「自社株買い」とは、企業が自らの資金を使って自社の株を購入することです。自社株買いが発表されると、高い確率で株価が上がるため、株主にとっては大きなメリットがあります。

それでは、企業はなぜ自社株買いを行うのでしょうか? 

今回はこの疑問について、「株主のメリット」と「企業のメリット」という2つの観点から解説していきます。また、自社株買いの発表後に株主が確認すべきポイントを述べていきます。株式投資において、「自社株買い」は大きなニュースなので、その概要をしっかりと学び取ってください。


自社株買いは、株主還元(株主に利益の一部を還元すること)や経営戦略の一環として行われます。そのため、自社株買いは株主と企業の双方にメリットがあるのです。

以下、「株主のメリット」「企業のメリット」の順に解説していきます。

株主還元の一環(株主のメリット)

株主還元とは「会社が得た利益の一部を株主に還元すること」です。株主は出資した見返りとして利益の一部を受け取ることができるのです。そして、企業が行う代表的な株主還元が配当金自社株買いです。

配当金の場合、企業は株主に現金を渡します。「利益を還元する」という意味では、直接的でわかりやすい還元方法です。

一方、自社株買いは配当金ほど直接的ではありません。ただ、会社がこれまでに得た利益を使って自社の株を買うことによって、会社の株価が上がります。株価が上がるので、株主にとっては大きなメリットになるのです。

<自社株買いで株価が上がる理由>
会社が大量の株を買い付けるので、市場に流通する発行済み株式数が減少します。発行済み株式数が減ることで、必然的に株価が上がります。詳しくは以下の記事をご覧ください。

「自社株買い」で株価が上がる3つの理由


このように、企業は自社株買いを行うことで、株主に間接的に利益を還元しているのです。

経営戦略の一環(企業のメリット)

自社株買いは、企業にとっても以下のようなメリットがあります。

買収対策になる

買収とは、ある会社が他社の発行済み株式の過半数を買い占めることです。そうすることで、株主総会における議決権(経営方針などに賛否を表明する権利)の過半数を手に入れることができます。その結果、その会社の経営権を支配できるのです。

企業としては他社に経営権を奪われたくありません。そのため、発行済み株式の過半数を他社に買い占められないように対策します。その対策の一つが自社株買いです。

自社株買いを行うと株価が上がるため、買収に必要な金額が大きくなります。また、自社で株を保有することで、他社からの買い占めを防ぐことができるのです。

経営効率が高いことを株主にアピールできる

少ない資金で効率よく稼ぐ企業は「経営効率が高い」と投資家から評価されます。そのため、企業は経営効率を上げようとします。

そして、経営効率を示す指標として、ROE(自己資本利益率:Return on Equity)という値があります。

<ROE>
企業が自己資本(株主からの出資金や過去の利益の蓄積)を用いて、どれくらい効率よく稼いでいるかを示した値。ROEが高いほど経営効率が高いと評価される

<ROEの計算式>
ROE(%)= 純利益 ÷ 自己資本 × 100

私のようにファンダメンタルズ(企業の経営状態)を重視する投資家は、企業のROEをよくチェックしています。逆にいうと、企業はROEを上げることで、経営効率の良さを投資家にアピールできるのです。

そして、自社株買いを行えば、ROEが上がります。なぜなら、株を買うための資金として自己資本を使うからです。つまり、自社株買いを行うことで、自己資本が小さくなるのです。

自己資本が小さくなると、上の計算式の分母が小さくなるので、ROEは大きくなります。その結果、「経営効率の高い企業」として投資家から評価されるようになるのです。

ストックオプションの株を確保できる

企業が自社株買いで取得した株式は、いったんそのまま保有されます。これを「金庫株式」といいます。金庫株式は以下の3通りの処理が行われることになります。

そのまま保有 金庫株式のまま
消却 株式を完全に消し去ること。自社株買いされた株は消却されることが多い。
処分 株式を売ること。自社株買いの反対なので、株価の下落要因になる。

ここでは、「処分」について解説していきます。株式の処分とは、自社株買いの反対で株式を売ることです。その際、ストックオプションとして処分されることが多いです。

<ストックオプション>
あらかじめ決められた価格で自社株(金庫株式)を購入できる権利を社員に与えること。

社員はストックオプションで獲得した株を市場で売ることができるので、株価が上がれば(=業績が良くなれば)大きな利益を得られる。そのため、ストックオプションによって社員の意欲が向上する可能性がある。

企業は自社株買いをすることで、ストックオプションのための株を確保することができます。

ただ、ストックオプションとして株が処分されると、その株は市場で売られるので、株価の下落要因になります。つまり、自社株買いによって株価が上がっても、その株が処分されると株価はまた下がる可能性があるのです。

配当金を減らすことができる

A社の配当金は「1株あたり年間100円」とします。このとき、A社が100万株の自社株買いを行ったとします。

自社株買いを行う前であれば、100万株分の配当金として1億円(100円×100万株)が必要でした。しかし、自社が保有している場合は配当金を支払う必要がありません。つまり、企業は自社株買いを行うことで、1億円の支出を削減できたことになるのです。

このように、自社株買いには「配当金を減らすことができる」というメリットもあるのです。

ここまでの説明で、自社株買いは株主と企業の双方にメリットがあることを理解できたと思います。次に、自社株買いが発表されたときに株主が確認するべきポイントついて解説します。

株主が確認するべきポイント

企業から自社株買いが発表されたとき、以下の3点を確認するようにしてください。

自社株買いされる株式の数

仮に、A社とB社が以下のような自社株買いを発表したとします。このとき、どちらの会社の株価が上がりやすいでしょうか?

<A社>
・発行済み株式数:1,000万株
・自社株買い:20万株(発行済み株式の2%)

<B社>
・発行済み株式数:1,000万株
・自社株買い:1万株(発行済み株式の0.1%)

この場合、当然、A社のほうが株価は上がります。発行済み株式数に対して、自社株買いをする株数の割合が大きいほど、株価への影響も大きくなるのです。そして、理論的にはA社の株価は約2%、B社の株価は約0.1%上がることになります。

このように、自社株買いが発表されたときは、発行済み株式数の何%の株式が買われるのかチェックしておきましょう。

自社株買いを実施する期間

自社株買いが発表されたら、いつ買い付けが行われるのか確認しましょう。通常、自社株買いは数日~数週間かけて行われます。そして、その間は会社からの買い注文が入るため株価は下がりにくいです。

ただ、自社株買いが終了するとその反動で短期的に値下がりすることがあります。そのため、自社株買いの期間には注意しておきましょう。

株式の取得方法

企業は東証などの株式市場から株を買い付けるとは限りません。実際には、取引時間外に機関投資家(保険会社や信託銀行などの大株主)などから買い付けることもあります。

株式市場で買い付ける場合は、継続的に買い注文が入るため、株価は上がりやすいです。一方、取引時間外に機関投資家などから買い付ける場合は、期待したほど株価が上がらないこともあります。

そのため、どのような方法で自社株を取得する予定なのか確認しておきましょう。

自社株買いを行わない「株主軽視の会社」もある

自社株買いは通常「取得する株式の総数:1,000,000株を上限とする」のように発表されます。あくまで「上限」が発表されるので、必ずしもその株数が買われるとは限りません

そのため、極端な話をすると、「自社株買いの発表がされたけど、自社株は1株も買われなかった」ということも起こり得るのです。そして、過去にそのようなことをした企業があります。

以下の図を見てください。これは、某企業が自社株買いの実施期間が終わった日(平成28年12月21日)に発表したものです。赤く囲った部分に注目してください。この企業は「60万株を上限に自社株買いをする」と発表していたにも関わらず、結局1株も買っていないのです。

自社株買いをしなかった例

非常に稀なケースですが、実際にこのようなことが行われているのです。企業にもさまざまな事情があると思いますが、このような企業には「株主軽視」の姿勢が透けて見えてしまいます。

まとめ

  • 自社株買いは、株主還元や経営戦略の一環として行われる。そのため、株主と企業の双方にメリットがある。
  • 自社株買いが発表された場合、「自社株買いされる株数」「自社株買いを実施する期間」「株式の取得方法」を確認したほうがよい。

今回は、自社株買いについて詳しく解説してきました。ファンダメンタルズ重視の株式投資において、自社株買いはとても大きな意味があります。自社株買いが発表されると株価が持続的に上がっていくこともあるため、大きな利益を得るチャンスなのです。