株価の決まり方は基本的にはオークションと同じです。買いたい人が多ければ株価は上がり、買いたい人が少なければ株価は下がります。

それでは、投資家が買いたいと思うのはどのようなときでしょうか?

投資家の株取引に影響する要因は「会社に関連する要因」と「株式市場全体に影響を及ぼす要因」の2つに大別できます。今回は、「株式市場全体に影響を及ぼす要因」について詳しく解説していきます。

私のように「数ヶ月~数年間株式を保有して売却する」という運用スタイルの人は、これらの変動要因をしっかりと理解しておきましょう。そうすることで、株価の急な動きにも落ち着いて対処できるようになります。

※ デイトレーダーのように超短期で運用する人は、主にチャート分析から売買の判断をします。今回の内容はあくまで中長期で運用している人を想定して書いています。



「株式市場全体に影響を及ぼす要因」は非常にたくさんあります。主な要因は以下の①~⑧の8個になります。

① 景気や金利の動向

世の中の景気は良いときもあれば悪いときもあります。景気は循環しているため、「ずっと好景気」や「ずっと不景気」ということはありません。

そして、景気をコントロールするためにさまざまな金融政策を打ち出しているのが中央銀行(日本の場合は日本銀行)です。

例えば、不景気が続いて世の中にお金が回っていないとします。このとき、中央銀行は金利を下げようとします。金利が下がると企業は銀行から融資を受けやすくなるからです。その結果、世の中にお金がまわりはじめ、景気がしだいに回復していくのです。

このように、金利を下げて経済を刺激することを金融緩和といいます。金利が下がると経済活動が活発になるので、基本的に株価は上がります。

逆に、好景気が続いているときはインフレ(=物価の上昇)を防ぐために、中央銀行は金融引き締めを行います。つまり、金融緩和とは反対に金利を上げようとするのです。この場合は、株価が下がる要因になります。

このように、基本的には金利と株価は反比例する関係にあります。ただ、実際は例外的な動きをすることも多いです。

例えば、景気がよくなっている最中では、中央銀行は経済の成長を抑えすぎないように少しずつ金利を上げていきます。このようなときは、経済も順調なので金利が上がるとともに株価も上がっていきます。金利と株価が常に反比例するわけではないのです。

② 為替の変動

為替の変動は会社の業績に大きく影響します。

貿易をしている企業が海外と取引をする際は、たいてい米ドルが使われます。仮に「1ドル=100円」のときに、輸出企業が1台1万ドルの車を10台売ったとします。このとき、売り上げは10万ドルです。日本円に換算すると1,000万円になります。

その後、為替が円安に動いて「1ドル=150円」になったとします。このとき同じ車を10台売ると、売り上げはやはり10万ドルです。ところが、日本円に換算すると1,500万円になります。つまり、為替が円安になったことで輸出企業の売り上げが増えたのです。

このように、円安は輸出企業にとって業績向上につながります。そのため、円安になると輸出企業の株価は上がります。逆に、円高になると輸出企業の株価は下がります。また輸入企業の場合は、輸出企業とは反対の影響を受けます。

さらに、日本の大手企業の多くは国内の下請け企業とさまざまな業務提携を行っています。そのため、為替の変動は貿易を行っていない企業にも影響を及ぼすことになるのです。

③ 世界経済や海外市場の動向

世界の経済はつながっているため、海外の経済政策や株式市場の動向は日本の相場に影響を与えます。

例えば、2008年にアメリカの住宅バブルの崩壊をきっかけに、大手投資銀行「リーマンブラザーズ」が破綻しました。アメリカでの出来事でしたが、その影響は世界中に広がり、世界的な大不況を引き起こしました。

また、先ほど「景気は循環している」と述べましたが、これは世界経済にも当てはまります。そのため、投資家は世界経済の循環にも注意しなければなりません。

特に注目すべきなのはアメリカの金利です。アメリカは世界経済の中心なので、アメリカの金利は定期的にチェックしておいたほうがいいです。私も必ず定期的に確認するようにしています。

そして、「米国の金利(特に短期金利)が上がってきたら金融引き締めが進行している」と認識してください。米国が金融引き締めを進めているので、いずれ株価は下落局面に入ることが予測できるのです。

④ 政治的な要因

不安定な政権は、株式市場全体の下落要因になります。特に、株式相場が好調なときに政権の不祥事が連続したり国会が荒れたりすると、株価が値下がりする可能性があります。

逆に、株式市場が低迷しているときに、政権が交代すると株価が上昇する可能性があります。例えば、2012年末に民主党政権から自民党政権に代わりました。当時、日経平均株価は低迷していましたが、この政権交代をきっかけに株価は上がっていきました。

⑤ 地政学的リスク

地政学リスクとは「戦争や国際関係の緊張が経済に悪影響をもたらすリスク」のことです。例えば、日本で戦争やテロが起こる可能性が高まったとします。この場合、日本の景気に悪影響をもたらすので、株式市場全体の下落要因になります。

ただし、細谷火工(銘柄コード:4272)や興研(同:7963)のような防衛関連の銘柄の株価は急上昇します。

⑥ 災害・事故・事件

大地震などの災害が起こると生産活動や物資輸送が停滞するため、経済全体に悪影響を与えます。そのため、大きな災害が発生すると株式市場は全体的に下落します。ただ、復興段階に入ると、建設業界を中心にさまざまな需要が増えるため株価は上昇していきます。

また、ニュースで報道されるような大きな事故や事件は、特定の業界の株価に影響を与えます。

例えば、あるネット銀行がハッキングされて、資金が不正に流出したとします。この場合、被害にあった銀行だけでなく他の銀行の株価も下がる可能性があります。「同じリスクがある」とみなされるからです。反対に、情報セキュリティ業界の銘柄は株価が上がる可能性が高いです。

⑦ 国の政策

日銀は金融政策の一環として、株式市場でETF(上場投資信託)を大量購入することがあります。ETFの詳しい説明はここでは省きますが、日銀がETFを大量に買うことで、複数の銘柄の株価が上がります。

また、国の政策が特定の業界に大きな影響を与えることもあります。例えば、国が少子化対策として「幼児教育の無償化」の方針を掲げたとき、幼児活動教育(銘柄コード:2152)やライクキッズネクスト(同:6065)などの幼児教育に関連する銘柄が一斉に値上がりました。

国の財源が幼児教育に充てられるため、これらの会社の業績が伸びると考えられたからです。

株の世界には「国策に売りなし」という言葉があります。国の政策で資金が集まると予想される業界は、大きく値上がりすることが多いのです。

⑧ 先物取引の影響

先物取引とは、「将来、〇円で商品Aを買います(or 売ります)」と取引時に決めることです。そして、「取引時に決めた価格(〇円)」と「将来の実際の価格」との差額が利益になったり損失になったりします。

また、「取引時に決めた価格」と「先物取引の価格」の差が大きく開いた場合は、その差が縮まるように価格が動いていきます。そのため、先物取引の価格が安ければ、現在の価格も下がっていきます。逆に、先物取引の価格が高ければ、現在の価格も上がっていきます。

そして、実際に先物取引で扱える金融商品として「日経平均先物」があります。そのため、日経平均先物の価格に応じて、現在の株価が変化することが多いです。

複数の要因のうち何に着目して株取引をすればよいか?

このように、株価に影響を与える要因のうち「株式市場全体に影響を与える要因」だけでも非常にたくさんの項目があります。さらに、今回は紹介していませんが、「会社に関連する要因」も考慮する必要があります。

それでは、複数の要因がある中で私たち個人投資家は何に着目して株取引をすればよいのでしょうか?

私の考えは以下のとおりです。

  • ①景気や金利の動向、②為替の変動、③世界経済や海外市場の動向 は必ず確認する(積極的に情報を取りに行く)
  • ④政治的な要因、⑤地政学的リスク、⑥災害・事故・事件 はニュースで報道されれば確認する
  • ⑦国の政策、⑧先物取引 は投資スタイルに応じて確認する



景気や世界経済の動向は非常に影響力が強いです。さらに、数年以上にわたって株式相場に影響を与えます。そのため、中長期の運用スタイルの人は①~③を必ず確認しましょう。特に、アメリカの金利は普段のニュースではあまり報道されません。自分で積極的に確認する必要があるのです。

また、④~⑥も株式市場への影響が大きいです。ただ、これらに関しては①~③ほど積極的に情報を求めなくてもよいと考えています。基本的にはニュースをチェックするくらいでよいでしょう。そして、「リスクが高そう」と思ったら、早めに保有銘柄を売却するなどの対策を取りましょう。

一方、⑦国の政策、⑧先物取引 に関しては、運用スタイルに依存すると考えています。

例えば、「少子化対策」や「環境問題対策」のように、特定のテーマに注目して投資をする「テーマ投資」という運用スタイルがあります。

上述のとおり、国策関連の銘柄は値上がりしやすいため、テーマ投資を積極的に行う人は国策を常にチェックする必要があります。また、日経平均株価に採用されている銘柄を短期で運用している人であれば、先物価格もチェックしたほうがよいでしょう。

このように、株式投資を行う上で情報収集は欠かせません。上記の項目をこれまでチェックしてこなかった人は、少しずつでよいのでチェックする習慣を身に付けるようにしましょう。

まとめ

  • 株価が変動する要因は「会社に関連する要因」と「株式市場全体に影響を及ぼす要因」の2つに大別できる。
  • 株式市場全体に影響する主な要因として8つの項目がある。このうち、①景気や金利の動向、②為替の変動、③世界経済や海外市場の動向などは株式市場への影響が大きいので、積極的に確認したほうがよい。

今回は、株価の変動要因のうち「株式市場全体に影響を及ぼす要因」に絞って紹介していきました。中長期の運用スタイルの場合は、世界経済の影響を強く受けます。そのため、企業分析だけでなく世の中の流れにも注目しておく必要があるのです。