インターネット上のウェブサイトや個人ブログなどを見ていると、「株主優待は株主還元のひとつです」「株主還元とは配当金と株主優待のことです」のように記載されています。ただ、これらは誤った情報です。
これらが誤りであることを理解するためには、「株主還元」や「株主平等の原則」という言葉について知っておく必要があります。
そこで今回は「株主還元」「株主平等の原則」「株主優待の位置づけ」などについて解説していきます。この記事の内容を理解し、正しい知識を身に付けましょう。
株主還元とは
株主還元とは、株式会社が事業で得た利益の一部を株主に還元することです。具体的には、配当金や自社株買いなどが株主還元に該当します。それぞれ順に解説していきます。
配当金
株主には「利益の一部を配当金として受け取る権利」があります(専門用語で「剰余金の配当を受ける権利」といいます)。株主は、会社に出資した見返りとして配当金を受け取ることができるのです。
配当金は「1株あたり年間〇円」というふうに決められます。例えば、「1株あたり年間10円の配当金」を分配する企業があるとします。この会社の株を1,000株保有しておけば、年間10,000円の配当金を受け取れます(実際には税金として約20%差し引かれます)。
また、企業が株式分割を行うときに配当金を増やすことがあります。そのため、増配(配当金を増やすこと)を伴う株式分割は株主還元のひとつになります。
株式分割
株式分割とは、その名の通り、株式を「2分の1」や「10分の1」に分割することです。分割すると株価は下がりますが、株数が増えるため保有している株の価値は変わりません。
鈴木さんの保有株:1株1,000円のA社株を100株(=10万円の価値)
↓
A社が株式を2分の1に分割
↓
鈴木さんの保有株:1株500円のA社株を200株(=10万円の価値)
このように、株式を2分の1に分割すると、株価は半分になり株数が2倍になります。株価が下がっても株数が増えるため、トータルの価値は変わりません。
そして、株式分割をするときに、配当金を株式ほど分割しないことがあります。これは実質的に増配と同じです。
例えば、分割前のA社の配当金が「1株あたり年間20円」だったとします。そして、A社が株式を2分の1に分割すると、通常、配当金は「1株あたり年間10円」になります。ところが、「1株あたり年間12円」のように、通常より高く設定することがあるのです。
このとき、分割前後で受け取る配当金は以下のようになります。
- 分割前に鈴木さんが受け取る配当金:2,000円(20円×100株)
- 分割後に鈴木さんが受け取る配当金:2,400円(12円×200株)
このように、株式分割は実質的に増配になることがあるのです。
自社株買い
自社株買いとは、企業が自らの資金を使って自社の株を購入することです。企業は株主還元や経営戦略の一環として自社株買いを行うのです。
企業が東証などの株式市場から自社株を買い付ける場合、実際に多くの買い注文が入ることになるので株価は上がります。
また、会社が市場に流通している株式を取得することで、発行済み株式数が減少します。そして、発行済み株式数が減ると、必然的にその価値が上がります。
シイタケよりも松茸の価値が高い理由は、松茸の数が少ないからです。世の中の原則として「数の少ないものは価値が高い」のです。それと同じで、「自社株買い → 発行済み株式の数が減る → 1株あたりの価値が上がる」という流れで株価は上がるのです。
そして、企業はこれまでに得た利益の一部を使って自社株を買います。つまり、利益の一部を間接的に株主に還元しているのです。そのため、自社株買いは株主還元のひとつになるのです。
株主平等の原則とは
株主の権利や株主が受け取る利益は、保有している株数に比例しなければなりません。
例えば、配当金が「1株あたり年間10円」から「1株あたり年間12円」に値上がりしたとします。すると、100株保有している人にとっては、年間200円の増配です。一方、10,000株保有している人にとっては、年間20,000円の増配になります。
これは自社株買いによる株価の上昇においても同じです。例えば、自社株買いにより株価が100円上昇したとします。すると、100株保有している人にとっては10,000円の利益ですが、10,000株保有している人にとっては100万円の利益になります。
このように、株主の利益は保有している株数に比例します。これを「株主平等の原則」といいます。「株主平等の原則」は会社法109条に以下のように定められています。
会社法109条
「株式会社は、株主を、その有する株式の内容および数に応じて、平等に取り扱わなければならない」
「株主平等の原則」は当たり前のように感じるかもしれませんが、大事な原則です。そして、「株主還元=利益の一部を受け取ること」であるため、株主還元は「株主平等の原則」に従って行われなければならないのです。
株主優待は株主還元ではない
冒頭に述べたとおり、株主優待は株主還元ではありません。なぜなら、株主優待は「株主平等の原則」に従っていないからです。
- 100株以上 1,000株未満の株を保有している株主:1,000円分の食事優待券を贈呈
- 1,000株以上の株を保有している株主:3,000円分の食事優待券を贈呈
このように、株主優待の価値は保有している株数に比例しません。株主平等の原則に従っているわけではないので、「株主優待=株主還元」と記載するのは誤りなのです。
ただ、実際のところ「株主優待は会社が行うサービスの一環」として認められています。「株主還元」ではなく、あくまで「サービスの一環」という位置づけなのです。
このように、株主優待の位置づけはかなりあいまいです。実際、株主優待に関しては、法律の専門家の間でさまざまな議論が行われています。また、株主優待と株主還元を混同してしまっている企業もたくさんあります。
ただ、株主優待と株主還元を明確に区別している企業もあります。例えば、カゴメ(銘柄コード:2811)のHPには以下のように記載されています。カゴメでは、株主優待と株主還元を明確に区別していることが読み取れるはずです。
(前略)この株主優待贈呈については、株主還元と一線を画し、 株主のみなさまには、様々な旬の情報と共にお届けする当社商品を通じて、KAGOMEを知っていただくことを主旨としております。
引用元: カゴメ株式会社 IR情報
まとめ
- 株主還元とは、株式会社が得た利益の一部を株主に還元することである。具体的には、「配当金」や「自社株買い」などが株主還元に該当する。
- 株主は保有している株数に応じて平等に扱われなければならない。これを「株主平等の原則」という。そして、株主還元は株主平等の原則に従って行われなければならない。
- 株主優待は「会社が株主に行うサービス」であり、株主還元ではない。
今回は、「株主還元」「株主平等の原則」「株主優待の位置づけ」について解説してきました。今回解説したように、株主優待は株主還元ではありません。「株主優待は株主還元の一環です」と書かれているウェブサイトの情報は正しくないので、信じないようにしましょう。