証券口座には「一般口座」「特定口座(源泉徴収あり)」「特定口座(源泉徴収なし)」の3種類があります。このうち、株式投資をしている8割の人が「特定口座(源泉徴収あり)」を使っています。

特定口座(源泉徴収あり)では、株取引で利益が出るたびに源泉徴収(税金が天引きされること)されるため確定申告の必要がありません。そのため、儲かっているときは非常に便利です。

ところが、運用成績がマイナスになったときには注意が必要です。端的にいうと、年間の取引収支がマイナスのときは確定申告をした方が得です。

この記事では、特定口座(源泉徴収あり)のメリットとデメリットについてまとめています。特に、多くの人が見落としがちな3つのデメリットについては、具体例を交えて詳しく解説しています。

多くの投資家が使っている特定口座(源泉徴収あり)ですが、メリット・デメリットをしっかりと把握している人は意外と少ないです。今回の内容をしっかり理解して、「特定口座(源泉徴収あり)」を使いこなせる投資家を目指してください。

メリット1:儲かっているときは確定申告が不要

特定口座(源泉徴収あり)の最大のメリットは、税金が源泉徴収されるため、確定申告が不要であることです。

株式投資で得た利益(譲渡所得)は課税対象です。利益に対して、所得税15.315%(東日本大震災の復興支援特別所得税 0.315%を含む)と住民税5%を支払う必要があります。

※ 簡略化するため、この記事では税金(所得税+住民税)を「20%」と表記しています

株を売却して利益が確定するたびに、税額(利益×20%)が口座から天引きされます。逆に損失が出れば、それに応じた金額(損失額×20%)が自動で口座に戻ってきます。

天引きも還付も株式を売却したタイミングで自動的に行われるので、とにかく楽です。ただし、還付されるのは年間の取引収支がプラスのときだけです。年間の収支がマイナスのときは、そもそも税金を支払っていないため、還付されることはありません(詳細は後述します)。

また、配当金を特定口座(源泉徴収あり)で受け取るようにしておけば、株取引による損失と配当金との損益通算(利益と損失を相殺すること)を自動でしてくれます。

例えば、株式投資で年間20万円の損失があったとします。上述のとおり、「年間収支がマイナス」なので、4万円(20万円×20%)は還付されません。

一方、年間20万円の配当金があったとします。この配当金には20%の税金がかかるため、4万円が源泉徴収されます。そのため、実際に受け取る金額は16万円です。年間の取引収支がプラスになるかマイナスになるかわからないタイミングで配当金が支払われるため、配当金には必ず20%の税金がかかるのです。

そして年末になると、株式の損失と配当金の利益を自動で損益通算してくれます。今回のケースであれば、本来±0(損失20万円、配当金20万円が同額)であるにも関わらず、配当に対して4万円の税金が天引きされています。そのため、翌年の年初に4万円が特定口座に自動的に還付されるのです。

このように、「特定口座(源泉徴収あり)」では税金の支払いや還付をすべて自動で行ってくれるため、投資家は何もする必要がありません。

メリット2:扶養控除や国民健康保険料に影響しない

特定口座(源泉徴収あり)にはもう一つ見逃せないメリットがあります。

主婦や学生のように、夫(父親)の扶養に入っている人の場合、どれだけ儲かっても夫(父親)の扶養から外れることはありません。たとえ年間で1,000万円儲かったとしても問題ありません。なぜなら、この口座で儲けた分は、夫(父親)の扶養親族等の所得判定に加算されないからです。

扶養から外れないため、夫(父親)は自分の所得から一定の金額(配偶者控除や扶養控除)を差し引くことができます。結果として、夫(父親)が支払う税金を安く抑えることができるのです。

また自営業の人の場合、特定口座(源泉徴収あり)で儲けた利益は本業の所得に上乗せされません。そのため、国民健康保険料の負担額が大きくなることはありません。

このように、特定口座(源泉徴収あり)には、「確定申告が不要」以外にも大きなメリットがあることを理解しておきましょう。

デメリット1:年間の収支がマイナスのときは確定申告をしたほうが得

「株で損失が出れば、それに応じた金額が自動で口座に戻ってくる」と書きましたが、これは年間の運用成績がプラスのとき(=納税しているとき)だけです。年間の収支がマイナスの場合は自動的に還付されないので注意が必要です。

このことについて理解を深めるために、以下の2つのケースを考えてみましょう。

<ケース1>年間3回取引をしたとします

取引 取引の内容 納税額 or 還付金 補足コメント
1回目 20万円の利益 4万円納税 20万円×20%=4万円が自動で天引きされます。
2回目 10万円の損失 2万円還付 10万円×20%=2万円が自動で還付されます。
3回目 30万円の損失 2万円還付 30万円×20%=6万円ですが、6万円が還付されるわけではありません。

自動で還付されるのは2万円です。

3回目の取引では6万円が還付されると思うかもしれません。ところが上述のとおり、年間の取引でマイナスになった分は還付されないのです。あくまで「支払った税金が戻ってくる」と考えてください。

<ケース2>年間3回取引をしたとします

取引 取引の内容 納税額 or 還付金 補足コメント
1回目 30万円の損失 0円還付 税金を払っていないので1円も還付されません。
2回目 10万円の利益 0円納税 10万円×20%=2万円を納税するわけではありません。

ここまでの年間収支は-20万円なので納税は免除されています。

3回目 30万円の利益 2万円納税 30万円×20%=6万円を納税するわけではありません。

ここまでの年間収支は+10万円なので、それに応じた分が徴収されます。

ケース2では1回目の取引で損失を出してしまいました。この時点では税金を支払っていないので、1円も戻ってきません。

2回目の取引では10万円の利益を得ているので、本来であれば2万円を納税します。ところが、1回目の損失と合算すると収支はマイナス20万円なので納税は免除されているのです。

3回目の取引で30万円の利益を得ていますが、2回目の取引と同じ理由で納税額は少なくなっています。ただ、3回目の取引で年間の収支がプラス10万円になるので、この10万円に対する税金2万円が天引きされます。

特定口座(源泉徴収あり)では、これらの計算をすべて自動でやってくれるので非常に楽です。ただ、ケース1のように、年間の収支がマイナスになってしまうと、本来戻ってくるはずのお金が戻ってきません。

そこで重要なのが「損失の繰越控除」と「複数口座の損益通算」です。以下、具体例を交えながら説明していきます。

損失の繰越控除

上述のとおり、配当金を特定口座(源泉徴収あり)で受け取れば、株取引の収支は配当金と損益通算されます。ただ、株取引の損失が大きい場合は、配当金と損益通算しても収支がマイナスになってしまいます。

このとき、確定申告をすれば、損失を翌年以降に繰り越すことができます。

<繰越控除の例>
・ある年の年間収支:-100万円
・翌年の年間収支:+100万円(20万円天引き)

翌年の利益100万円には20%の税金がかかるため、20万円が自動で天引きされています。このとき確定申告をすれば、前年のマイナス100万円と相殺することができます。2年間の収支は±0なので、天引きされた20万円がすべて戻ってくるのです。

損失の繰越控除を利用することで、損失は翌年以降3年間まで繰り越すことができます。ただし、毎年確定申告をする必要があります。

複数口座の損益通算

上述のとおり、株取引の損失と配当金の利益は損益通算できます。同じように、複数の証券口座どうしでも損益通算することができます。もしあなたが2つ以上の証券会社で株取引をしているのであれば、それらの収支を損益通算することで税金を取り戻せる可能性があります。

<損益通算の例>
A証券とB証券の2つの特定口座(源泉徴収あり)を利用していたとします。
・A証券での年間収支:+100万円(20万円天引き済み)
・B証券での年間収支:-50万円

この場合、トータルでは+50万円なので、本来の納税額は10万円です。したがって、確定申告をすればA社の口座から天引きされた20万円のうち、10万円が戻ってきます。

このように、年間の収支がマイナスになったときは確定申告をすることで、払いすぎた税金が戻ってきます。大きな節税効果を生む場合もあるので、特に損失が大きくなったときは必ず確定申告をするようにしましょう。

デメリット2:年間の運用益が20万円以下の場合は税金を払いすぎる

普通のサラリーマンの場合、株式投資で得た利益が20万円以下なら確定申告が不要です。

普通のサラリーマンとは、「一カ所から給与をもらっているサラリーマンで、年収(給与所得+退職所得)が2,000万円以下の人」のことです。

しかし、特定口座(源泉徴収あり)で取引すると、運用益が発生するたびに約20%が天引きされます。最終的に、年間運用益が20万円以下になったとしても天引き済みの税金は戻ってきません。残念なことに、確定申告をしても戻ってこないのです。

そのため、あらかじめ年間運用益が20万円以下になるとわかる場合は、特定口座(源泉徴収なし)を選びましょう。払う必要のない税金の天引きを避けられる上に、確定申告をする必要もありません。

デメリット3:複利効果を得にくい

複利とは、投資で得た利益をそのまま次の投資資金として利用することです。投資資金がしだいに増えていくので、得られる利益も徐々に大きくなっていきます。

このように、投資では利益が利益を生む雪だるま方式(複利)によって、投資効率をあげることができます。ただし、特定口座「源泉徴収あり」の場合は、「源泉徴収なし」に比べて、この複利の効果が得にくいです。以下の具体例を見ていきましょう。

<複利の例>
・投資資金:100万円
・毎月の運用成績:+10%
・3ヶ月間運用し、3ヶ月後に確定申告をします

■源泉徴収あり■
毎月利益に対して20%の税金がかかります。つまり、毎月の運用成績は実質8%です。
そのため、3ヶ月後の残金は 100 × 1.08 × 1.08 × 1.08 = 125.97万 になります。

■源泉徴収なし■
毎月の運用成績は+10%なので、3か月後の残金は 100 × 1.1 × 1.1 × 1.1 = 133.1万円です。

利益33.1万に20%の税金がかかるので、33.1 x 0.2 =6.62万を納税します。
最終的な残金は、133.1 – 6.62 = 126.48万 になります。

「源泉徴収あり」と「なし」を比べてみると、3ヶ月間だけで約0.5万円の差が出ています。運用期間がさらに長くなるとその差額も大きくなります。

このように、「源泉徴収あり」の場合は、複利の効果が得にくいというデメリットがあるのです。言い換えると、運用資金が少ない人は、あえて特定口座(源泉徴収なし)を選択することで効率よく資金繰りができます。

また、「源泉徴収あり」の場合は、心理的なデメリットもあります。株取引において、利益確定は嬉しい行為のはずです。ところが、利益確定のたびに税金が差し引かれて口座の残高が減ります。いつか払う税金であることは私もよくわかっているのですが、利益確定のたびに口座の残高が減ると少し残念な気分になってしまいます。

まとめ

  • 特定口座(源泉徴収あり)を使うと、儲かっているときは確定申告の必要がないため非常に楽である。また、「扶養控除や国民健康保険料に影響しない」というメリットもある。
  • 特定口座(源泉徴収あり)を使っていても、年間の取引収支がマイナスの場合は、確定申告をして節税をしたほうが得である。また、「年間の運用益が20万円以下の場合に税金を払いすぎてしまう」「複利効果を得にくい」などのデメリットもある。