株主優待は欲しいけど、「株を保有し続けるほどお金に余裕がない」や「株価下落による損失が怖い」といった理由で株主優待を諦めている人も多いです。しかし、つなぎ売り(クロス取引)を使えば、これらの悩みは解決できます。

つなぎ売りとは、「現物買い」と「空売り」を組み合わせることです。つなぎ売りをすれば、わずかな手数料だけで株主優待を得ることができます。そのため、主婦や学生など多くの人が実践しています。実際、私も月末になるとつなぎ売りをして、さまざまな株主優待を入手しています。

ただ、あまり慣れていない人にとっては「なんだか難しそう」と思うかもしれません。また、いくつか注意点があるのも事実です。そこで今回は、つなぎ売りの概要と注意点について詳しく解説していきます。今回の内容を理解することで、あなたもお得に株主優待を入手できるようになるはずです。

株主優待をもらうための条件

まずは、株主優待をもらうための条件を確認しておきましょう。

株主優待を受け取るには、権利確定日に株主名簿に名前が記載されている必要があります。権利確定日とは、その名の通り、「株主優待や配当金を受け取る権利が確定する日」です。

権利確定日は企業によって異なりますが、月末であることが多いです。特に、3月末や9月末を権利確定日に設定している企業が多いです。

ただし、権利確定日当日に株を買っても、株主優待を受け取ることはできません。権利確定日に株主名簿に名前が記載されているためには、権利確定日の「3営業日前」に「現物株」を保有しておく必要があります。この3営業日前のことを権利付き最終日といいます。また、権利付き最終日の翌営業日を権利落ち日といいます。

例えば、2018年10月31日(水)が権利確定日だとします。この場合、3営業日前の10月26日(金)が権利付き最終日、翌営業日の10月29日(月)が権利落ち日になります。

権利付き最終日などの例

まずはこれらの日程について理解しておきましょう。

そして、「現物株(自分のお金で購入した株)」であることも重要です。信用取引(証券会社から借金をして行う株取引)では実際の株券の取引が行われていないため、株主として認められないのです。

このように、株主優待を入手するためには「権利付き最終日(月末の26日あたり)までに現物買いをしておくこと」が条件になります。

権利落ち日は株価が落ちやすい

株主優待の内容が魅力的だったり配当金が高額だったりすると、その株を買いたい人が増えます。そのため、そのような銘柄は権利付き最終日に向けて株価が上昇していきます。

ところが、そのような銘柄は権利落ち日に株価が下落することが多いです。株主優待や配当金の権利を得た人は、権利落ち日に株を売却して現金化するからです。株主優待や配当金がもらえたとしても、株価が下がればその分はマイナスになります。これでは、得をしているのか損をしているのかわかりません。

そこで、株価の下落を補填できるように、あらかじめ手を打っておく必要があります。ここで登場するのが「つなぎ売り(クロス取引)」です。それでは、つなぎ売りの概要について確認していきましょう。

事前に空売り(信用売り)しておけば株価の下落をカバーできる

つなぎ売りをして株価の下落をカバーするためには、「空売り」を利用します。ここで、空売りの概要についてまとめておきます。

<空売りの概要>

  • 空売りは信用取引の一種です。
  • 証券会社から借りた株を株式市場で売った後、株を買い戻して証券会社に返却します。
  • 通常の株取引では「株を買う → 売る」の順ですが、空売りでは「株を売る → 買い戻す」という順になります。
  • 株価が下がったときに利益を得られます。

空売りでは、株価が下がったときに利益を得られます。例えば、借りた株を5,000円で売り、株価が4,500円に下がったところで買い戻せば一株当たり500円の利益になります。この特徴を利用すれば、権利落ち日の株価の下落を補填することができます。

つまり、権利付き最終日までに「株主優待を得るための現物買い」と「株価の下落をカバーするための空売り」を同時に発注するのです。これによって、ほぼ手数料だけで株主優待を入手することができます。

具体的な手順についてもう少し詳しく説明していきます。

つなぎ売りの具体的な手順

時系列に沿って、「権利付き最終日の朝9:00まで」「権利付き最終日の11:30~12:30」「権利付き最終日の12:30以降」「権利落ち日以降」の順に説明していきます。

権利付き最終日の朝9:00まで

つなぎ売りをするためには、なるべく権利付き最終日の朝9:00までに「現物買い」と「空売り」の発注をします。

このとき、大事なポイントがあります。それは、現物買いと空売りの取引が「同じ株数」かつ「同じ株価」で成立するように発注することです。これによって、権利落ち日以降に株価が下落しても、その分の損失を確実にカバーすることができます。

ただ、株価が変動している取引時間中に発注すると、この条件を満たせない可能性があります。そこで、「取引時間外に成行(値段を指定しない注文)で発注する」必要があります。

取引時間外であれば株価は変動していません。また、成行であれば、それぞれの注文を確実に約定(取引が成立すること)させることができます。

このように、注文するタイミングや注文方法は大事なポイントなので、しっかりと覚えておいてください。

権利付き最終日の11:30~12:30

朝9:00までに間に合わなかった人や新たにつなぎ売りしたい銘柄を見つけた人は、権利付き最終日の11:30~12:30に「現物買い」と「空売り」を成行注文してください。この時間はお昼休み(取引時間外)なので、上記の条件を満たすことができます。

つなぎ売りをする場合は、権利付き最終日の12:30がタイムリミットです。この時間までに発注するようにしましょう。

権利付き最終日の12:30以降

権利付き最終日の12:30以降は何もすることはありません。12:30までに発注した「現物買い」と「空売り」がそれぞれ約定しているか確認するくらいです。

また、次に記載している「権利落ち日以降に行うこと」を前もってこの日に行っても構いません。ただ、時間帯によっては株主優待の権利が得られない可能性もあるので、何時以降であれば大丈夫かは各証券会社に確認が必要です。例えば、私が使っているSBI証券の場合は、この日の15:30以降であれば次項に記載した「現渡し」を発注しても大丈夫です。

権利落ち日以降

権利落ち日以降に、これまでに約定させた「現物買い」と「空売り」を相殺させます。

上述の通り、空売りした場合、普通は株を買い戻して証券会社に返します。ただ、すでに現物株を保有している場合はわざわざ買い戻さずに、その現物株を返してもいいのです。このように、すでに保有している現物株を返すことを現渡し(げんわたし)といいます。

権利落ち日以降に「現渡し」の注文を行うことで、「現物買い」と「空売り」が自動的に相殺されます。これでつなぎ売りは完了です。

このように、つなぎ売りを使って株価の下落に前もって対処しておくことで、株主優待をわずかな手数料だけで入手できるのです。

「これって違法じゃないの?」と心配する人もいますが、つなぎ売りは違法ではありません。証券会社のHPでも紹介されている手法なので問題ありません。私も毎月行っているので安心してトライしてください。

ただ、つなぎ売りには次に述べる注意点もあります。これらの注意点を理解しておかないと、場合によっては損をしてしまう可能性があります。

つなぎ売りの3つの注意点

つなぎ売りでは「銘柄」「手数料」「配当金」に注意が必要です。以下、順番に説明します。

注意点1:すべての銘柄に応用できるわけではない

空売り(信用売り)はすべての銘柄でできるわけではありません。証券取引所や証券会社の選定基準を満たした銘柄に限られているのです。

信用取引には「制度信用取引」と「一般信用取引」の2種類があります。ここではこれらの違いを細かく述べませんが、いずれの信用取引を使っても、空売りができる銘柄は全体の6割以下くらいしかありません。

例えば、私がずっと保有している銀座ルノアール(銘柄コード:9853)の株は、制度信用取引、一般信用取引のいずれの信用取引でも空売りができせん。したがって、銀座ルノアールの株主優待(飲食券)を欲しいと思っても、つなぎ売りで入手することはできないのです。

このように、「空売りできない銘柄がある」ということは理解しておいてください。

注意点2:手数料がかかる

「現物買い」と「空売り」の両方の売買手数料がかかります。一方、「現渡し」は無料で行えます。

また、売買手数料の他に「貸株料」が必要となります。空売りは証券会社から株を借りている状態なので、そのレンタル料が必要になるのです。年率に換算すると空売り代金の1~4%程度の貸株料が発生するので、空売りの期間が長くなると出費も多くなります。

このような手数料がかかるため、事前に株主優待の価値を確認しておかないと、損をしてしまう可能性があります。

ただ、いちいち手数料を計算するのは面倒なので、私は株主優待の価値が「2,000円以上のもの」あるいは「株式の購入価格の1%以上のもの」を目安にしています。例えば、「株式の購入価格が20万円で株主優待が1,000円のクオカード」の場合は、つなぎ売り対象外としています。

また、逆日歩(ぎゃくひぶ)にも注意が必要です。逆日歩は、空売りをする人が増えた場合に発生する追加の手数料です。逆日歩の怖いところは、「いつ」「どれくらいの金額」発生するかをはっきり予測できないことです。

ただ、逆日歩が発生する可能性があるのは制度信用取引だけです。一般信用取引であれば、制度信用取引とは仕組みが異なるので、逆日歩は発生しません。

このような理由から、株初心者がつなぎ売りをする場合は、一般信用取引で空売りすることをおススメします。実際、私がつなぎ売りをするときも主に一般信用取引を利用しています。

ただし、一般信用取引で空売りができる証券会社は、SBI証券、楽天証券、GMOクリック証券、カブドットコム証券など数社に限られています。ちなみに、私は手数料が安いSBI証券を主に使っています。

注意点3:配当金は(実質)もらえない

現物株を保有しているので、配当金をもらえる権利はあります。ただ、空売りをしていると、ほぼ同額を「配当落調整金」として徴収されます。配当落調整金は売り方(空売りをしている人)から買い方(信用買いをしている人)へと渡されるお金です。

通常、配当金は約20%の税金を源泉徴収された形で受け取ります。一方、配当落調整金を支払う場合は、源泉徴収前の全額(一般信用取引)もしくは約15%の税金分を差し引いた金額(制度信用取引)を支払うことになります。具体的には以下の例を見てください。

A社の配当金を「1株あたり100円」と仮定します。

  • 100株を現物買いしていた場合:受け取る配当金は約8,000円
  • 100株を一般信用取引で空売りしていた場合:支払う配当落調整金は10,000円
  • 100株を制度信用取引で空売りしていた場合:支払う配当落調整金は約8,500円

このように、同じ銘柄に対して「現物買い」と「「空売り」を同時にしていた場合、税金の分だけ損をすることになります。

ただし、特定口座(源泉徴収あり)を利用し、この口座で配当金を受け取るように設定しておけば(株式数比例配分方式といいます)、配当金と配当落調整金の差額は自動的に還付されます。そのため、この注意点に関しては過度に心配する必要はありません。

※ 厳密にいうと、制度信用取引で空売りをした場合は差額よりも少しだけ多めに還付されます。

まとめ

  • 株主優待を受け取るための条件は、「権利付き最終日(権利確定日の3営業日前)に現物株を保有しておくこと」である。
  • 権利落ち日は株価が下落する可能性が高い。株価下落による損失をカバーするために事前に空売りしておくことを「つなぎ売り」という。
  • つなぎ売りをする場合は、取引時間外に「現物買い」と「空売り」をそれぞれ同じ株数で成行注文する。そして権利落ち日以降に「現渡し」をして現物買いと空売りを相殺させる。
  • つなぎ売りには、SBI証券、楽天証券、GMOクリック証券、カブドットコム証券などの「一般信用取引で空売りができる証券会社」がおススメである。