまいました。

上場廃止に至る1年前からの株価の推移と決算発表などの時期を以下に示します。

タカタ(7312)の株価推移

みんなの株式よりチャートを引用して図を作成

株価チャートを見てわかるとおり、2017年5月10日の決算発表後も株価は順調に推移していました。

ところが、決算発表から約1ヶ月後の6月16日、「タカタが民事再生法申請へ」というニュースが報道されました。そして、この報道がきっかけとなり株価は急落したのです。実際、6月26日に民事再生法の適用が申請され、タカタ株式会社は7月27日に上場廃止になりました。

このように、タカタの株価急落のきっかけは6月16日のニュース報道でした。しかし、タカタの財務状況を分析しておけば、事前に株式を売却できた可能性があります。なぜなら、ニュースで報道される前からタカタの財務状況はかなり悪化していたからです。

タカタ株式会社の4つの指標を計算

タカタが経営破綻する約1年前からの決算短信(企業が3ヶ月ごとに公表する決算)をダウンロードできるようにしました。




今回はこれらの決算短信を用いて、タカタの財務状況の変化を読み解いていきます。

貸借対照表で確認すべき項目は下図の赤い四角で囲った部分です。図は第1四半期の貸借対照表から一部を抜粋したものです。

タカタ_2017年3月期第1四半期_貸借対照表1

タカタ_2017年3月期第1四半期_貸借対照表2

タカタ_2017年3月期第1四半期_貸借対照表3

<自己資本比率の計算>
貸借対照表に「自己資本」という項目はありません。「自己資本=株主資本 + その他の包括利益累計額(会社が保有する有価証券などの損益)」なので、これを計算すると自己資本は109,052(百万円)になります。

資産 404,742
自己資本 109,052
株主資本 140,944
その他の包括利益累計額 -31,892
※ 単位は「百万円」

したがって、自己資本比率は「109,052 ÷ 404,742 × 100」を計算して、26.9%になります。

<流動比率の計算>
上述のとおり、流動比率は流動資産と流動負債から計算します。

流動資産 279,184
流動負債 213,180
※ 単位は「百万円」

したがって、流動比率は「279,184 ÷ 213,180 × 100」を計算して、131.0%になります。

<当座比率の計算>
貸借対照表に「当座資産」という項目はありません。「当座資産 = 現金および預金 + 受取手形および売掛金 + 有価証券」なので、これを計算すると当座資産は162,649(百万円)になります。

当座資産 162,649
現金および預金 45,912
受取手形および売掛金 113,141
有価証券 3,596
流動負債 213,180
※ 単位は「百万円」

したがって、当座比率は「162,649 ÷ 213,180 × 100」を計算して、76.3%になります。

<固定長期適合率の計算>
上述のとおり、固定長期適合率は「固定資産」「自己資本」「固定負債」から計算します。

固定資産 125,558
自己資本 109,052
固定負債 79,802
※ 単位は「百万円」

したがって、固定長期適合率は「125,558 ÷ (109,052 + 79,802) × 100」を計算して、66.5%になります。

このように、貸借対照表を分析することで、「自己資本比率」「流動比率」「当座比率」「固定長期適合率」を確認することができます。今回は第1四半期の貸借対照表を用いましたが、第2四半期、第3四半期、本決算に関しても同様の手順で計算することができます。

タカタ株式会社の財務状況の推移

それでは実際に第1四半期~本決算までの財務状況の推移を見てみましょう。各期の貸借対照表から必要な数値を抜粋すると下記のようになります(自己資本と当座資産は抜粋した値から計算)。

タカタ決算短信から財務分析に必要な値を抜粋

そして、これらの数値から「自己資本比率」「流動比率」「当座比率」「固定長期適合率」を計算すると下記のようになります。

タカタの財務状況の推移

第1四半期および第2四半期の時点では、自己資本比率と当座比率が安全とされる目安を下回っています。そして、この状況は第3四半期以降に悪化しています。

第3四半期以降はすべての指標において、安全とされる目安を下回っているのです。特に、固定長期適合率が100%以上の状態は好ましくありません。

このように、タカタの財務状態は第3四半期の時点でかなり悪くなっていたことがわかります。

財務状況を分析したからといって「倒産する」と確定できるわけではありません。しかし、他の安全な会社に比べると倒産リスクは高いと判断することができます。

日本の株式市場には3,600社以上の会社が上場しています。タカタよりも財務状況の良い会社はたくさんあります。あなたの大切な資金をわざわざ倒産リスクのある会社に投資する必要はないのです。財務状況を分析して倒産リスクの低い安全な会社に投資することで、無用なリスクを避けることができるはずです。

まとめ

  • 貸借対照表を利用すれば、「自己資本比率」「流動比率」「当座比率」「固定長期適合率」を計算することができる。これらは企業の安全性(倒産リスク)を評価するときに役立つ指標である。
  • 2017年に倒産したタカタ株式会社は、倒産する半年前からこれらの指標が悪化していた。
  • 財務状況を分析して倒産リスクの低い安全な会社に投資することが重要である。

今回は、企業の安全性を評価するための指標について、具体例を交えながら解説してきました。あなたの大切な資金を安全性の低い会社に投資する必要はありません。投資先を決めるときは、事前にその会社の安全性を評価することが極めて重要なのです。