日本国内には大都市を中心に複数の証券取引所があります。その中でもっとも大きいのが東京証券取引所(東証)です。東証はさらに、「一部」「二部」「マザーズ」「JASDAQ(ジャスダック)」などの複数の市場に分かれています。

各証券市場にはそれぞれ独自の上場基準があります。そして、もっとも上場基準が厳しいのが東京証券取引所 市場第一部(東証一部)です。

今回は、多くの大手企業が上場する東証一部について詳しく解説していきます。また、「東証二部や新興市場から東証一部へ昇格するための基準」や「東証一部から降格した企業の事例」を紹介します。多くの投資家が参戦している東証一部について理解を深めておきましょう。

日本にある株式市場

日本の証券取引所は、東京、名古屋、福岡、札幌などの大都市にあります。このうち、もっとも活発に取引が行われているのが東京証券取引所(東証)です。それに対して、東証以外の市場は取引がかなり少ないです。そのため、ほとんどの投資家は東証に上場している銘柄に投資をしています。

上記の都市の中に「大阪」がないことに気づいた人もいるでしょう。大阪証券取引所は2013年1月に東京証券取引所と経営統合し「日本取引所(にっぽんとりひきじょ)グループ」になりました。

現在は「大阪取引所」という名称で、デリバティブ取引を専門に扱っています。ちなみに、東京証券取引所も日本取引所グループの子会社になります。

※ デリバティブ取引:先物取引やオプション取引など、通常の株取引とは異なる取引。金融派生商品とも呼ばれる。

東証一部の概要

東証の中には「一部」「二部」「マザーズ」「JASDAQ(ジャスダック)」など複数の株式市場があります。このうち、マザーズとJASDAQは新興企業向けの株式市場であることから、新興市場と呼ばれています。

各株式市場に上場するためには上場基準(審査基準)を満たす必要があります。東証一部はもっとも審査基準が厳しいため、ある程度規模の大きい企業しか上場することができません。

東証には複数の株式市場がありますが、1日の全取引の8~9割は東証一部で行われています。東証一部では毎日莫大なお金が動いているのです。その取引高の大きさから、東証はニューヨーク証券取引所やロンドン証券取引所とともに世界三大市場といわれてきました。

東証一部では主に機関投資家(保険会社や信託銀行など)や海外投資家が取引を行っています。いわゆるプロの投資家が莫大な金額を動かしているのです。一方、それ以外の市場では主に個人投資家が取引を行っています。そのため、必然的に東証一部では他の市場に比べて大きなお金が動くのです。

東証一部に上場するメリット

東証一部に上場するには、審査料400万円と新規上場料1,500万円を合わせた1,900万円が必要です。東証二部の場合は、審査料なし、新規上場料1,200万円です。このように、東証一部に上場するためにはそれなりに大きな費用がかかります。

これだけの費用をかけて厳しい審査を受けてまで東証一部に上場しようとするのには理由があります。企業は東証一部に上場することで以下のようなメリットが得られるのです。

資金調達が容易になる
東証一部に上場することで、株式発行による資金調達が容易になります。東証一部の企業は基本的に大企業です。経営が不安定になるリスクが低いため、投資家は安心して投資することができるのです。

知名度が上がる
新聞や経済ニュースに取り上げられる機会が増え、企業の知名度が一気に上がります。そのため、一般の消費者に認知されやすくなり、売り上げアップが期待できます。

社会的信頼性が上がる
「東証一部の審査基準を満たす優良企業」と認知されることで社会的信頼性が上がります。その結果、取引先と良好な関係を築けたり、優秀な新入社員を採用しやすくなったりします。

このように、東証一部に上場することでさまざまなメリットが得られます。大きな費用や手間をかける価値は十分にあるのです。

東証一部の審査基準

上述のとおり、国内にあるすべての証券市場の中で、東証一部の審査基準がもっとも厳しいです。審査項目は、株主数、流通株式数、時価総額、事業継続年数、純資産、利益など多岐にわたります。

一般的に、東証二部から東証一部へ昇格することを「一部指定」、新興市場から東証一部へ昇格することを「市場変更」といいます。そして、一部指定か市場変更かによって審査基準が細かく変わります。また、マザーズからの市場変更とJASDAQからの市場変更でも審査基準は微妙に異なります。

代表的な審査基準は以下の表のようになります。ここでは細かい説明は省略しますが、このほかにもケースバイケースで細かい複数の条件が設定されています。

一部指定 市場変更
株主数 2,200人以上 2,200人以上
流通株式数 2万単位以上 2万単位以上
流通株式時価総額 20億円以上 10億円以上または20億円以上
流通株式の比率 上場株券等の35%以上 上場株券等の35%以上
時価総額 40億円以上 250億円以上または40億円以上
事業継続年数 基準なし 3年以上
純資産 10億円以上 10億円以上
※ 流通株式:発行済み株式のうち創業者一族などが保有している固定株を除いた株式のこと。比率が低いと、活発な売買が行われにくくなります。

このように、東証一部上場を目指す企業は、通常は新興市場や東証二部を経由することになります。いいかえると、新興市場や東証二部の成長企業は、将来東証一部に昇格する可能性を秘めているのです。

私はこのような成長中の企業を狙って投資をすることが多いです。投資先の企業が成長とともに東証一部に昇格すると、投資家としてもとても嬉しいです。

東証一部から降格・上場廃止になる場合もある

東証一部に上場していても必ずしも安泰というわけではありません。場合によっては、一部から降格してしまうことがあるのです。

日本を代表する電機メーカーである東芝(銘柄コード:6502)やシャープ(同:6753)も例外ではありませんでした。

東芝の例
2015年1月、内部告発により東芝の不正会計が発覚しました。第三者調査委員会の報告によると、東芝では2008年度から2014年度まで7年に渡って不正会計が行われていたのです。

具体的には、歴代社長らが主導したインフラ、テレビ、パソコン、半導体といった複数の事業で利益の水増しが行われていました。最終的に、歴代3代の社長が責任をとって、社長、副会長、相談役などを辞任するに至りました。

2015年9月、東京証券取引所は東芝を「特設注意市場銘柄」に指定しました。そして、2年後の2017年8月に東芝は東証二部に降格しました。

※ 特設注意市場銘柄:上場廃止基準に抵触する可能性があるため、内部管理体制を改善する必要がある銘柄

シャープの例
シャープは液晶パネル事業などの不振が原因で2016年3月末に債務超過(負債が資産の総額を上回ること。資産をすべて売却しても負債を返済できない状態)に陥りました。そして、同年8月に東証一部から東証ニ部に降格しました。

その後、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業グループの出資を受け再建を果たし、2017年12月には東証一部に復帰しました。東証二部に降格してからわずか1年4カ月という驚異的なスピードで復帰したのです。

東芝やシャープは東証一部から降格した有名な事例です。また、降格ではなく上場廃止になる企業も毎年出ています。日本航空(JAL)(銘柄コード:9201)もかつて経営破綻によって東証一部から撤退した大企業の一つです。

このように、東証一部上場企業でも経営不振に陥ることがあります。私を含めた一般的な投資家が不正会計を見抜くのはかなり難しいですが、このような事例があることを心に留めておきましょう。

まとめ

  • 東証の中にも「一部」「二部」「マザーズ」「JASDAQ」など複数の株式市場がある。
  • 上場の審査基準は東証一部がもっとも厳しい。そのため、東証一部に上場する企業は基本的に大企業である。
  • 東証二部や新興市場の企業であっても、企業の成長とともに東証一部に昇格するケースがある。
  • 東証一部に上場している企業であっても経営不振に陥り、降格や上場廃止になることがある。

今回は、東証一部について詳しく解説しました。厳しい審査基準を満たして東証一部に上場した企業でも、経営不振に陥ることがあることは理解しておきましょう。

逆に、東証二部や新興市場の銘柄でも成長とともに東証一部に昇格するケースがあります。私はそのような成長企業を狙って投資をすることが多いです。企業の成長とともに自分の資産も増えていくので、株式投資の醍醐味を味わうことができます。投資先を選ぶ際にはそのような成長企業を選んでみてはいかがでしょうか?