世の中の景気は常に循環しているため、株式市場にも数年単位で好不調の波があります。したがって、私のように中長期視点で株式投資をしている人は景気の波をある程度把握しておかなければなりません。

そこで今回は、景気動向を把握する際に役立つ「アメリカ国債のイールド・カーブ」について解説していきます。今回の内容を理解することで、景気後退局面に備えた株式投資ができるようになるはずです。

景気は常に循環している

冒頭に述べたとおり、世の中の景気と株式相場は常に循環しています。

例えば、2000年にITバブルが崩壊してしばらく世界の株式市場は低迷していました。しかし、その後少しずつ景気が回復し、株価も順調に推移しました。実際、日本では「いざなみ景気」と呼ばれる長期(2002年2月~2008年2月)の景気拡大期に入りました。

しかし、2008年9月に発生したリーマン・ショック(アメリカの大手投資銀行リーマンブラザースの経営破綻)によって、再び世界的な大不況に陥りました。ただ、その後は景気が回復し、世界的に株価が大きく上昇しました。

このように、景気は常に循環しています。それでは、景気の循環にもっとも大きな影響を与えているのは何かご存知でしょうか?

それは「金利」です。実際、各国の中央銀行(日本の場合は日本銀行)は金利をコントロールすることによって景気を適度に調節しようとしています

例えば、景気が停滞しているときは金利を引き下げて、世の中に流通するお金の量を増やして経済を刺激しようとします(金融緩和)。逆に、景気が過熱気味のときは金利を引き上げてお金の流通量を減らします(金融引き締め)。

このように、金利は景気循環をコントロールする重要な因子なのです。まずは、この景気循環と金利の関係を理解しておいてください。

景気循環と金利の関係

アメリカ国債のイールド・カーブとは?

景気循環を把握する指標の一つに「アメリカ国債のイールド・カーブ」があります。

イールド・カーブとは、横軸に「満期までの期間」、縦軸に「国債の利回り」を取ったグラフのことです。

通常、満期までの期間が長いほどさまざまなリスクが上乗せされるため利回りは高くなります。実際、定期預金も満期までの期間が長いほうが利率は高いはずです。そのため、イールド・カーブは右肩上がりの曲線を描きます。そして、このような右肩上がりの状態を順イールドといいます。

イールド・カーブ

ここでは「順イールド=正常な状態」ということを理解しておいてください。

金融引き締め政策がイールド・カーブに与える影響

ここで、先程の景気循環と金利の関係を思い出してください。景気が加熱気味のとき、中央銀行は金融引き締め政策として金利を引き上げます。

中央銀行が引き上げる金利(政策金利)は、世の中の短期金利に影響を及ぼします(そもそも政策金利とはそういうものです)。そのため、政策金利が引き上げられると、結果的に短期国債の利回りが上昇します。その結果、イールド・カーブは下図のグレーから赤のように変化するのです。

※ やや簡略化した説明をしています。実際には、「政策金利の引き上げ → 新発短期国債の利率上昇 → 既発短期国債の価格下落 → 既発短期国債の利回り上昇」という流れで利回りが上昇します。


イールド・カーブの変化


このグラフの「グレーから赤への変化」は、「長期国債の利回りは変化していないのに、短期国債の利回りのみが高くなった」ということを意味しています。その結果、長期国債と短期国債の利回りの差は小さくなり、グラフは平坦な状態に近づきます。これを、イールド・カーブのフラット化といいます。

このように、中央銀行が行う金融引き締め(政策金利の上昇)は、イールド・カーブのフラット化という形で可視化されるのです。

逆イールドが発生すると数年以内に景気は後退する

上述のとおり、「順イールド=正常な状態」です。しかし、金融引き締めの結果、短期国債の利回りが上昇しすぎると、長期国債利回りを上回ってしまうことがあります。

つまり、イールド・カーブはフラット化を超えて、右肩下がりのグラフになってしまうのです。このような状態を逆イールドといいます。

順イールドと逆イールド


そして、逆イールドは景気後退の前兆と考えられています。実際、アメリカで逆イールドが発生すると、その数年後に世界的に景気が後退する傾向にあります。当然、それに伴って株価も急落しています。

下のグラフを見てください。これは、長短スプレッド(10年国債と2年国債の利回りの差)とNYダウ平均株価の変動を示したものです。グレーの部分が「10年国債と2年国債の利回りの差」、黄色のラインが「NYダウ平均株価の動き」です。

逆イールドと景気の後退

参照:SBI証券


グレーの部分が赤く塗られている箇所があります。これは「10年国債の利回り-2年国債の利回り」がマイナスになっていることを意味します。つまり、短期国債の利回りのほうが高い状態(=逆イールド)になっているのです。

そして、逆イールドが発生して数年以内に株価が下落局面に入っていることが読み取れます。1つ目の下落は2000年のITバブル崩壊に一致します。また、2つ目の下落は2008年のリーマン・ショックに一致しています。

このように、逆イールドの発生は景気後退の前兆になっているのです。実際、私が以前に参加した野村證券のセミナーでは「米国では過去に7回逆イールドが発生し、いずれも数年以内に景気後退局面に入った」と解説されていました。

このように、逆イールドは景気後退(≒株価の下落)と密接な関係があります。そのため、中長期の視点で株式投資をしている人は、アメリカ国債のイールド・カーブは定期的に把握しておかなければならないのです。

イールド・カーブのフラット化や逆イールドが生じたときの対策

ここまで述べてきたように、イールド・カーブのフラット化や逆イールドは景気後退の前兆です。そのため、株式投資を行っている人は景気後退に備えて、以下の1~4のような対策をとっておく必要があります。

  1. 信用取引(証券会社から借金をして株取引をすること)を控える。
  2. 投資先は自己資本比率や流動比率が高く、業績の良い企業に絞る。また、株価下落しても基本的には売却せずに保有し続ける。
  3. 株価が大きく下がったところで新たに投資できるように一定の現金を確保しておく。
  4. 株価が下がったときに投資する企業をあらかじめ選別しておく(2の企業に追加投資してもよい)。


1~4はいずれもとても重要な対策です。このような準備をしておけば、景気後退局面に入っても大きなダメージを受けることはないはずです。

ただ、株式投資に慣れていない人や暴落を経験したことがない人は、株価が急落したときに「株を保有し続ける」や「追加で投資する」ということがなかなかできません。なぜなら、株価が急落している局面では、お金を失う恐怖心が生まれるからです。

一方、世の中で成功している投資家は、株価が急落しているときは「安く買えるチャンス」と考えます。実際、そのような彼らの行動は「バーゲン・ハンティング(相場が急落しているときに積極的に買うこと)」と呼ばれています。

このように、株価が下がっているときというのは、実は資産を増やすチャンスなのです。そのチャンスに備えて、イールド・カーブがフラット化したり逆イールドが生じたりしたときは、上記1~4の対策を取っておくとよいでしょう。

なお、私自身はここに述べた項目を常に意識しています。つまり、イールド・カーブに関係なく、常に株価の暴落に備えた運用を心がけているのです。

私の場合は、2008年のリーマン・ショックで大きなダメージを受けた経緯があります。「あのときと同じ経験は二度としたくない」という思いがあるため、リスクを管理した投資を心がけているのです。

ただ、私の投資スタイルが決して正しいわけではありません。実際、株式相場が好調のときは、信用取引をして積極的にリスクを取ったほうが大きな利益が得られるはずです。

そのため、日頃から私の投資スタイルを真似する必要はありませんが、景気後退局面が近づいてきたときは、上記の1~4が参考になるはずです。

まとめ

  • 景気と株価は常に循環している。そのため、中長期の視点で株式投資をしている人は、景気の循環を把握しておかなければならない。
  • 景気循環を把握する指標の一つが、「アメリカ国債のイールド・カーブ」である。
  • 金融引き締めが進むと、イールド・カーブのフラット化や逆イールドが発生する。これらは景気後退の前兆であるため、株価下落に備えた運用をする必要がある。

今回は、景気循環を把握する指標の一つとして、「アメリカ国債のイールド・カーブ」について詳しく解説してきました。

アメリカ国債のイールド・カーブはとても重要な指標なので、私も定期的に確認しています。株式相場はいつか必ず暴落するときが来ます。特に、逆イールドが発生したときは株価下落が近づいてきている前兆なので、それに備えた運用を心がけてください。