低金利が続く今の世の中では、株式投資でもらえる「配当金」はとても魅力的です。そのため、配当金を目的に株式投資をしている人もいます。

特に、配当利回り(投資金額に対する配当金の割合)が高い「高配当銘柄」であれば、少ない投資資金で多くの配当金がもらえます。そのため、高配当銘柄だけを選んで投資する人もいます。

ただ、配当利回りだけを指標に投資先を選ぶと大損する可能性があります。今回は、その理由を配当性向の観点から解説していきます。この記事を読めば、配当利回りだけに着目することがいかに危険か理解できるはずです。

配当利回りとは

まずは「配当利回り」について復習しておきましょう。配当利回りとは、投資金額に対する配当金の割合のことです。例えば、100万円を投資して3万円の配当金を受け取った場合、配当利回りは3%になります。

配当利回りは以下の計算式で算出することができます。

<配当利回りの計算式>
配当利回り(%)= 1株あたりの配当金(予想金額) ÷ 現在の株価 × 100

日本取引所グループが集計しているデータによると、東証一部および東証二部に上場している企業の平均的な配当利回りは2%弱です(参考データ:日本取引所グループ)。つまり、100万円を投資すれば、配当金として約2万円弱を受け取ることができるのです。

この値はあくまで「平均」なので、なかには異常に配当利回りの高い銘柄もあります。実際、Yahoo!ファイナンスなどの配当利回りランキングを見てみると、配当利回りが7%以上の銘柄もあります。

配当利回りランキング(Yahoo!ファイナンス)


ただ、冒頭に述べたとおり、配当利回りだけを指標にこのような銘柄に投資するのは危険です。その理由を知るためには、配当金についてもう少し詳しく理解する必要があります。

「配当金=株主への利益の還元」である

ここで、配当金についてもう少し理解を深めておきましょう。

株主は株を買うことで、企業にお金を出資しています。企業は出資してもらったお金を使って事業活動を行うことができます。そして、会計上、会社が得た純利益(税金なども差し引いたあとの最終的な利益)はすべて株主のものになります。

そのため、株主は会社が得た純利益を受け取ることができるのです。これを株主還元といいます。

ただ、すべての純利益が株主に配当金として還元されるわけではありません。株主に配当金として還元されるのは純利益の一部です。残りの利益は利益剰余金として会社の純資産に組み入れられ、翌年度以降の事業資金として使われることになります。

黒字企業の純資産は毎年大きくなる

ここで重要なことは、「配当金=利益の一部」ということです。つまり、基本的には儲かっている会社が配当金を出しているのです。そして、利益が増えれば配当金も増え(増配)、利益が減れば配当金も減る(減配)ことになります。

ただ実際は、赤字なのに配当金を出す会社もあります。このような会社は、これまでに蓄積した利益剰余金から配当金を支払っているのです。

しかし、経営状態が改善しない限り、このような会社はいずれ配当金を支払えなくなります。そのため、近い将来、減配したり無配(配当金をなくすこと)にしたりするのです。

このように、配当金は「利益の一部」から支払われていることをしっかりと把握しておいてください。

配当利回りよりも配当性向に着目しよう

ここまで述べてきたとおり、経営状態が悪い会社はいずれ減配したり無配にしたりします。そして、減配や無配のニュースが流れると、株価は高い確率で下がります。そうなると、株主は大きな損失を抱えてしまいます。

このような事態を避けるためには、「配当利回り」だけでなく「配当性向」にも着目して銘柄を選ぶ必要があります。

配当性向とは

配当性向とは、会社が得た利益に対する配当金の割合のことです。配当性向は、以下の計算式で算出します。

<配当性向の計算式>
配当性向(%)= 1株あたりの配当金 ÷ 1株あたりの利益(EPS)× 100

※「1株あたりの配当金」や「1株あたりの利益」は、Yahoo!ファイナンスや証券会社のホームページなどで簡単に確認できます

例えば、1株あたりの利益が1,000円、1株あたりの配当金が200円の企業の場合、配当性向は20%(200円 ÷ 1,000円 × 100)になります。また、配当金を出さない企業の配当性向は0%になります。逆に、利益以上の配当金を出す企業の配当性向は100%を超えます。

まずは、配当性向の計算方法をしっかりと覚えておいてください。

配当性向の目安

上場企業の配当性向の平均は35%前後です。利益の約35%を株主に還元しているので、企業の財務状況としては健全な状態といえます。

ところが、なかには配当性向が100%に近い企業もあります。このような企業には注意しなければなりません

利益剰余金(過去の利益の蓄積)が十分にあり、株主還元を手厚くするために配当性向を高くしているのであれば問題ありません。しかし、利益剰余金が不十分で経営状態が良くない場合、いずれ高い確率で減配することになるのです。

配当性向が高すぎて減配した企業の例

一例として、配当性向が高すぎて大きく減配した企業を紹介します。下図は、その企業の過去の業績を表したものです。

大塚家具の過去の業績-配当性向

「1株あたり利益」と「1株あたり配当金」を見てください。2015年は1株あたり利益の4倍以上の配当金を出しています。つまり、配当性向は400%超です。

また、翌年は赤字なのに「1株あたりの配当金=80円」を維持していました。このときの配当利回りは6%を超えていました

ところが、2017年には1株あたりの配当金を40円に減配しています。この企業には、高配当を維持する体力がなかったのです。さらに翌年には1株あたりの配当金を10円に減配しています。わずか2年間のうちに、配当金は8分の1にまで減配されたのです

そして、このような経営状態や減配に応じて、株価も4分の1以下に値下がりしてしまいました。

大塚家具のチャート

もし、「6%以上の配当利回り」に惹かれてこの企業に投資していたら、大きな損失を抱えたことになります。配当利回りだけを指標に銘柄を選ぶと、このような事態に陥る可能性があります。そのため、配当利回りだけでなく配当性向や経営状態をしっかりと確認するべきなのです。

配当性向が低いからといって悪い会社ではない

先ほど「配当性向が100%に近い銘柄は注意が必要」と述べました。では、配当性向が低い銘柄はどうでしょうか?

結論を述べると、配当性向が低くても「悪い企業」や「株主のことを考えていない企業」というわけではありません

配当性向が低いということは、「儲かっているけれど、配当金は少ししか出していない」ということです。この場合、会社が得た利益は社内に蓄積します。そして、翌年度以降の事業資金に投資されるのです。

特に、上場したばかりの若い企業は配当性向を低くして事業の推進を優先することがあります。このような成長企業は、事業が拡大するにつれて少しずつ配当性向を高くしていきます。そして結果的に、会社の成長と増配がセットになって、株主に大きなリターンをもたらしてくれる可能性があります。

このように、配当性向が低いからといって、決して悪い会社ではありません。成長中の若い企業の場合は、むしろ配当性向を低くして企業の成長を優先したほうが、将来的に株主が得る利益も大きくなるのです。

そして、私自身もこのような成長企業を選んで投資することが多いです。配当性向が低いため、配当金は決して多くありませんが、将来の大きなリターンを期待することができます

まとめ

  • 配当利回りだけを指標に投資先の企業を選ぶと、大きな損失を抱える可能性がある。
  • 配当利回りよりも配当性向を重視して投資先の企業を選んだほうがよい。
  • 配当性向の平均は30~35%である。配当性向が高い企業は、経営状態をしっかりと分析しなければならない。
  • 成長企業の場合、配当性向を低くして事業拡大を優先することがある。

今回は、配当利回りや配当性向について詳しく解説してきました。最後に述べたとおり、「配当性向の低い成長企業」に投資することで、長期的に大きなリターンを得られる可能性があります。あなたもこのような投資を実践してみてはいかがでしょうか?