会社の株価は基本的にはオークションと同じように決まります。買いたい人が多ければ株価は上がり、売りたい人が多ければ株価は下がります。

それでは、買いたい人が増えるのはどのような場合でしょうか? 逆に、どんなときに株を売りたい人が増えるのでしょうか?

投資家の株取引に影響を与える要因は、「会社に関連する要因」と「株式市場全体に影響する要因」の2つに大別できます。

今回は「会社に関連する要因」に焦点を当てて解説していきます。私のように「数ヶ月~数年間株式を保有して売却する」という中長期の運用スタイルの人は、これらの要因をしっかりと把握しておく必要があります。そうすることで、急な株価の変動にも落ち着いて対処できるはずです。

※ デイトレーダーのように超短期で売買する人は、主にチャート分析から売買の判断をします。今回の内容はあくまで中長期の運用スタイルの人を想定して書いています。

会社の業績

会社に関連する株価変動要因は、「業績」と「業績以外の要因」に大別できます。まずは「業績」について解説していきます。

株価にもっとも大きな影響を与えるのが会社の業績です。そのため、中長期の運用スタイルの人は、会社の業績にもっとも注目しなければなりません。

会社の業績が右肩上がりであれば、基本的に株価も上がっていきます。また、業績が伸びるにつれて、増配(配当金を増やすこと)したり株主優待の内容を充実させたりすることもあるため、投資する人が増えていきます。

逆に、会社の業績が悪ければ株価は下がります。業績が改善しなければ、最悪の場合、会社が破綻してしまいます。そうなると投資したお金が1円も戻ってこないため、投資家はどんどん減っていきます。

このように、基本的に業績の良い会社の株価は上がり、業績の悪い会社の株価は下がると理解してください。

ただ、株価はその会社の現在の業績ではなく、将来の業績を予測して変化します。これを「株価の先見性」といいます。そのため、成長企業の株価は現在の業績に対して割高になる傾向にあります。そして、「業績は良いが思ったより伸びなかった」という決算が発表されると、短期的に株価は下がることもあります。

このように、成長企業の場合は「好決算なのに売られる」ということも想定しておく必要があります。

業績以外の要因

会社に関連する要因のうち、「業績以外の要因」はたくさんあります。主な要因は以下の9つになります。なお、以降の文章では以下のように色分けしています。読み進める際の参考にしてください。

  • 赤字:株価が上がる要因
  • 青字:株価が下がる要因
  • 緑字:どちらともいえない

① 株式分割

株式分割とは、その名の通り、株式を2分の1や10分の1に分割することです。以下の例を見てください。

<株式分割の前>
山田さんが保有している株式:1株1,000円のA社株を100株(=10万円分)

A社が1:2の比率で株式分割を実施(株式を2分の1に分割)

<株式分割の後>
山田さんが保有してる株式:1株500円のA社株を200株(=10万円分)

このように株式を2分の1に分割すると、株価は半分になって株数が2倍になります。株価が下がっても株数が増えるため、トータルの価値は変わりません。

会社が株式分割をするメリットは「株価が安くなること」にあります。そうすることで、個人投資家が投資しやすい環境を作っているのです。

また、株式分割をするときに配当金を株式ほど分割しない場合があります。これは増配と同じです。

例えば、分割前のA社の配当金は「1株あたり10円」だったとします。A社が株式を2分の1に分割すると、通常、配当金は「1株あたり5円」になります。ところが、「1株あたり6円」のように通常より高く設定される場合があるのです。このとき、山田さんが受け取る配当金は以下のようになります。

  • 分割前に受け取る配当金:1,000円(10円 × 100株)
  • 分割後に受け取る配当金:1,200円(6円 × 200株)



このように、「投資家が参戦しやすくなる」「増配になるケースがある」という理由から、株式分割は株価が上昇する要因になります。

② 自社株買い・株式の処分・株式の消却

自社株買いとは、企業が自らの資金を使って自社の株を購入することです。東証などの市場から買い付ける場合は、実際に多くの買い注文が入ることになるので、株価は上がります。

また、会社が市場に流通している株式を取得することで、発行済み株式数が減少します。

通常、数が減ると価値が上がります。シイタケと松茸を比べたとき、松茸の価値が高いのは松茸の数が少ないからです。これと同じように、自社株買いをすることで発行済み株式数が減るため、1株当たりの価値は上がります。つまり、株価は上昇します。

また、会社は自社株を保有し続ける場合もあれば、処分したり消却したりすることもあります。

株式の処分とは、自社が保有している株式を売ることです。自社株買いの反対なので、株価は下落します。

また、株式の消却とは、文字通り株式を消し去ることです。消却することで、その株式が市場に戻ってくる可能性(=上記の「処分」が行われる可能性)はなくなるため、株価が上昇する要因になります。

③ 公募増資

公募増資とは、新しい株式を発行することで新たに資金を調達することです。公募増資が株価に与える影響は一概にはいえません。

集めた資金を設備や研究開発などに投資すれば、将来的に業績が伸びる可能性があります。一方で、発行済み株式数が増えるため、1株当たりの価値が下がることになります。そのため、短期的には株価は下がることがあります。

④ 証券アナリストの評価

証券会社などの証券アナリストは、企業を分析した上で、その企業の格付け(レーティング)を発表することがあります。3段階もしくは5段階評価で「買い」「中立」「売り」などの評価をするのです。

例えばドイツ証券であれば、ある企業をBuy(買い)、Hold(継続保有)、Sell(売り)のいずれかで評価します。また、国内の証券会社であれば、1(強気)、2(中立)、3(弱気)のように数値で評価することが多いです。

さらに、レーティングと同時に目標株価が発表されることもあります。例えば、レーティングは2(中立)だが、目標株価を1,000円から1,200円に引き上げることがあるのです。

当然、レーティングや目標株価の引き上げは株価の上昇につながり、レーティングや目標株価の引き下げは株価の下落につながります。

⑤ 買収

まれに企業が他の企業に買収されることがあります。買収する側の企業は、相手企業の経営権を得るために50%以上の株式を取得する必要があります。そして、このような大量の株式を買う場合は公開買い付けTOBといいます)を行うことが義務付けられています。

※ TOB: Takeover Bid の略

TOBとは「株を買う期間・株数・価格を公示して、対象企業の株を売ってくれる人を募集すること」です。通常、TOBの価格はそのときの株価よりも高く設定されます。そのため、TOBが発表されると株価はTOBの価格付近まで上昇することになります。

⑥ 株価指数構成銘柄の変更

株価指数とは「日経平均株価」や「TOPIX」のように、株式市場全体の動向を示す数値です。日経平均株価であれば東証1部上場銘柄から選ばれた225社の動向を示す値です。

そして、これらの指数に連動した値動きをする金融商品としてインデックス投信(インデックスファンド)があります。ファンドとは「投資家の代わりにファンドマネジャーと呼ばれるプロが運用してくれる金融商品」のことです。

例えば、日経平均株価に連動して動くインデックス投信として「ニッセイ日経225インデックスファンド」があります。もしあなたがこのファンドを買うと、ファンドマネジャーがあなたのお金を225社に分散投資してくれるのです(実際には225社に満たない場合もあります)。

ただし、日経平均株価の構成銘柄は定期的に変更されています。そのため、ファンドマネジャーは日経平均株価との連動性を維持するために、除外された銘柄を売り、新たに組み入れられた銘柄を買います。そのため、指数銘柄への採用は株価の上昇要因になります。逆に、指数銘柄からの除外は株価の下落要因になります。

⑦ 信用取引の動向

信用取引とは、投資家が証券会社からお金を借りたり株を借りたりして、株取引を行うことです。

例えば、お金を借りた場合は「借りたお金で株を買う → 6ヶ月以内にその株を売る → お金を証券会社に返す」という流れで取引を行います。借金はしていますが、株を「買う → 売る」の流れなので、株価が上がれば投資家は儲かります。これを信用買い(買い建て)といいます。

また、株を借りた場合は「借りた株を売る → 6ヶ月以内に株を買い戻す → 株を証券会社に返す」という流れで取引を行います。この場合は株を「売る → 買う」の順なので、株価が下がれば投資家は儲かります。このような取引を空売り(売り建て)といいます。

ここで注目してほしいのは、「6ヶ月以内」の部分です。証券会社からお金や株式を借りる場合は返却期限が決められているのです。

仮に、かなり多くの人がA社株を信用買いしていたとします。この場合、「6ヶ月以内に売る人がかなり多い」といいかえることができます。つまり、信用買いの増加は短期的には株価の下落要因になるのです。逆に、空売りの増加は短期的には株価の上昇要因になります。

⑧ 権利落ち日

企業は株主に対して配当金や株主優待を配布しています。これらを受け取るためには、株主としての権利が確定する日の3営業日前(権利付き最終日)までに株を買っておかなければなりません。

ただ、配当金や株主優待の権利を得た人の中にはすぐに株を売却する人がいます。そのため、権利付き最終日の翌日(権利落ち日)は株価が落ちる傾向にあります。

⑨ チャート

株価のチャートは多くの投資家が売買の指標にしています。私は基本的に企業業績などのファンダメンタルズを重視して銘柄を選びますが、実際に注文を出す際はチャート分析もします。つまり、銘柄選びはファンダメンタルズを重視し、注文を出すときはチャートを重視しているのです。

チャート分析のポイントは数多くありますが、ここではもっとも代表的な「移動平均線」を紹介します。

下記のチャートは、ある時期のチャートを示しています。で囲った箇所を見てください。ちょうど25日移動平均線(過去25日間の株価の平均値を線で結んだもの)や200日移動平均線とぶつかるところで株価が反転していることがわかると思います。

チャートの例

このような値動きはファンダメンタルズでは説明できません。多くの投資家が「25日移動平均線(もしくは200日移動平均線)に近づいてきたから、そろそろ反転するじゃない?」と思い始めて注文を出した結果、このようなチャートになっているのです。

このように、株価のチャートは投資家の売買に影響します。ただ、株価が上がるか下がるかはチャートの形しだいです。

複数の要因のうち何に着目して株取引をすればよいか?

このように、株価に影響を与える要因のうち「会社に関連する要因(業績、業績以外の要因)」だけでも非常にたくさんの項目があります。さらに、今回は紹介していませんが「株式市場全体に影響を及ぼす要因」も考慮する必要があります。

このように複数の要因がある中で、私たち個人投資家はどこに着目して株取引をすればよいのでしょうか?

その答えは、「自分で分析・予測できるもの」です。

例えば、①株式分割、②自社株買い、株式の処分、株式の消却、③公募増資、④証券アナリストの評価、⑤買収に関しては、自分で分析・予測できません。また、⑥株価指数構成銘柄の変更については、予測できる可能性もありますが私はあまり考慮していません。

これらは会社や証券会社が突然公表するものです。したがって、①~⑥の項目を予測して株式投資をするのは現実的ではありません。

私たちが普段の株取引で注目すべきなのは、「業績」と「信用取引の動向」「権利落ち日」「チャート」などになります。

私の場合であれば、企業業績で銘柄を選んでから、チャート分析で買うタイミングを決めます。その際、権利落ち日や信用取引の状況も確認します。権利落ち日が数日後に迫っているようであれば、権利落ち日以降に買うことを検討するのです。

このように、自分で分析・予測できる項目に絞って銘柄を分析するようにしましょう。分析に慣れてくれば、あなたも必ずよい銘柄を選べるようになります。

まとめ

  • 株価が変動する要因は「会社に関連する要因」と「株式市場全体に影響する要因」の2つに大別できる。
  • 会社に関連する要因のうち、もっとも影響が大きいのは「会社の業績」である。
  • 業績以外には主に9つの要因がある。このうち、私たちが注目すべきなのは、自分で分析・予測できる「信用取引の動向」「権利落ち日」「チャート」などである。

今回は、株価の変動要因のうち「会社に関連する要因」に絞って紹介してきました。かなり多くの要因があることに驚いた人もいるでしょう。ただ、その多くは投資家が事前に分析・予測できるものではありません。私たちはすでに公表されている情報を分析して株取引をすればよいのです。