株式投資をしている人の中には「株主優待をもらうことが目的」という人もたくさんいます。

そんな人たちにとって、株主優待の改悪(優待品の価値を下げること)や廃止は大きな問題です。さらに、株主優待の改悪・廃止は株価が下落する要因にもなります。そのため、株価の値上がり益を狙っている投資家にとっても悪影響があります。

そこで今回は、企業が株主優待を改悪したり廃止したりする理由を解説していきます。また、株主優待が廃止されにくい企業についても紹介します。株主優待を改悪・廃止する企業の事情を読み取れるようになりましょう。

配当金に比べて株主優待は変更しやすい

まずは「配当金」と「株主優待」の違いを解説しておきます。

企業は株主還元(利益の一部を株主に還元すること)の一環として、株主に配当金を分配しています。また、サービスの一環として、株主に株主優待を提供しています。「株主還元」も「サービス」も、株主の立場からすると同じように思うかもしれません。

しかし、これらには大きな違いがあります。

株主には「配当金を受け取る権利」があります。難しい言葉でいうと、「剰余金の配当を受ける権利」です。そのため、配当金の金額を変更するためには、株主総会を開いて株主の了解を得る必要があります。

一方、株主には株主優待に関する権利はありません。株主優待はあくまで「企業が自主的に行うサービス」なのです。そのため、株主優待は企業の都合で自由に変更することができるのです

このように、配当金の増減に比べると、企業は株主優待を改悪・廃止しやすいことを理解しておきましょう。

株主優待を改悪・廃止する理由

企業が株主優待を改悪・廃止する理由は主に2つあります。それぞれ順に解説していきます。

業績が悪化している

業績が悪化しているとき、企業は株主優待を改悪・廃止することがあります。

株主優待の贈呈は企業にとってはコストです。そのため、業績が悪くなると、コストカットのために株主優待を改悪・廃止することが多いのです。

また、業績が悪くなると株価が下がるため、株価の値上がりを狙っている投資家にも悪影響が及びます。

幸い、私がこれまで投資してきた企業の中に「株主優待を廃止するほど業績が悪化した企業」はありませんでした。私の場合、「業績のよい成長企業を選んで中長期で投資する」というスタイルなので、株主優待が廃止される企業に投資することはなかったのだと思います。

株主優待を廃止して配当金を増やそうとしている

株主優待を廃止する代わりに配当金を増やすことで株主還元を行う企業があります。そのような企業の背景には「株主に平等に利益を還元しよう」という姿勢があります。

そもそも、株主優待は株主に平等に贈呈されるわけではありません。特に、大口投資家(多くの株を保有している投資家)は株主優待に不満を感じることが多いです。なぜなら、株主優待の価値は保有している株数に比例しないからです

例えば、ある企業の株主優待は下記のような基準で贈呈されています。

<株主優待の例>

  • 100株以上 1,000株未満の株を保有する株主:1,000円相当の自社製品詰め合わせを贈呈
  • 1,000株以上の株を保有する株主:3,000円相当の自社製品詰め合わせを贈呈

※ 海外への発送は行わない

この場合、1,000株を保有している株主(Aさん)と10,000株を保有している株主(Bさん)が受け取る株主優待は同じです。そのため、会社により多くの投資をしているBさんは不満かもしれません。

また、海外投資家はどれだけ株を保有していても、株主優待を受け取ることはできません。そのため、海外投資家も株主優待に不満を感じることが多いです。

一方、配当金であれば、保有している株数に比例した金額を受け取ることができます

例えば、この会社の配当金が「1株あたり年間5円」とします。このとき、1,000株保有しているAさんは年間5,000円の配当金を受け取り、10,000株保有しているBさんは年間50,000円の配当金を受け取ります。

保有している株数に応じて受け取る金額が増えるため、Bさんが不公平に感じることはないでしょう。また、配当金であれば、海外の投資家も受け取ることができます。

このように、株主優待を廃止して配当金を増やす企業には、「平等に株主還元を行う」という姿勢があるのです。また、このようなケースであれば、株主への悪影響はほとんどありません。

株主優待が廃止されにくい企業

最後に、株主優待が廃止されにくい企業の特徴を3つ紹介します。

業績が良い

上述のとおり、業績の悪化は株主優待の廃止につながります。裏を返せば、業績の良い企業は株主優待を廃止する必要がありません。

自社の割引券を優待品にしている

自社の割引券を優待品にすることで、売り上げアップにつながる可能性があります。そのため、このような優待品を贈呈している企業は株主優待を廃止しにくいです。

例えば、イオン(銘柄コード:8267)は「買い物金額が3~7%割引になる優待カード」を株主に贈呈しています。

株主としては「割引のないスーパーよりも割引を受けられるイオンで買い物しよう」と考えるのではないでしょうか。そして、結果的にイオンの売り上げアップに貢献することになるのです。

このように、自社の割引券を株主優待にしている企業は、優待品が売り上げに影響しているため、株主優待を廃止しにくいのです

自社製品を優待品にしている

優待品として自社製品を贈呈している企業は多いです。なぜなら、自社製品の宣伝になるからです。

例えば、伊藤園(2593)の優待品は「1,500円相当の自社製品(緑茶・ジュースなど)」です。さまざまな種類の飲料が入っているため、普段あまり飲まないものも試しに飲むことができます。

私の場合、普段は買わない「黒酢で活性」という黒酢ドリンクを株主優待で初めて飲みました。酒で酔っているときに飲んだためか、とてもスッキリして飲みやすかった記憶があります。そして、この話を友人にしました。

友人が「黒酢で活性」を購入したかはわかりませんが、少なくとも株主優待品に宣伝効果があることがわかると思います。

このように、自社製品を優待品にしている企業は、自社の宣伝に繋がるため、株主優待を廃止しにくいのです

まとめ

  • 企業にとって、配当金の金額よりも株主優待のほうが変更しやすい。
  • 企業が株主優待を改悪・廃止する主な理由は「業績の悪化」「株主優待から配当金への変更」の2つである。
  • 株主優待を廃止しにくい企業は、「業績が良い企業」「自社の割引券を優待品にしている企業」「自社製品を優待品にしている企業」である。

今回は、企業が株主優待を改悪・廃止する理由や株主優待を廃止しにくい企業について解説してきました。

企業にとって、配当金よりも株主優待のほうが変更しやすいことに驚いた人もいると思います。また今回紹介したように、「株主優待を廃止しにくい企業」もあります。株主優待を目的としている人は、このような企業を積極的に選んではみてはいかがでしょうか?